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あなたの〝腎臓寿命〟が簡単に 分かる!クレアチニン値から 透析導入時期を誌上診断

糖尿病・腎臓内科
原泌尿器科病院腎臓内科医師 吉矢 邦彦

透析時期の予測は数値を記したグラフを作れば一目瞭然で治療への意欲も高まる

[よしや・くにひこ]——1980年、東京慈恵会医科大学卒業。小野市民病院、神戸逓信病院(現・神戸平成病院)、神戸大学医学部附属病院勤務を経て、1996年より現職。日本腎臓学会専門医・指導医・評議員、日本透析医学会認定医・指導医。日本小児腎臓病学会、国際腎臓学会などに所属。

腎臓は、機能がいったん損なわれると、多くの場合は元に戻りません。慢性腎臓病(CKD)が進行して腎不全の状態になると、血液透析や腹膜透析といった人工透析、あるいは腎移植などの腎代替療法が必要になります。

慢性腎臓病の治療は、残っている腎機能をできるだけ長く維持して腎代替療法までの期間を延ばすことが目標になります。慢性腎臓病と診断された患者さんは、積極的に病院で治療を受けながら、腎臓に負担をかけない日常生活を心がけることが大切です。

慢性腎臓病の治療として、最も多くの患者さんに行われるのが食事療法です。慢性腎臓病の患者さんは、腎臓への負担を減らすために、食事療法と一生つきあっていくことになります。ところが、食事療法は塩分やたんぱく質をはじめ、さまざまな制限があるため、患者さんにとって大きな負担となります。

食事療法の継続を妨げる最大の要因が、慢性腎臓病の特徴の1つである自覚症状の乏しさです。深刻さを実感できないことからつい制限を緩めてしまうので、慢性腎臓病の患者さんは食事療法が長続きできないことが少なくないのです。

私は、深刻さを自覚しにくい慢性腎臓病の患者さんたちに、「透析予測グラフ」を作ることをおすすめしています。透析予測グラフを作ることで腎機能の状態を認識し、透析導入までの猶予期間を把握することができます。グラフから治療効果を確認することで、患者さんのやりがいにもつながります。食事療法や病院の治療に積極的に取り組むことで、透析導入時期を延ばすことは可能です。自覚症状のない慢性腎臓病は、治療を受けても効果を実感する機会があまりないのが実情です。透析予測グラフを作ることで、体感はなくても治療効果が一目瞭然になり、患者さんの意識が高まると感じています。

透析予測グラフの描き方は簡単です。鍵を握るのが、血液検査で測るクレアチニン値。クレアチニン値は、腎機能の検査に使われる指標の1つです。クレアチニンは筋肉で作られる老廃物のことで、ほとんどが腎臓の糸球体でろ過されて排泄されます。そのため、血中のクレアチニン値の上昇は、糸球体のろ過機能が低下していることを示します。

クレアチニン値の基準値は、男性が0.6~1.1㍉㌘、女性が0.4~0.7㍉㌘です。一般的に、クレアチニン値が5㍉㌘を超えると数値の改善が難しくなり、8㍉㌘を超えると人工透析の導入が検討されます。クレアチニン値は筋肉量に比例するので、女性より男性が高値になる傾向にあります。

積極的に治療に取り組めば透析導入までの期間を延長できグラフが水平に近づく

縦軸がクレアチニン値の逆数[1÷クレアチニン値]で、横軸は測定日時。縦軸の0.125の値が、透析導入の目安となるクレアチニン値8㍉㌘を示している。グラフの推移と0.125の位置を確認することで、透析導入までの期間を予測できる

これまで多くの慢性腎臓病の患者さんの診察に当たってきた私は、クレアチニン値に関する膨大なデータを集積・分析することで、患者さんが人工透析を導入する時期を予測しています。予測に必要なのは、6ヵ月以上の期間に4回以上測定したクレアチニン値のデータです。

4回以上測定したクレアチニン値から透析予測グラフを作るには、パソコンの表計算ソフトであるエクセルを利用すると便利です。エクセルの使用が難しい場合は、方眼紙でも代用できます。

透析時期の予測のグラフを見てください。縦軸がクレアチニン値の逆数、横軸が測定日時です。クレアチニン値の逆数は[1÷クレアチニン値]で計算します。例えば、クレアチニン値が2.5㍉㌘の場合、その逆数は[1÷2.5=0.4]となります。

一般的に、クレアチニン値は腎機能の低下に伴って高くなっていきます。クレアチニン値の逆数をグラフ化すると、右肩下がりの線が現れます。エクセルを使っている人は、数字を入力後、近似曲線の機能を活用してください。

縦軸の0.125の値が、透析導入の目安の1つであるクレアチニン値8㍉㌘です。0.125の位置と、クレアチニン値の入力によって現れた線の傾きで、透析導入までの残り期間が予測できます。

複数の患者さんの人工透析導入時期の予想グラフ。適切な治療や食事療法を行うことでクレアチニン値の悪化が緩やかになり、腎機能が維持されるようになる

患者さんにとって、人工透析の導入は人生の大きな転機といえます。透析予測グラフは、導入後の人生設計をするうえで、大きな助けとなるでしょう。

透析予測グラフを作った患者さんの中には、透析導入までの猶予期間が予想以上に短いことが分かり、落ち込んでしまう人もいるかもしれません。透析予測グラフは、あくまで予測にすぎません。食事療法などを徹底し、適切な対応をすれば、人工透析の導入までの期間を延ばすことは十分に可能なのです。

適切な治療で透析時期は延ばせるのグラフは、私が診察した慢性腎臓病患者さんたちの透析予測グラフです。治療開始の線を境界にしたグラフの変化に注目してください。塩分・たんぱく質・カリウムを減らす食事療法を徹底し、処方薬の服用といった治療を受けた患者さんは、右下がりだったグラフの傾きが緩やかになったのです。中には水平に近い線を描けるようになった患者さんもいます。クレアチニン値の上昇が緩やかになって、腎機能の維持に成功している例といえます。

私が診察した患者さんのデータを平均してみると、人工透析導入までの時間を約17ヵ月も延長できています。1度失われた腎機能は回復しないものの、適切な治療を受ければ残された腎機能を維持することは十分に期待できるのです。

透析予測グラフを作成して経過を見るときに注意してほしいのが、クレアチニン値が急激に変化したときの対応です。例えば、カゼや肺炎、胃腸炎などにかかると、クレアチニン値が急上昇することがあります。さらに、医薬品の中には、クレアチニン値を上昇させる成分を含むものもあります。クレアチニン値が急に上昇したときは、医師に相談して原因を確かめるようにしてください。

慢性腎臓病の患者さんが透析予測グラフを作ると、数値の維持という大きな目標ができます。病院での治療や食事療法に積極的に取り組む意欲がどんどん湧いてくるはずです。「グラフの傾きを水平に近づける」といった、具体的な努力目標を設けるとよりいいでしょう。

上に透析予測グラフを作るための専用シートを用意しました。実際にグラフを作成してみましょう。

慢性腎臓病の治療の基本は、食事療法に根気よく取り組むことです。地道な努力を重ねることで、人工透析の導入を先延ばしにすることは十分に可能です。人工透析を導入しても、積極的に治療と食事療法に取り組めば、生存率を高めることができることも分かっています。

何事も完璧を目指すと、長続きしないものです。確実にできることを1つずつ増やし、長く継続することが腎機能を守る秘訣といえるでしょう。