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肝臓専門医がアドバイス!肝機能値で分かる肝硬変・肝がんの危険度を誌上診断

消化器内科
JA広島総合病院消化器内科部長・肝臓内科主任部長 兵庫 秀幸

早期発見が難しい肝臓病は線維化を測る検査で状態を把握することが大切

[ひょうご・ひでゆき]

1992年、広島大学医学部医学科卒業後、静岡県立総合病院内科、米国アルバート・アインシュタイン医科大学肝臓リサーチセンター、広島大学医学部附属病院第1内科、同大学医学部附属病院消化器代謝内科診療勤務などを経て、2015年より現職。日本内科学会認定内科医・専門医、日本肝臓学会専門医、日本肝臓学会評議員(西部肝)。

胃の右側に位置する肝臓は、体の中で最も大きな臓器です。重さは成人男性では1.5㌔、成人女性では1.3㌔あり、体重の約2%を占めるといわれています。肝臓は解毒や胆汁の生成など、数百もの働きを担っています。

肝臓には、胃や腸で消化・吸収された食べ物の栄養素が血液によって運ばれてきます。肝臓はそれらの栄養素を分解・再合成した後、一部を貯蔵します。栄養素を代謝するさいに生じた有害物質は、毒性の低い物質に作り変えられ、尿や胆汁といっしょに排泄されます。

「沈黙の臓器」といわれる肝臓は、高い再生能力と残された部分が働きを補う代償機能によって、多少の損傷があっても自覚症状が現れにくいことが肝臓病の早期発見を遅らせてしまう原因です。早期発見するためには、血液検査を受けて肝機能がどのくらい低下しているかを把握することが重要です。
 
会社や自治体などで受けられる健康診断で分かる数値も多くあるので、表を参考にしてください。いずれかの検査値が基準値外であれば、あなたの肝機能は低下しているといえるでしょう。

肝機能障害の初期である肝炎は、なんらかの原因によって肝臓で炎症が起こり、肝細胞が壊されている状態のことです。肝炎が長期化すると、肝細胞の壊れた部分が線維に置き換わる「線維化」が起こります。線維化が肝臓の広範囲に及んだ状態を「肝硬変」といい、肝硬変の状態では肝がんを発症する危険度が高まります。

近年、非アルコール性脂肪肝(NAFL)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)をまとめた非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増加しています。近年の研究によって、肝臓の脂肪化や線維化が起こっている患者さんは、糖尿病や脂質異常症、高血圧、高尿酸血症などの生活習慣病を合併しやすく、すでに併存していることも少なくないといいます。糖尿病を患っている場合、線維化が進行しやすいので悪化したNAFLDが潜伏しているおそれがあります。

NAFLDが見つかった場合、肝臓の線維化の進行度合いが寿命に対していちばんの影響を及ぼします。肝臓の線維化を知る方法として、MRエラストグラフィーがあります。MRエラストグラフィーとは、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)を用いて肝臓の硬さを調べる方法です。肝生検のように手術をすることなく、肝臓の線維化の状態を色で把握することが可能になったのです。

線維化を引き起こす慢性肝炎の原因はウイルスが多く脂肪肝による肝硬変も要注意

肝臓の機能に関する主な基準値

肝炎が6ヵ月以上続くと、慢性肝炎と診断されます。慢性肝炎が進行すると、持続的な炎症によって肝臓の細胞が壊れていきます。患者さんによっては肝硬変を経て、肝がんに至ることもあります。慢性肝炎は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの他、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、薬物性肝炎などが主な原因疾患となります。次に、慢性肝炎の原因について解説しましょう。

● B型肝炎
乳幼児や透析患者さんなど、免疫機能の低下している人がB型肝炎ウイルスに感染すると、肝炎が慢性化します。免疫機能が低下しているとウイルスを異物として認識できないため、ウイルスが排除されない場合があるのです。

B型肝炎は長年にわたり、母子間による感染が主な経路でした。しかし、1986年にワクチンによる母子感染の予防対策が取られてからは、出産時の感染がほぼ防げるようになり、患者数は減少しています。

● C型肝炎
C型肝炎ウイルスに感染する主な経路は輸血です。他には入れ墨や医療機関以外での治療器の使い回しなどがあります。C型肝炎の診断が可能になったのは1992年で、以降は主な感染経路であった輸血による感染はほとんどなくなりました。

C型肝炎ウイルスに感染した患者さんのうち、2~4割の患者さんは治療によってウイルスが消えて肝機能も正常に戻りますが、6~8割の患者さんは慢性肝炎に移行します。慢性肝炎になると、ウイルスに感染して20~30年後に肝硬変へ移行し、肝がんを併発するようになります。

