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口の中の乾きに悩む人は〝ドライマウス〟危険大で口呼吸や早食い、薬の服用者は要注意

歯科
町田北口歯科院長 河内 亮

口内の乾きやネバつき、話しづらさや飲み込みにくさを感じたらドライマウスの危険大

[かわち・りょう]——1967年、東京都生まれ。1995年、昭和大学歯学部卒業。田中歯科西麻布診療所で研修後、大手医療法人病院長を経験。2018年3月より、医療法人社団聖和会副理事長・町田北口歯科院長に就任。嚥下・審美をはじめ、口腔領域のケア・治療全般に精通。インプラント施術指導医、プラトンインプラント認定医、歯周病研究会講師。

私が副理事長を務めている医療法人社団聖和会は、虫歯治療などに代表される一般歯科のみならず、インプラント(人工歯根治療)や噛み合わせ外来など、多くの専門科を併設している医療機関グループです。私たちは、来院される患者さんの治療はもちろん、沖縄県伊江島を舞台にした「虫歯ゼロ運動」、東南アジアの国・ミャンマー政府と共同で進めている予防歯科事業、歯科医院を地域の健康情報拠点にする「歯の健康ステーションプロジェクト」など、さまざまな活動を展開しています。

私たちのグループが行っている活動の1つに「訪問診療」があります。要介護の認定を受けられている方や、病気などで通院が難しい方のご自宅や施設を歯科医師と歯科衛生士が訪問し、口腔内の医療管理を継続して行っています。虫歯や歯周病、口臭、入れ歯の不具合など、患者さんのお口の悩みを解決することによって、健康維持はもちろん、ご家族や介護されている方の負担を軽減するのが目的です。

訪問診療をするさいに私たちがよく感じるのが、患者さんたちの「口の中の乾き」です。今回は、口内の乾きが健康に及ぼす影響について、分かりやすくお伝えしたいと思います。

口の中が乾く症状を、医学的には「口腔乾燥症」と呼びます。一般的には「ドライマウス」と呼ばれることも多く、神奈川県にある鶴見大学など、ドライマウス外来を設ける大学病院も存在します。

河内医師が副理事長を務める医療法人社団聖和会では、歯科衛生士と患者さんのもとを訪れて治療する訪問診療を行っている。

ドライマウスは「さまざまな原因によって唾液の分泌量が減少し、口の中が乾燥する。または、乾燥する自覚症状がある状態」と定義することができます。「口の中がカラカラになる」「唾液が少なくなって口の中がネバネバする」「口の中が乾いてうまく話せない」「食べ物が飲み込みにくい」といった症状がある人は、口の中が乾燥している恐れがあります。

ある欧米の研究では、人口の25%以上の人がドライマウスの症状に悩まされると報告されています。厚生労働省がドライマウスの患者数を調べた調査はいまのところありませんが、国内では800万人以上の人が、口の中の乾きに悩まされていると考えられています。

ミャンマーでの予防歯科事業など、口腔ケアをテーマに積極的な活動を展開している

現在、ドライマウスが起こる原因として考えられているものを挙げてみましょう。

● 加齢
口の中の潤いは唾液によってもたらされます、唾液は耳の下や舌の下にある唾液腺(ドライマウスはさまざまな原因によって起こるの写真参照)から分泌されますが、加齢によって働きが低下すると分泌される唾液の量が少なくなります。

● 口呼吸
呼吸をするさい、口から息を吸ってそのまま口から吐き出す〝口呼吸〟をしている人が増えています。口呼吸をすると口の中が常に空気にさらされるため、乾燥しやすくなります。アレルギー性鼻炎などの持病で鼻が詰まりやすい人は、口呼吸をしていることが多いといえます。

 

● 食事のときによく噛まない
先に触れたように、口の中に潤いをもたらす唾液は唾液腺から分泌されます。唾液腺は「噛む」ことで刺激されて、唾液の分泌が促進されます。歯周病などで歯が抜けてしまった高齢者や、早食いの習慣がある人は噛む回数が少ないことが多く、唾液が分泌されにくくなります。

