プレゼント

乳がんや子宮がんの治療後に起こりやすいリンパ浮腫の知識・対策の普及を行う患者会

患者さんインタビュー
全国のリンパ浮腫の患者会 「リンパの会」理事長 金井 弘子さん

リンパ浮腫はがんの手術などで発症し真剣に治療に取り組む医師も少数しかいない

全国のリンパ浮腫の患者会
「リンパの会」
1989年設立。がんの治療後に起こりやすいリンパ浮腫に苦しむ患者さんを支援するための活動を行う。年に1度の総会のほか、機関誌の発行など、リンパ浮腫の正しい知識・対応の普及に努める。入会費は500円、年会費は2,000円。

私たち「リンパの会」は、リンパ浮腫に苦しむ患者さんのための患者会です。1989年の設立当時は、がんの治療において、命さえ助かれば腕や足のむくみなどを我慢するのはあたりまえという時代でした。リンパ浮腫を専門に取り組む医師や医療機関はほとんどなく、病名すら耳慣れないものでした。

リンパ浮腫は、リンパ管になんらかの障害が起こり、リンパ液の流れが悪くなって皮膚の下に水分(組織液やリンパ液など)やたんぱく質が過剰にたまり、むくんでしまう状態です。リンパ浮腫は、さまざまな疾患や外傷、治療の後遺症で発症します。中でも、乳がん・子宮がん・前立腺がんなどの手術によるリンパ節郭清や、放射線・抗がん剤治療の影響によるものが多いといわれています。

症状はさまざまですが、腕や手にリンパ浮腫が起こると力が入らなくなってものを持ちにくくなり、足に起こると歩きづらくなったりひざが曲げにくくなったりして、日常生活に大きな支障をきたします。皮膚の下にたまったリンパ液が毛穴から汗のように出ることもあり、服がびっしょりとぬれてしまうという悩みを抱えている方も少なくありません。

むくみがあっても症状のつらさが伝わりにくいリンパ浮腫は、患者さん本人だけで悩む場合が多いという問題があります。進行すると、皮下組織に炎症が起こる「蜂窩織炎」や、皮膚が硬く厚くなる「象皮病」などの合併症を起こすこともあります。

リンパの会は年に1度総会を開き、リンパ浮腫の正しい知識の普及に努めている

私がリンパ浮腫になったのは、1999年のことです。53歳のときに乳がんで右乳房を全摘したものの、その後は問題なく生活していました。57歳のころ、だんなの仕事の手伝いでいつもより手を使っていたら、右手が急にむくんでものをつかむことができなくなったのです。がんの手術が原因ではないかと推測して、すぐに担当してくれた先生の診察を受けました。

診察を受けると、やはり手術が原因のリンパ浮腫と判明しました。ところが、「この程度のリンパ浮腫は治療するほどのことはない」といわれてしまったのです。現在でも、リンパ浮腫を真剣に取り扱ってくれる医師は少なく、「ようすを見ましょう」と放置される例は少なくありません。

私の右手は日を増すごとに腫れて、生活に大きな支障をきたすようになり、改めてほかの診療所で診察を受けたものの要領を得ませんでした。情報を知る手だてを探していたときに、リンパの会を知りました。

リンパの会は当時、唯一のリンパ浮腫の患者会だったと記憶しています。会員は現在400人程度ですが、当時は北海道から沖縄まで、1000人以上が所属していました。

リンパ浮腫は初期の対応がなにより大切で卒業してもいいのでまずは入会してほしい

リンパ浮腫は初期の対応がなにより大切と話す金井さん

リンパの会は、東京労災病院に入院中のリンパ浮腫の患者さんと、担当医の呼びかけで発足しました。専門家を講師に迎えて年1回の講演会・総会の開催や、講演会の内容や日常生活上の注意点などをまとめた機関誌『ながれ』を年に1回発行しています。

安心してリンパ浮腫の治療が受けられる社会をめざして、リンパの会は健康保険制度改革の必要性などを訴えてきました。ミニ集会や電話相談なども行い、会員相互の交流を目的として『会員通信』を年に3~4回発行しています。

リンパの会の活動で会員の皆さんから最も喜ばれているのが、新しい治療法を知ることです。近年になってリンパ浮腫の治療法は劇的に進歩しています。2016年の総会で多くの方が関心を持ったのが、2000年前後から治療に導入されはじめた、リンパ液の流れをリアルタイムで見ることができる機器を用いた「ICG蛍光リンパ管造影法」でした。

リンパ浮腫の手術は形成外科を中心に行われ、リンパ管と静脈をつなぎ、新しいリンパ管の流れを作るというものです。これまでは手探りの部分も多かったものの、ICG蛍光リンパ管造影法によって、つないだ部分が機能しているかどうかの診断が可能になり、治療の質が大幅に向上したのです。

リンパの会は新しい治療法を報告するだけではなく、治療を受けやすい体制作りに協力していきたいと思っています。

2008年から、弾性着衣の購入が健康保険の適用になりました。弾性着衣とは、リンパ浮腫が生じた部位を圧迫する治療に使用する、上肢用と下肢用がある衣服の形をした医療機器です。健康保険の適用はリンパの会の長年の悲願でした。

リンパ浮腫を取り巻く環境は整いつつあります。とはいえ、いまだに最適な治療を受けることが難しく、今後の課題となっています。

リンパの会は、「ねむの会」(千葉県在住者を対象とした乳がんの患者会)とともに、「ねむの樹」として、2014年2月にNPO法人に認証されました。今後さらに幅広い活動に努めていこうと考えています。

リンパ浮腫の最大の問題は、患者さんが初期の段階で楽観視してしまうことです。過度におびえる必要はありませんが、油断しないように初期から対策を立てることが大切です。極力無理をしないこと、長時間同じ姿勢を取らないことが基本的な対策です。ほかにも初期に取るべき正しい対応を、リンパの会ではていねいにお伝えすることができます。

初期の対応を覚えたら会を卒業してもかまいませんので、リンパ浮腫になったらすぐに、リンパの会に入会することをおすすめします。

全国のリンパ浮腫の患者会「リンパの会」の連絡先は、〒276-0036 千葉県八千代市高津390番地
Tel 090-5333-1094 047-450-6594です。