帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
コロナ禍の影響により、パソコンを使って仕事をするリモートワークが普及する一方、目を酷使する人が増えています。特にパソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を長時間使用すると、目の疲れ、いわゆる「眼精疲労」が起こります。
近くを見る作業(近業作業)を長時間続けると、目の疲れだけでなく、目の痛みや頭痛、肩こり、腰痛も起こるようになります。さらに眼精疲労が深刻になると、悪心や嘔吐を起こす場合もあり、仕事を続けられなくなることも少なくありません。
ひと口に眼精疲労といっても、主に以下の種類が挙げられます。
①調節性眼精疲労…遠視・乱視・調節機能不全など、過度の調節(ピントを合わせる)を必要とする状態。長時間、度数の合っていない眼鏡を使用している場合などに起こります。
②筋性眼精疲労…外眼筋(眼球を動かす6つの筋肉から構成)のバランスが取れていない場合に起こります。眼精疲労がひどくなると、手術が必要になる場合もあります。
③症候性眼精疲労…結膜炎、角膜炎、睫毛乱生(逆さまつげ)、緑内障の初期など、眼疾患がある場合に起こります。
④不等像性眼精疲労…両眼に著しい視力の差がある場合(右目1.5、左目0.5など)に起こる眼精疲労です。
⑤神経性眼精疲労…過労やストレス、神経症などが原因で起こる眼精疲労です。精神的に不安定な状態ゆえに近業作業が継続できない、心因性要素が強く加わった場合に起こります。
次に、眼精疲労の原因になりやすい、最近の生活環境を挙げてみましょう。
● 無理な姿勢や長時間にわたる細かい作業
● 照明・騒音・室温・換気状態などの環境要因
● IT(情報技術)化が急速に発達して、VDT機器(パソコンやスマートフォンなど)の画面を注視しつづけることで起こる眼症状
● パソコン機器から発せられる磁場(磁気)の問題
● 小・中学生時代からのテレビゲームやスマートフォン使用による近視化傾向
続けて、眼精疲労の予防法をご紹介します。
①目の疲れを軽減させる眼球体操
・ 眼球を上下に動かします(6~7回)
↓
・ 眼球を左右に動かします(6~7回)
↓
・ 眼球を大きくぐるりと回します。右回り、左回りともに行います(4~5回)
②眼窩(目のくぼみ)を押す
親指の腹(指紋のある部分)を上に向けて眼窩の上側に当て、息を強く吐きながら押し込んで刺激します。これを5秒間で3回、計3セット行ってください。そのとき、眼球を手で直接押し当てると危険なので注意してください。
次に、眼精疲労に対して効果がある「陽白」「光明」のツボをご紹介しましょう。
ツボ刺激では、「陽白」に人さし指と中指の指腹でツボ部分を押し当てながら、円を描くように5秒間押し当てて刺激します。これを5回、計3セット行ってください。
次に「光明」のツボですが、外くるぶしからひざに向かって親指の腹で押し上げると、指が止まるところがあります。その部分に指を押し当てると、「ズーン」と感じる部分が「光明」のツボです。
「光明」のツボも「陽白」と同じように、親指を押し当てながら円を描くようにして、左右交互に5秒間押し込んで刺激します。これを5回、計3セット行ってください。
「光明」のツボは、老眼(老視)にも効果のあるツボです。私の恩師の先生が、ある患者さん(当時35歳)に対して週1回、「光明」のツボに鍼治療を施したところ、55歳まで老眼の進行を防ぐことができたそうです。眼精疲労のみならず、老眼に悩まされている方も「光明」のツボ刺激を試してみるといいでしょう。
● 由来
【陽白】明るい光を「白」といいます。ものがはっきり見えない、暗闇でものがぼやける、目の痛みやかゆみなどの症状にこのツボを使うと、陽光が目にさすほどはっきりとものが見えるようになることから名づけられた
【光明】「目に光を与えて改善する」という由来から名づけられた
● 効能
【陽白】眼精疲労、充血、眼瞼痙攣、眼瞼下垂、前頭部痛、顔面神経マヒ、三叉神経痛、副鼻腔炎(蓄膿症)など
【光明】肩こり、眼精疲労、老眼、夜盲症、ひざ痛、下肢運動マヒ、乳房痛など