● アルコール性肝疾患
肝臓の主な働きの一つに、有害物質の解毒があります。有害物質の中でも、アルコールが肝臓に悪影響を与えることはよく知られています。

アルコール性肝疾患は、①肝機能に異常がある、②アルコール以外に肝障害の原因がない、③過度な飲酒が認められる、以上の条件を満たすことによって診断されます。アルコールが原因の肝臓病は、多くがアルコール性脂肪肝を経て、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変へと進行します。炎症を伴わずに線維化が起こることもあります。

● 非アルコール性脂肪性肝疾患
偏った食生活や運動不足によって中性脂肪が肝臓に蓄積し、肝細胞の5%以上に脂肪が沈着している状態を「脂肪肝」といいます。脂肪肝は、長年にわたって良性の疾患と考えられていました。ところが、最近の研究によって脂肪肝にも肝硬変や肝がんに進行するタイプのあることが分かってきています。

現在、過度な飲酒をせず、ウイルスや自己免疫性肝疾患など、肝障害を起こす原因がないにもかかわらず、肝硬変や肝がんと診断される患者さんが増加しています。NAFLDやNASHは、肥満に代表されるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を背景に発症する肝疾患です。肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症などを合併するほど発症するリスクが高くなります。NAFLからNASHに進行する背景には、酸化ストレスやインスリン抵抗性(高インスリン血症)、肝臓内の鉄の代謝異常などの多くの要因が関与していると考えられています。

青い部分は正常な肝臓の部分。一方で、赤い部分は線維化が進んでいて、肝硬変、肝がんと悪化する可能性がある
写真提供:横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室・中島 淳主任教授

慢性肝炎が進行して肝細胞の線維化が進んだ状態が肝硬変で、肝臓全体がゴツゴツした石のように硬く小さくなります。肝機能の異常を放置した結果、肝硬変になってしまう慢性肝炎の患者さんは、30年前後で4人に1人の割合になります。重度の肥満(BMI40~45以上)を併存する場合は、5年前後で肝硬変に至るケースがあります。

肝硬変は血液検査と画像診断、組織検査によって診断できます。肝硬変は、「チャイルド・ピュー分類」を用いて重症度を調べます。

肝硬変の病期は「初期~中期」と「末期」の2つに分けられます。初期~中期の肝硬変は「代償性肝硬変」と呼ばれ、肝機能の一部が残っていて自覚症状はほとんどありません。一方、末期の肝硬変は「非代償性肝硬変」と呼ばれ、肝臓が十分に働かなくなって、黄疸・浮腫・腹水・意識障害(肝性脳症)・食道静脈瘤などさまざまな合併症を引き起こす状態です。合併症の中でも深刻なのが、食道静脈瘤、肝性脳症、腹水の3つです。

線維化の悪化で起こる肝硬変は深刻な合併症を招き食道静脈瘤は突然死の危険も伴う

肝硬変はチャイルド・ピュー分類を用いて重症度を調べる。肝機能値を判断する数値や腹水、肝性脳症といった合併症の状態、血液が固まる時間を示すプロトロンビン時間を総合的に見て判断する
国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センターのHPより作成

肝臓が硬くなり、小腸や大腸からの血液が流れ込む血管(門脈)の圧力が高くなると、食道や胃の周りの静脈が膨らみます。これが静脈瘤です。風船のようになった静脈瘤は破れやすく、破裂すると出血を起こすため、吐血や下血が見られます。出血の程度によっては生命に危険が及ぶこともあります。

肝機能が低下すると、毒素を分解する力も弱くなります。毒素が血液中にたまって脳の働きが低下すると、肝性脳症が起こります。重度の場合、痛みに鈍感になったり、昏睡状態に陥ったりします。

腹水はおなかに水がたまった状態です。肝硬変になると血液中のアルブミンというたんぱく質が低下することや、線維化が進行して血液が肝臓に戻りにくくなり、滞った血液がしみ出ることにより腹水が出現します。重症の場合、数日でおなかがパンパンに張ることもあります。腹水が進行すると肺との境界にある横隔膜を押し上げて肺が膨らみにくくなるため、息切れを感じることもあります。

私が強く伝えたいことは、肝臓病の治療は自助努力が肝心だということです。肝臓病は自覚症状を感じたときには、すでに非代償性肝硬変にまで進行していることが少なくありません。そのため、人間ドックや血液検査で肝機能の低下が指摘された場合は、一度肝臓専門医がいる病院で精密検査を受けることをおすすめします。肝臓の再生能力や代償機能に甘えることなく、積極的に節酒や食事・運動管理をすることで、肝臓病はもちろん他の病気の予防・改善にもつながるでしょう。
 

この記事は「健康365」2019年9月号に掲載されています。