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耳鳴りはさまざまな原因の難聴を併発しやすく加齢が伴うとめまいも起こりやすい

耳鼻咽喉科
きたにし耳鼻咽喉科院長 北西 剛

耳から入った音は空気の振動として増幅され電気信号に変換されて脳に届く

[きたにし・つよし]——1966年、大阪府生まれ。滋賀医科大学卒業。医学博士。病院勤務を経て、2005年から現職。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会専門医、日本アーユルヴェーダ学会理事、日本胎盤臨床医学会認定医・理事、日本統合医療学会認定医、日本ホメオパシー学会認定医。

耳鳴りは「周囲の音と無関係に耳や頭の中で音が聞こえる自覚がある状態」と定義することができます。耳鳴りの音には「キーン」「ジーッ」「ピーッ」といった金属音やセミの鳴き声、電子音に代表される高音のものや、「ブーン」「ゴー」といった低音のものがあります。

耳鳴りに併発することが多い難聴の原因の1つとして、老化が挙げられます。一般的に聴力の低下を自覚しはじめるのは50~60代といわれますが、実際には聴覚の衰えは20代から始まっています。

耳鳴りや難聴はなぜ起こるのでしょうか。

私たちの耳は「外耳・中耳・内耳」の3つに分かれています。ふだん私たちが聞いているさまざまな音は、空気の振動のことです。まず、空気の振動が外耳道を通って中耳にある鼓膜に伝わります。鼓膜に届いた空気の振動は、耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)に伝わり、振動が20倍以上に増幅されます。音が空気の振動として伝わる外耳から中耳の経路を伝音系といいます。

増幅された空気の振動は、内耳にある蝸牛という器官に届きます。カタツムリのような形をした蝸牛の中にはリンパ液があり、液の揺れを有毛細胞が感知して電気的な信号に変換します。この信号が聴神経(蝸牛神経)を通じて大脳にある聴覚領域に伝えられ、初めて音として認識されるのです。音が電気信号として伝わる内耳から脳までの経路を感音系といいます。

耳の構造と働き

ひとくちに音が聞こえるといっても、伝音系から感音系を経て大脳に至るまで、繊細かつ精密な過程があります。過程のどこかで何らかの障害が起こると、耳鳴りや難聴が起こるのです。

難聴の多くを占める加齢性難聴は、蝸牛の中にあるリンパ液の揺れを感知する有毛細胞の働きと関係があると考えられます。有毛細胞はその名のとおり、ビッシリと毛が生えている細胞で、常に動きながらリンパ液の揺れを感知しています。一般的に加齢性難聴が高い音から聞き取りにくくなるのは、高音を担当している有毛細胞から疲弊してしまうからといわれています。さらに内耳に血流の障害が起こると有毛細胞の働きにも悪影響を及ぼすため、耳鳴りと難聴を併発する人は多いと考えられています。

耳鳴りやめまいは治療薬を開発しにくい症状で生活習慣の見直しも大切

耳鳴りや難聴に悩まされる人は、めまいも起こしやすくなると考えられます。

めまいには主に回転性(グルグル回る)と浮動性(フワフワする)のものがあります。加齢によって内耳そのものの機能が低下することから、平衡感覚の乱れに伴う立ちくらみやめまいを生じやすくなるのです。

医療技術が進歩する一方で、耳鳴りやめまいに対する治療薬の開発はなかなか進んでいないのが現状です。医療技術は、患者さんが異変を感じた部位や臓器を検査し、異変に対処する方法を見つけることで進歩していきます。ところが、耳鳴りやめまいは、あくまでも患者さん本人の自覚的な症状です。検査で異常が見つけにくい病気には対策が取りにくいことも、治療薬の開発が進んでいない理由と考えています。

また、治療薬の開発には通常、動物を使った実験が行われます。例えば、がんの治療薬を開発するときは、実験的にマウスにがんを作って薬の治療効果を見ることができます。

一方で動物は「耳鳴りが起こっています」と訴えてくれません。このように、動物を対象にした基礎的な研究を行うのが難しいことも、治療薬の開発が進まない理由の一つに挙げられます。

実は私自身も、病院に勤務していたときに不安やストレスを抱え、耳鳴りに悩まされた経験があります。耳鳴りやめまいなど、患者さんの自覚に基づいて起こる症状には、さまざまな要因がかかわっていると考えられます。従来の西洋医学のように人間の体を部分的に診るだけではなく、食事や睡眠を含めた生活習慣も診る必要があると考えています。