まるやまファミリークリニック院長 丸山 哲弘
冬は腎動脈の血流が悪化しやすく腎静脈は東洋医学の「瘀血」が進んで腎機能に悪影響

私が院長を務めるまるやまファミリークリニックは、長野県飯田市にあります。地域に根ざした医療を心がけている私は、お子さんからお年寄りまで、幅広い世代の患者さんを対象に治療を行っています。患者さんのあらゆる症状や病気に対応できるよう、私は現在、50を超える専門医・指導医の資格を持っています。資格を生かしながら西洋医学だけでなく、東洋医学の観点も踏まえた総合医療を行っています。
私が所属している学会の一つに、日本腎臓学会があります。腎臓は私たち人間にとって重要な臓器の一つで、腎機能の低下は命に関わります。この記事では、腎臓という臓器と腎機能の低下がもたらす危険性について解説しましょう。
腎臓の主な働きとして、血液をろ過して老廃物や余分な水分を体外に排泄する機能が挙げられます。そのほか、体内のミネラルバランスや血圧の調整・血液を作るホルモンの分泌・骨の形成に関わるビタミンDの活性化といった働きもあります。体内でさまざまな働きを担っている腎臓は、人間が生命活動を行うための「司令塔」とでもいうべき重要な臓器といえるでしょう。
腎臓は背中側の腰の上に左右一個ずつあり、大きさはレモン一個分、重さは150㌘程度です。左右それぞれが、血液が流れ込む腎動脈、血液を運び出す腎静脈、尿を膀胱に運ぶ尿管とつながっています。腎臓の表面は硬い皮膜と厚い脂肪で覆われ、大切に守られています。
一つの腎臓にはネフロン(腎小体)と呼ばれる小器官が、約100万個も集まっています。ネフロンは、毛細血管が網目状に絡まっている糸球体と尿細管から構成されています。糸球体は細かい目のふるいのような構造をしており、心臓から腎臓に流れてきた血液をろ過しています。

糸球体の機能が低下すると、血液を十分にろ過できなくなります。そのため、体の外に排泄されるべき老廃物が体内にとどまってしまい、尿毒症を起こす危険性が高まります。さらに、腎機能の低下が慢性化する慢性腎臓病を発症してしまうと、貧血や骨粗鬆症、心筋梗塞などの心血管疾患をはじめとするさまざまな合併症を引き起こすようになります。さらに、慢性腎臓病が末期まで進行すると、腎機能を補うために透析治療(人工透析)や腎移植を受けなければならなくなるのです。
糸球体は毛細血管の塊といえるため、血流や血圧の影響を大きく受け、ひいては腎臓の機能に多大な影響を及ぼします。冷えや運動不足が起こりやすい冬は、腎機能が低下しやすい季節といえます。まずは、西洋医学の観点から解説しましょう。
寒さによって手足の先にある末梢血管で血流障害が起こり、指先が紫色になったという経験はないでしょうか。寒さを感じると体温の発散を防ごうとするため、全身の血管が収縮します。心臓の動脈である冠動脈といった大きな血管も寒さで血管攣縮(血管の異常収縮)が起こりやすくなるため、腎臓の動脈である腎動脈も同様だと考えられます。
東洋医学の観点からも解説しましょう。東洋医学には「瘀血」という概念があります。瘀血は血液の流れが滞った状態、もしくは滞った血液そのものを指します。瘀血が起こる原因の一つが「冷え」で、瘀血は静脈に起こりやすいとされています。静脈内を流れる血液は栄養や酸素量が少ないため、腎静脈に起こった瘀血による血液の停滞が腎臓の細胞に負担をかけて、腎機能の低下を招くのです。
運動不足になりやすい冬は、筋肉が持つ血液のポンプ機能が低下して、瘀血が一段と悪化しやすくなります。女性は子宮があるため下腹部に瘀血が起こりやすく、冷えにはより注意が必要です。
冬の寒さのほかに血流を悪化させる要因として見逃せないのが、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病です。糖尿病や高血圧症は全身の血管に動脈硬化を引き起こします。腎臓の血管も例外でなく、糖尿病や高血圧症の進行に伴って糸球体の機能が低下し、慢性腎臓病が悪化します。
糖尿病や高血圧症の改善には、運動が欠かせません。運動は瘀血の改善にもつながるため、冬でも無理をしない程度の運動に取り組みましょう。