● 長期的な薬の服用やストレス
唾液の分泌は自律神経の働きによって行われています。ネバネバした唾液(粘液性唾液)は自律神経のうちの交感神経(活動をもたらす神経)、サラサラした唾液(漿液性唾液)は副交感神経(休息をもたらす神経)が優位になると分泌されます。緊張したときやストレスを感じたときに口の中がネバネバするのは、交感神経が優位になっているからです。

長期的に薬を服用している人は副作用としてドライマウスになることがあります。薬の服用による口の中の乾燥は、自律神経のバランスが乱れることで起こると考えられています。

ドライマウスの原因は加齢を筆頭に多岐にわたり加湿や食事など生活習慣の改善が必要

ドライマウスはさまざまな原因によって起こる

● 病気
唾液の分泌機能が低下する病気の1つに、中高年の女性に多いシェーグレン症候群が挙げられます。自己免疫疾患(本来は自分の体を守る免疫が自分の体を攻撃してしまう病気)の1つとされるシェーグレン症候群の症状の1つとして、唾液量の減少があります。その他、シェーグレン症候群の患者さんは、目の乾きが起こるドライアイを併発しやすくなります。糖尿病の患者さんも唾液腺の働きが低下しやすくなるといわれています。

ドライマウスを改善するには、生活習慣の見直しが欠かせません。具体的には、①口の中の乾燥を防ぐために部屋の加湿を心がける、②食事のさいはよく噛んで唾液腺を刺激し、唾液の分泌を促す、③こまめに水を含んで口の中を湿らせる、④薬を服用している人は、薬の量が減らせるかどうか担当の医師に相談する、などが挙げられます。唾液腺を刺激して唾液の分泌を促すマッサージも効果的です。

唾液にはリゾチームやペルオキシダーゼ、ヒスタチンといった、抗菌作用を持つ物質が多く含まれています。ドライマウスの患者さんは乾きによる不快感のみならず、体の抗菌力も低下する恐れがあります。

訪問診療を行っている中でドライマウスの影響を感じるのは、入れ歯を装着している患者さんです。吸盤を壁につけるとき、少しぬらすとよく吸着されるように、入れ歯も歯茎との間に唾液があることで正しく吸着されます。さらに唾液は、歯茎と入れ歯の間で潤滑液の役割も果たしています。ドライマウスの症状が進むと入れ歯が落ちやすくなるだけでなく、歯茎とこすれて痛みを感じるようになります。

入れ歯が正しく使えなくなると、噛む力も衰えていきます。食事のさいに噛む回数が減ることで唾液腺への刺激が弱くなり、唾液が分泌されにくくなる悪循環が生まれてしまうのです。

口から食べられることは大きな喜びで口の中のケアこそ健康を維持するカギ

唾液の量が減少して口の中が乾くと唾液の抗菌作用が働かず、口の中に細菌が増殖するようになります。ミュータンスレンサ球菌が増殖すると虫歯に、歯周病菌が増殖すると歯周病に、さらには口臭や歯の黄ばみの原因にもなります。唾液量が減少して食べ物が飲み込みにくくなると、食べ物が誤って気管に入る誤嚥を招きやすくなります。誤嚥は高齢者にとって命の危険をもたらす誤嚥性肺炎の原因になります。

私たちのグループでは、「口の中のケアこそ全身の健康を維持するカギ」と考えています。一例を挙げますと、Aさん(80代・男性)は、胃ろうを造設して口から食事がとれない状態が続いていました。「口から食べられない」という事実は患者さんの精神面に大きな影響を与えます。食べることが大好きだったAさんは、胃ろうを造設してから毎日、ふさぎ込んでいました。そんなAさんに適切な判断で選択したゼリー食をすすめると、少しずつ口からとることができるようになったのです。「口から食べられる」ことに喜びを覚えたAさんは、舌を動かすリハビリにも積極的に取り組むようになりました。表情にも明るさが戻っていったAさんは、固形食もとれるようになり、ついに胃ろうを外せるようになったのです。

Aさんの回復ぶりは、ご自身の前向きな姿勢も大きく影響していると思いますが、自分の口で食べられる喜びが、生きる力につながることを示すエピソードだと思います。