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慢性腎臓病を悪化させる二大原因は高血圧と高血糖で透析導入原因の4割は糖尿病

糖尿病・腎臓内科
駒沢腎クリニック院長 中村 良一

成人の8人に1人が慢性腎臓病で高血圧や骨粗鬆症、心疾患などの合併症に要注意

[なかむら・りょういち]——1982年、東邦大学医学部卒業。医学博士。東邦大学大橋病院、国立療養所東京病院(現・国立病院機構東京病院)、日産厚生会玉川病院、虎ノ門病院分院勤務などを経て、1989年、日産厚生会玉川病院透析科医長。1995年より現職。日本循環器学会循環器専門医、日本透析医学会指導医、日本腎臓学会指導医、日本抗加齢医学会抗加齢専門医。

慢性腎臓病(CKD)は、すでに国民病といえるほど患者数が増えている病気です。日本腎臓学会の発表によると、現在、国内における慢性腎臓病の患者数はおよそ1330万人と推測され、成人の8人に1人が該当します。そのうち、積極的な治療が必要な腎臓病患者さんは、約600万人に上るといわれています。

慢性腎臓病が末期の腎不全まで進行し、透析治療を受けている患者さんは約33万人もいます。透析を導入すると、毎日の生活における患者さんの負担は心身ともに大きくなります。

腎臓は「1度機能を失ったら2度と取り戻せない臓器」といわれています。慢性腎臓病のほんとうの恐ろしさは、進行とともに起こりやすくなる合併症にあります。腎機能が低下して、水分の排泄能力が滞ることで起こるむくみも合併症の一つです。その他、腎機能の低下によって赤血球が作られにくくなると貧血が、血圧の調整ができなくなると高血圧が、ビタミンDを活性化できなくなると骨粗鬆症が起こる危険性が高まります。

腎臓には200万個もの糸球体があり、動脈から入った血液をろ過し、尿のもと(原尿)を作る。原尿は必要に応じて再吸収され、不要となった尿は膀胱にためられる

さらに、近年の研究によって、慢性腎臓病の患者さんは、脳卒中や下肢動脈の狭窄・閉塞の合併率が高まることも分かっています。特に末期腎不全の患者さんは動脈硬化(血管の老化)が深刻で、亡くなる原因の第1位が心疾患です。

慢性腎臓病と診断されるのは、次の①②のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いた場合です。
①たんぱく尿検査で1+以上
②糸球体ろ過量(GFR値)が60未満

腎臓の重要な働きの一つが、血液のろ過です。たんぱく尿検査は、腎臓のろ過機能が正常かどうかを調べるために行われます。ろ過機能に異常があると、本来ならば体内にとどまるべきたんぱく質が尿中に漏れ出てしまいます。

たんぱく尿検査と血清クレアチニン値から分かる推算糸球体ろ過量(eGFR値)で、腎機能の状態は6段階に判定できる

たんぱく尿は、濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」の6段階があります。正常範囲は「-」「+-」で、「+」の数字が大きくなるほど、尿に含まれるたんぱく質の濃度が高く、腎臓のろ過機能が低下していることを示します。

糸球体ろ過量は、1分間にすべての糸球体によってろ過される血漿量のことです。糸球体は腎臓内の細い血管(毛細血管)が網の目のように絡まっている器官で、送り込まれた血液をろ過し、尿のもと(原尿)を作ります。糸球体ろ過量の数値を調べるには、血清クレアチニン値をもとに推測する計算法を用いて、推算糸球体ろ過量(eGFR値)を算出します。

クレアチニンとは、筋肉中の成分が代謝されてできる老廃物のことです。通常、クレアチニンは、常に一定の量が尿として排泄されています。クレアチニンが正常に排泄されているかどうかの指標が、糸球体ろ過量です。

慢性腎臓病の病期は、糸球体ろ過量の数値によって、G1~G5までの6段階に分けられます(G3はaとbに区分け)。糸球体ろ過量を調べるには複雑な計算が必要ですが、日本腎臓学会が作成した「糸球体ろ過能力早見表」を用いて性別・年齢・血清クレアチニン値を当てはめれば、腎機能の状態を知ることができます。

