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脊柱管狭窄症の薬物療法は鎮痛・血流改善が中心で腎機能障害などの副作用には要注意

整形外科
東邦大学医療センター大森病院整形外科教授 高橋 寛

痛みやしびれに鎮痛薬は有効だがめまいや眠気、腎機能障害などの副作用が起こりやすい

[たかはし・ひろし]——1988年、東邦大学医学部卒業。医学博士。2012年より現職。日本脊椎脊髄病学会指導医・評議員、日本脊髄障害医学会評議員、日本内視鏡低侵襲脊椎外科学会幹事、東日本整形災害外科学会評議員、日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄病医・内視鏡下手術・技術認定医・リウマチ医、日本内視鏡外科学会技術認定医。

腰部脊柱管狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう(以下、脊柱管狭窄症と略す)の治療は、大きく分けると「保存療法」と「手術療法」があります。保存療法には、薬物療法・理学療法・運動療法・神経ブロック療法があり、これらを患者さんの状態を見ながら組み合わせて治療を行います。比較的症状が軽い患者さんは、保存療法だけでも十分に症状をコントロールすることができるため、多くの人が保存療法で生活の質(QOL)を維持しています。

ただし、保存療法では、狭くなった脊柱管を広げることはできません。あくまでも対症療法のため、足腰の痛みやしびれといった症状を軽減することが目的になります。

薬物療法の分野では、医学の進歩から、脊柱管狭窄症の患者さんに向けた新しい薬が出てきています。足の痛みやしびれなどを訴える患者さんに処方する薬は、神経障害性疼痛とうつう緩和薬と呼ばれるプレガバリン(リリカ)やミロガバリン(タリージェ)です。これらの神経障害性疼痛緩和薬は、興奮した神経から過剰に放出される痛みの信号を抑制することで、痛みやしびれを和らげます。副作用として、めまいやふらつき、眠気があり、3人に1人の割合で起こります。

プレガバリンやミロガバリンを服用する場合、1日300㍉㌘が標準の用量ですが、患者さんには50㍉㌘前後の少量から服用してもらうことがほとんどです。患者さんによっては少量でも副作用が起こるため、待合室で眠ってしまう患者さんも少なくありません。特に高齢の患者さんは副作用が起こりやすく、標準量まで処方できるのは50歳以下の患者さんばかりです。

次に検討される薬は、オピオイド鎮痛薬というトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合薬(トラムセット)です。オピオイドは麻薬性鎮痛薬と呼ばれ、モルヒネに類似した作用がある物質です。トラムセットは、脳神経系のさまざまな部位にあるオピオイド受容体(センサー)に作用し、神経伝達物質を減らすことで痛みを和らげます。

オピオイド鎮痛薬には、副作用として便秘や吐き気があります。便秘が悪化して2週間たっても排便ができなくなる患者さんや、1錠飲んだだけですぐに吐き気に襲われる患者さんがいます。8錠まで増量が可能とされていますが、副作用を覚えた患者さんは別の薬を検討することがあります。

薬物療法は足腰の痛みやしびれを軽減させることが目的。副作用を伴うことがあり、医師にいまの体調を伝えて服用することが大切

3番目に検討される薬は、非ステロイド性抗炎症薬であるNSAIDsエヌセイズです。NSAIDsは、炎症を起こすプロスタグランジンという物質の産生を抑制することで痛みを鎮めます。痛みに対して即効性はあるのですが、腎臓じんぞうに負担をかけるおそれがあります。プロスタグランジンは胃腸や腎臓の血流を促す作用があるため、産生が抑制されることで血流量が減少して障害が起こるようになるのです。

60歳以上の患者さんは加齢とともに腎機能が低下し、慢性腎臓病(CKD)を患っている方も少なくありません。慢性腎臓病の一つの指標であるeGFR値(推算糸球体しきゅうたいろ過量)が50以下の患者さんがNSAIDsを服用すると、腎機能がさらに低下するおそれがあります。服用する期間が2~3週間であれば問題は少ないものの、3ヵ月以上も服用する場合は腎機能の低下が起こりやすいので、注意が必要です。

プレガバリンやミロガバリン、オピオイド鎮痛薬、NSAIDsを服用して副作用が起こってしまった患者さんには、アセトアミノフェン(カロナール)の処方を検討します。アセトアミノフェンは脳の痛みに対する感受性を低下させる作用がある薬ですが、他の鎮痛薬に比べて痛みの軽減が見られにくい傾向にあります。

軽度の痛みやしびれに悩んでいる脊柱管狭窄症の患者さんには、血流改善薬であるプロスタグランジンE1(オパルモン)が選択されます。プロスタグランジンE1は患部の血流を促進させるため、足腰の痛みやしびれを改善する働きが期待できます。

鎮痛薬は処方された適用量を守ることが大切で効果がない場合は別の治療を検討

 

薬物療法による副作用は個人差が大きいため、起こってしまった場合は我慢せず、主治医に症状を伝えることが大切です。痛みの軽減具合や副作用の程度を医師に伝え、適切な薬を処方してもらいましょう。

患者さんによっては、脊柱管狭窄症の痛みやしびれに耐えられず、適用量以上に鎮痛薬を服用してしまう方が少なくありません。私の患者さんの中には、激痛が起こるたびにNSAIDsを服用し、結果的に上限の2倍の量を服用している患者さんがいました。薬の服用量を誤ることは腎機能の低下につながるため、どんなに痛みが強くても適用量は守るようにしてください。

薬物療法を行っても、痛みやしびれをまったく感じずに済むようになることはありません。薬物療法の適用期間は、3ヵ月程度です。鎮痛薬を3ヵ月以上服用しても痛みやしびれが改善しない場合は、神経ブロック療法や手術療法を検討してもらいましょう。

この記事は「健康365」2019年11月号に掲載されています。