参宮橋脊椎外科病院院長 大堀 靖夫
脊柱管狭窄症は黄色靭帯の肥厚・たるみが原因で前傾姿勢で症状が軽快
腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)の医療技術は、日進月歩の勢いで進化しています。体に負担の少ない内視鏡を用いた手術も広まりつつあり、1週間程度で退院も可能になってきました。とはいえ、手術をせずに痛みやしびれを改善できたり、日常生活を送れたりすることができれば、それに越したことはありません。この記事では、脊柱管狭窄症を悪化させない、あるいは改善するためのポイントをお伝えします。
背骨は24個の椎骨が首から腰まで積み重なって構成されています。背骨を通るトンネルを「脊柱管」と呼び、脳からつながる神経の束と血管、椎骨と椎骨をつなぐ黄色靭帯が通っています。
脊柱管狭窄症は神経を収めている脊柱管が、前方からは椎間板などの突出、後方からは黄色靭帯の肥厚やたるみ、横からは椎間関節の骨棘(軟骨が骨化したトゲ状の骨)で狭くなった状態を指します。脊柱管が狭くなると、その中を通る神経や血管が圧迫されるため、足腰に痛みやしびれが生じます。脊柱管の狭窄を緩める方法としておすすめなのが、前かがみの姿勢です。
脊柱管狭窄症にはいろいろなタイプがありますが、最も多いのは黄色靭帯が肥厚したり、たるんだりして脊柱管を狭めてしまうタイプです。脊柱管の後方にある黄色靭帯は、ゴムのように脊椎をつないでいます。前かがみになると、分厚くなったりたるんだりした黄色靭帯が引き伸ばされるため、脊柱管が数㍉程度広くなります。逆に、背中を反らすと、黄色靭帯がゆるんで厚くなり、前方に張り出すため脊柱管が狭くなって痛みやしびれが増悪します。
ただし、注意が必要です。脊柱管狭窄症の痛みやしびれを軽減させる方法としては前かがみの姿勢がおすすめですが、背骨には大きな負担がかかります。圧迫された椎間板がすり減って、腰椎椎間板ヘルニアを引き起こしてしまうこともあるのです。また、骨粗鬆症を併発している人は圧迫骨折を起こすことも少なくありません。圧迫骨折によって背骨が変形すると、脊柱管狭窄症がさらに悪化する悪循環に陥るおそれがあります。
脊柱管狭窄症と診断された患者さんの多くは、腰痛にも苦しんでいます。腰痛自体は、同じ姿勢を長時間取りつづけると発症・悪化しやすくなります。前かがみの姿勢がらくだからといってずっと同じ姿勢を取っていると、腰痛が悪化したり、ほかの病気を引き起こしたりしてしまいます。脊柱管狭窄症と診断されたら、まずは姿勢を見直すことが大切です。痛みやしびれを感じる際は前かがみの姿勢で休むようにしましょう。
脊柱管狭窄症の患者さんは、イスに座っているとらくな場合が多いのも特徴です。背もたれ付きのイスなどでしっかりと深く座り、背筋がまっすぐになる座り姿勢がいいとされています。この座り方は腰椎の前弯(前に向かって弯曲している状態)が保たれて、姿勢の維持に重要なコアマッスル(脊柱から骨盤周辺の体幹を支えている筋肉群)の1つである多裂筋が活動している状態です。そのため、姿勢が安定して脊柱管狭窄症の症状がらくになります。背もたれと間が空く場合は、クッションなどを背中と背もたれの間に入れて座ることをおすすめします。
一方で、腰で座るような背中が曲がった状態では、腰椎が後弯(後ろに向かって弯曲している状態)となるため、脊柱起立筋が伸びて疲労しやすくなります。また、足を組んで座る姿勢は控えましょう。なぜなら、長時間足を組んでいると腰がねじれつづける状態となり、片側の脊柱起立筋が筋肉疲労を起こしてしまうからです。足を組まなくても座りっぱなしの姿勢はよくありません。30分に1回は腰を伸ばしたり、立ち上がって少し歩いたりしましょう。
重い物を持ち上げると腰に負担がかかっ狭窄症が悪化するため小分けにする工夫が重要
脊柱管狭窄症と診断されたら、重い物を持つのは避けてください。重い物を持つと腰に大きな負担がかかり、症状の悪化につながります。重い物を持たなければいけない時は、周囲に頼んだり、荷物を小分けにして運んだりしましょう。どうしても重い物を持たなければならない時は、荷物に近づいてしゃがみ、荷物におへそをくっつけた後、立ち上がりながら持ち上げると腰にかかる負担を減らせます。
普段から運動を心がけるのも重要です。運動することによって足腰の筋肉や骨が強化されるため、腰にかかる負担が軽減します。私がおすすめするのは、軽い散歩です。朝と夕方の1日2回程度、それぞれ20分くらいを目安に大股で歩くようにしましょう。長く歩けないという人は、10分ごとに休んでもかまいません。
脊柱管狭窄症の患者さんに特に伝えたいのは、ご自身の症状の程度を知ることの大切さです。脊柱管狭窄症は60歳以上に多く見られる疾患ですが、症状や程度は人それぞれです。手術が必要なほど悪化していて、座り方の改善やストレッチをしても痛みやしびれが軽快しにくいこともあります。ただ、多くの方は座り方の改善やストレッチを日常生活に取り入れることで、症状が快方に向かって今よりも健康的な生活を送れるでしょう。