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鳥取県が誇る二十世紀梨を使った〝梨酢〟で潰瘍性大腸炎の炎症・ただれが改善

ご当地研究最前線
鳥取大学大学院工学研究科教授 斎本 博之/鳥取大学農学部助教 東 和生

梨酢は二十世紀梨から無希釈・無添加で製造

鳥取県は二十世紀梨の国内生産量第1位で、50%以上を占めている

皆さんは、「二十世紀梨」という種類の梨があることをご存じでしょうか。旬は8月下旬から9月下旬、上品な甘みで果汁が多いことが特徴です。海外にも輸出され、最高級品の梨として高い評価を受けています。

二十世紀梨の生産量第1位は鳥取県です。国内生産量の50%以上を占め、年間9000㌧以上が収穫されています。

生産者の悩みの種は、生産量の10%が規格外として廃棄されていることです。廃棄する梨の量があまりにも多く、肥料として使われていたほか、隣の岡山県の焼却場まで運んでいたこともあるほどです。

規格外の梨をなんとかしようと、地元の人々と鳥取大学が共同で研究を重ねて生まれたのが、梨を使った酢「梨酢」です。

リンゴやブドウなどの果実酢は、1度アルコール発酵させて作られます。梨酢も例にもれることなく、昔ながらの製法で醸造しており、1度アルコール発酵させたのちに酢にしています。水で希釈する(薄める)ことも、添加物を加えることもしていません。

梨酢には「ガラクツロン酸」という成分が豊富に含まれています。ガラクツロン酸は、梨酢を作る過程で20世紀梨に含まれる、ペクチンという成分が分解されて生まれます。ほかの果実酢には、ほとんど含まれていない成分です。

梨酢を飲んだマウスの腸内のただれが軽減

梨酢を含んだ水溶液を与えたマウスのグループは腸のただれが改善したが、水しか与えなかったグループとほかの果実酢を含んだ水溶液のグループでは改善しなかった

近年の研究で、ガラクツロン酸に潰瘍性大腸炎を改善する働きがあることがわかってきました。

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜が炎症を起こし、ただれ、びらん(皮膚や粘膜の表皮の一部が欠け、下部組織が露出した状態)、潰瘍(びらんがより悪化した状態)ができてしまう病気です。下痢や血便が起こり、重症になると発熱や体重減少、貧血などの症状が現れます。

欧米人に多く発症し、日本人には少ないと考えられていた潰瘍性大腸炎ですが、近年は国内でも急速に患者数が増加しています。発症の原因も解明されておらず、まだまだ研究が必要な病気です。

私たちの研究グループは、ガラクツロン酸に炎症を抑える働きがあることを以前から知っていました。梨酢にはガラクツロン酸が豊富に含まれているため、炎症を抑える働きがあると考え、マウスを使った実験を行いました。

潰瘍性大腸炎のマウスを3つのグループに分け、1グループには果実酢を与えずに飼育。ほかの2グループは、梨酢を含んだ水溶液と、ほかの果実酢を含んだ水溶液をそれぞれ6日間飲ませました。すると、果実酢を与えなかったグループと、ほかの果実酢を与えたグループでは腸内のただれが改善しなかったのに対し、梨酢を与えたグループではただれが抑制・軽減されていることがわかりました。

炎症がひどくなると高い値を示す血清IL‐6濃度の数値も計測しました。梨酢を与えたグループは果実酢を与えていないグループに比べて低い数値を示し、潰瘍性大腸炎の炎症が改善されたのです。

実験でマウスに与えた梨酢の量を人間が飲む量に換算すると、1日約150㍉㍑程度になります。

梨酢は、まろやかな味わいで飲みやすく、ほかの果実酢と同じように水やお湯などに混ぜて、おいしく味わうことができます。中でも牛乳に混ぜて飲むと、酸味が適度に抑えられ、飲みやすくなります。

潰瘍性大腸炎のマウスに梨酢を与えると、炎症の指標である血清IL‐6濃度の数値が低下した

料理酢として使用することも可能です。熱を加えたり、ほかの飲み物と混ぜたりすることで、有効成分が変質することはありません。気軽に食生活に取り入れることができる食品といえるでしょう。

梨酢に含まれるガラクツロン酸には、軟骨の保護作用があることもわかっています。 軟骨は関節に存在し、骨と骨とのクッションの役割や関節を滑りやすく保つ役割を担っています。梨酢は、関節痛の緩和などに役立つことも期待されます。

皆さんも、さまざまな健康増進作用が期待される梨酢を日々の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。