帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
50歳を過ぎると、「五十肩」といわれる肩関節を中心とした痛みが現れるとともに、運動障害や日常生活に支障が出てくる人が少なくありません。「五十肩」は一般的な総称で、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれています。文字通り、肩関節の周囲に炎症をきたす五十肩は、50代に多く発症するといわれますが、40~60代にも多く見られるなど、中年以降の代表的な肩関節疾患といえます。
五十肩は、肩関節を中心とした運動療法をはじめ、薬物療法などによって改善することが可能です。しかしながら、進行すると肩関節の拘縮などにより、肩の可動性が極端に悪くなる場合もあります。
五十肩の特徴として、加齢に伴って起こる軟骨・靭帯・腱などの炎症や、肩関節の周囲に筋肉の萎縮が起こります。また、運動不足や肩を冷やすことによる血液循環の悪化などからも、五十肩を発症する場合があります。
五十肩の症状は、急性期・慢性期・回復期に分けられます。急性期では、運動時痛だけでなく、安静状態や夜間にも痛みが起こります。急性期は痛みが激しいため、肩を動かす範囲が極端に狭まります。また、肩関節を動かさないことにより、さらに症状が悪化します。急性期の症状は、発症してから2週間前後に起こるとされています。
慢性期に移行すると、肩の痛みは徐々に治まっていきますが、肩の可動域はまだ狭い状態が続きます。一般的に、慢性期の期間は約6ヵ月程度です。その後、回復期に入ると肩関節周囲の可動域が徐々に回復していきます。年齢や肩の状況にもよりますが、五十肩の改善には約1年前後かかるともいわれています。
続いて、慢性期から回復期に行う「五十肩向けのストレッチ体操」をご紹介します。
【振り子体操】
①片手をテーブルなどにつき、上半身をやや前かがみにします。
②もう一方の片手を「だらっと」垂らし、そのまま前後に10~20回、振り子のように振り上げて戻します。これを1セットとして計5セット行います。
③無理がなければ、円を描くように動かしましょう。
④痛みがない場合は、500㍉㍑のペットボトルを持ち、少し肩に負荷をかけると筋力アップにつながります。ひと昔前は、アイロンをペットボトルの代わりに使用していました。そのため、当時は「アイロン体操」と呼ばれていました。
【肩上げ体操】
①イスに座って姿勢を正し、両手を体側に垂らします。
②肩をゆっくりと上げていき、耳のほうに近づけながら、首をすくめるようにします。
③首をすくめた状態で、五秒間保持します。この動作を5~10回、計5セット行います。首から肩までの筋緊張がほぐれて、肩周囲の血行を促します。
五十肩に効果のあるストレッチ体操とともに、ツボ刺激もあわせてご紹介しましょう。
最初のツボは「肩井」です。首を前に倒した時に出てくる骨と肩先を結んだ中央部にあります。この部分を中指から小指まで垂直に引き下ろすように押します。5秒間5回を1セットとし、計3セット行ってください。押す力は、指の爪の色が白くなる程度が目安です。
二つ目のツボとして、「肩髃」をご紹介しましょう。腕を真横に上げた時、肩上部に二つのくぼみが現れます。その二つのくぼみのうち、前側にあるくぼみが肩髃のツボです。このくぼみの部分を人さし指から小指まで押し込んでください。肩井と同じように、5秒間5回を1セットとして計3セット行いましょう。押す力も同様に、指の爪の色が白くなる程度が目安です。
● 由来
【肩井】「肩」は肩部を指し、「井」はくぼみが深いという意味があります。肩にあり、ツボの深部にある胸隔は「井戸」のように深い空洞であるという場所の特徴から命名されました。肩井は肩部の「気」が出入りするところといわれています
【肩髃】「髃」は骨と骨の間の隙間の意味で、肩甲骨と同じ意味といわれています。肩甲骨と上腕骨のくぼみにあることから名づけられました
● 効能
【肩井】五十肩、肩こり、頸肩腕症候群、頭痛、自律神経失調症、冷え症など
【肩髃】五十肩、肩関節痛、頸肩腕症候群、皮膚炎、湿疹、じんましんなど