プレゼント

テーマは〝芸術を数式で表現〟絵筆の代わりにマウスとエクセルを使って新しい絵の世界を創り上げた!

私の元気の秘訣
群馬県館林市 エクセル画 堀内 辰男さん

誰でも安く、手軽に絵を描ける道具としてパソコンソフトのエクセルを選びました

堀内さんの〝エクセル画〝作品を紹介!

私は、今月で78歳になりました。左顔面のマヒと白内障という健康面の悩みはありますが、いまは私が生み出した「エクセル画」を描きつづけたい、広めたいという思いを持って充実した毎日を過ごしています。

エクセル画という言葉を初めて耳にする方も多いかもしれません。エクセル画とは、パソコンに入っている汎用ソフトの「Excel(以下、エクセルと表記)」を使って描いた絵のことです。ご存じの方も多いと思いますが、エクセルは表計算用のソフトで、会社の売上推移を示すための表やグラフを作成するときなどに使われているものです。パソコンを使われている方なら、1度は目にしたことがあると思います。

「どうしてエクセルで絵を描こうと思ったのか?」と、よく質問されます。パソコンで絵を描くときは、描画用の専門ソフトを購入して描くのが一般的だからです。しかし、私がエクセルにこだわった理由は、パソコンに必ず入れる汎用ソフトで、しかも安価だからです。「誰もが持っているソフトで、誰もが絵を描ける」のが、大きな理由の1つになっています。絵を描くために高価な専用ソフトが必要だったら、やってみたいと思う人はとても少ないでしょう。

現在は毎週火曜日の午後1時半から3時半までの2時間、地元の公民館を借りてエクセル画の教室を開いています。生徒さんは20人ほどで、60歳以上のご高齢の方がほとんどです。歳を重ねてからも趣味として取り組めるのがエクセル画の魅力です。パソコンを使わない、使ったことがないというご高齢の方でもエクセル画は十分に楽しめます。なぜなら、私自身が60歳の定年退職を機にパソコンを始め、エクセル画を描くようになったからです。

「パソコンで絵を描こう!」と決意したのは、60歳の定年を迎える前のときです。初めて買ったパソコンが家に届いたとき、初心者の私は何をしたらいいのかわかりませんでした。そのときにふと思い出したのが、会社の若い人たちがエクセルでカラフルな図形を描いて資料を作っていたことです。「エクセルを使って絵が描けるかも?」と、ひらめいたのです。

抽象的な世界の絵画を〝数式〟で表すことをテーマにして独自のエクセル画が誕生!

エクセル画の制作画面。オートシェイプ機能を駆使して絵の輪郭を作り上げている

世界中で誰もやったことのない絵画法ですから、しばらくは試行錯誤の連続でした。エクセルの使い方を勉強した後、初めて描いたのは10数年も育てている蘭の花でした。何回も描き直しをして、自分が思い描いたとおりに再現できるまで練習を続けていきました。エクセルを使って絵を描くとき、「絵という情緒的なものを数式で表現したい」という考えです。

私は長年、医療機器や事務機器、文房具などの設計・開発を手がけるエンジニアをしてきました。いわゆる技術屋であり、職人です。大学が理工系で、ずっと技術畑を歩んできた私にとって、芸術の1つである絵画との接点はありませんでした。しかし、高校時代の恩師が私に語った「数学や物理は芸術とはまったく違う。論理的に物事を考えれば数学はできるが、感情的に考えると数学はできない」という言葉がずっと心の中に残っていました。

もう1つ、定年を迎える私にとって大きな存在だったのが、日本地図を初めて作り上げた伊能忠敬でした。50代から全国をくまなく歩き、詳細な日本地図を完成させた彼は、ゼロから偉業を成し遂げた人物といえます。200年以上も前の50代は、現代の50代とは比較にならないほどの高齢です。私が伊能忠敬から学んだのは、「人間はいくつになっても、その気になればなんでもできる」ということでした。「数学と美術は異質」という高校時代の恩師の言葉を覆してみたい、私自身が培った数学的知識で絵を描いてみたいと思ったのが、エクセル画を始めたきっかけかもしれません。

昨年には、内閣府が提唱する「エイジレス・ライフ」の実践者として、エイジレス章をいただきました。エイジレス・ライフとは、年齢にとらわれることなく生き生きと過ごし、いつまでも社会に参加できる生活をいうそうです。

職人は妥協しません。日々精進を重ねながらもっといい作品を生み出していきたい

「何かを始めるのに遅いということはありません」

名誉ある章をいただいたことはありがたいのですが、これが終着点とは思っていません。職人の世界には、「これでいい」という考えはありません。日々精進を重ね、続けていくこと。納得できる作品ができても、「次はもっといいものを作りたい」と考えるのが職人気質です。

私のエクセル画教室に通っている生徒さんの中にも、年齢を気にせず新しいことにチャレンジしている方がたくさんいらっしゃいます。エクセル画はやる気になれば難しいものではありません。

ただ、口に入れたことのない食べ物に対して不安を覚えるように、なかなか一歩前に進むことが苦手な方もいらっしゃいます。「いくつになってもチャレンジしましょう。食べてみたらきっとおいしいですよ」という気持ちを、エクセル画を通して、多くの方に伝えていきたいと思っています。