慢性腎臓病の最大原因は糖尿病で糖毒物質AGEが血管に深刻な炎症を引き起こす

駒沢腎クリニックで血液透析を受けている患者さん60人を対象とした調査。透析患者さんは健康な人と比べて体内に蓄積したAGEの量が多いことが分かった

腎機能を低下させる重大な原因として、高血圧と高血糖が挙げられます。高血圧によって高い圧力がかけられた血管は、全身で動脈硬化が進みます。血管の中でも、特に高血圧の影響を受けやすいのが毛細血管です。毛細血管の塊といえる腎臓内の糸球体も例外ではありません。

動脈硬化の進行に伴って糸球体の機能が低下すると、正常な糸球体に過剰な圧力がかかるようになります。過剰な圧力がかかった糸球体は障害が進み、さらにろ過機能が低下するという悪循環につながるのです。

腎機能を低下させるもう一つの原因は高血糖です。高血圧と同じように、高血糖の状態が続くと糸球体の障害が進みます。その結果、動脈硬化が進んで、腎臓は血液を十分にろ過できなくなります。現在、新たに人工透析を導入する患者さんの約4割は、糖尿病が原因(糖尿病腎症)となっています。

中村医師は、腎臓に悪影響を及ぼす存在としてAGEを挙げている

高血糖によって糸球体の障害が進むのは、体内のたんぱく質と糖が結びついてしまうことが原因といわれています。アマドリ化合物と呼ばれるたんぱく質と糖の結合物は、最終的に「AGE(終末糖化産物)」という物質になるという意見があります。

AGEは「糖毒物質」とも呼ばれる悪玉物質で、血液中に増えると、体を構成するたんぱく質を糖まみれにして炎症を起こしたり、機能を低下させたりします。AGEが特に悪影響を及ぼすのは、腎臓の糸球体を構成している毛細血管です。

AGEの影響を受けやすい毛細血管が集中しているのは腎臓だけではありません。目の網膜(カメラのフィルムに当たる部分)がAGEの影響を受けると、糖尿病網膜症を引き起こします。他にも、AGEは白内障・脂肪肝・骨粗鬆症・脳卒中・心臓病・認知症・がんといったさまざまな病気の発症に関係していることが分かっています。

通常、血液中のAGEは小さい分子に分解された後に腎臓でろ過・排泄されますが、一部は分解されずに糸球体の周辺に蓄積すると考えられます。蓄積したAGEによって腎臓の組織が傷つけられ、腎機能が低下していくのです。

糸球体ろ過能力早見表(男性用)

AGEの生成を抑えるには高血糖の改善と食事からの摂取を控えることが大切

腎機能が低下すると、AGEを排泄する能力はますます低下し、さらに腎機能が失われる悪循環が生まれます。腎機能をほぼ失った透析患者さんは、AGEの蓄積量が健康な人に比べて多いことも、私たちの調査によって判明しました。

腎機能を維持するには、高血糖を改善してAGEの生成を抑える必要があります。さらに、AGEは高血糖によって体内で作られるほか、飲食物にも含まれています。飲食物に含まれるAGEをとると、約1割は腸から吸収され、そのうち3分の2が体内に蓄積されるといわれています。AGEは分解されにくいので、できるだけ飲食物から摂取しないことが重要です。

糸球体ろ過能力早見表(女性用)

AGEがたくさん含まれている食品は、揚げたり焼いたりして焦げ目がついた料理や、電子レンジを使って調理したものです。ホットケーキやトースト、空揚げ、ステーキ、焼き鳥など、こんがりとキツネ色に焼き目のついた食品には大量のAGEが含まれています。清涼飲料水にも注意が必要です。清涼飲料水に含まれている果糖や人工甘味料も、AGEを作り出すことが分かっています。

私がおすすめしているのは、食べる順番を変えることで、食後血糖値の急上昇を抑える方法です。炭水化物(糖質)より先に、繊維質の多い野菜やキノコ類、海藻などを食べることで、食後血糖値の上昇が緩やかになり、AGEが作られにくくなるのです。

さらに、血糖値の急上昇を抑えるには、食事にかける時間も大切です。かき込むような早食いも血糖値を急上昇させる要因なので、よくかんでじっくりと時間をかけて食べるといいでしょう

AGEは、腎臓だけでなく、体のさまざまな臓器や器官を老化させる悪玉物質です。腎機能を低下させないためには高血糖に注意し、AGEを含む飲食物をとりすぎないようにしましょう。