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最高峰の医学的根拠に基づいた[肝炎体操]で脂肪肝・肝線維化が改善しがんの抑制も期待

消化器内科

久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科部門 主任教授 川口 巧

肝炎体操の実践で脂肪肝や肝線維化が改善しがん予防にも期待できると話題

[かわぐち・たくみ]——1995年、久留米大学医学部卒業後、同大学大学院修了。医学博士。米国・テキサス大学留学、久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門助教・講師・准教授を経て、2022年より現職。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会評議員・指導医・専門医、日本肝臓学会評議員・指導医・専門医、日本臨床栄養代謝学会評議員・専門医、日本病態栄養学会評議員、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。

線維化せんいかした肝臓が元気になる——。肝臓病の患者さんにとって、まさに夢のようなことが起こる方法をご存じでしょうか。私たち久留米くるめ大学の研究チームが取り組んでいる「肝炎体操」は、メタ解析という研究方法で最高峰の医学的根拠に基づいて考案された運動プログラムです。肝炎体操は、脂肪肝や肝臓の線維化を改善することが認められています。

私たち久留米大学の研究チームが注目しているのが「マイオカイン」という物質です。マイオカインとは、筋肉から分泌ぶんぴつされるホルモンやペプチドといった物質の総称で、脂肪を分解する働きがあります。運動、特に筋収縮が強いレジスタンス運動(筋肉トレーニング)により筋肉からマイオカインが分泌されることで、脂肪肝が改善すると考えられます。マイオカインの中には、がん細胞を殺したり、免疫を強化したりする働きを持つものもあります。

肝炎体操は次の6つの動きがあります(下図参照)。

1 足踏み

足踏みは筋肉トレーニングをする前のウォーミングアップとして有効です。


①足をこぶし2個分開いて立つ
②その場で腕を振りながら太ももを床と平行になるくらいまで上げて足踏みをする


ポイントは腕を大きく振ることです。全身の筋肉を使うことができ、体がより温まりやすくなります。

2 お辞儀

お辞儀は、背骨から腰骨にかけて骨の中心部を縦に細長く走っている脊柱起立筋せきちゅうきりつきんという筋肉を鍛える運動です。


①足を肩幅に開いて立ち、腕を胸の前で交差させる
②ひざを軽く落とし、体をゆっくりと前に90度の位置まで倒していく
③ゆっくりと①の状態に戻す


ポイントは、下を向かないことです。下を向くと猫背になってしまい、脊柱起立筋を刺激できません。そのため、お辞儀をする時は、顔を上げて前を見るようにしましょう。

3 タオルプルダウン

タオルプルダウンは広背筋こうはいきんを鍛える運動です。


①足を肩幅に開いて立つ。両手でタオルを持ち、ばんざいをするように両手を上げる
②わきを閉じるようにひじを下ろし、タオルを首の後ろ近くまでゆっくりと引く
③ゆっくりと①の状態に戻す


ポイントは、タオルを引く時に肩甲骨を引き付けながら行うことです。肩甲骨を引き付けることで、広背筋により刺激が加わって筋肉を鍛えられます。また、手をばんざいのように上げるのが難しい場合は、手を真っすぐ前に伸ばしてからゆっくりと胸に引く動作でも同様に広背筋を鍛えることができます。

4 スクワット

スクワットは殿筋でんきん大腿四頭筋だいたいしとうきんを鍛える運動です。

①足を肩幅に開いて立ち、腕を胸の前で交差させる
②ゆっくりとひざを曲げながらおしりを落とす
③ゆっくりと①の状態に戻す

スクワットの際にバランスを崩して転倒するおそれがある人は、イスを使った立ち座りでもかまいません。その際は、イスにドスンと座るのではなく、ゆっくりとお尻を落とすと効果的に筋肉を刺激できます。

注意点は、お尻を落とす時にひざが爪先つまさきよりも前に出たり、内股にならないようにすることです。筋肉に刺激が伝わりにくく、効果が減少してしまいます。ひざの位置や向きを意識しましょう。

5 爪先立ち

爪先立ちは、下腿三頭筋かたいさんとうきんと呼ばれるふくらはぎの筋肉を鍛える運動です。

①足を肩幅に開いて立ち、イスの背もたれに手を置く
②ゆっくりとかかとを真っすぐに上げて爪先で立つ
③ゆっくりと①の状態に戻す

注意点は、爪先で立つ時の重心です。小指に重心がかかった状態で行うと捻挫ねんざするおそれがあります。そのため、親指の付け根に重心を置いて爪先立ちをしましょう。

6 ストレッチ

ストレッチは爪先立ちで鍛えたふくらはぎの筋肉の柔軟性を高めて血流をよくします。

①イスの背もたれに手を置き、足は「気を付け」の状態でそろえる
②右足のひざを伸ばしたまま後ろに引いてかかとをつけた状態を維持し、ゆっくりとふくらはぎを伸ばす
③右足を①の状態に戻し、反対側の足も同様に行う

ポイントは、かかとは浮かさずにひざを伸ばすことです。反動をつけて行うと筋損傷を招くおそれがあるため、同じたいせいを維持しましょう。

ひざが悪くてウォーキングができない脂肪肝の患者さんが肝炎体操を1日10分間、1年間毎日行ったところ、体操開始前は肝臓の硬さの指標であるFIB-4フィブフォーindexインデックスが高い〝危ない脂肪肝〟でしたが、1年後には正常値まで低下しました。

また、患者さんに10分間の肝炎体操を試してもらい、その前後の血液を検査したところ、マイオカインの1つで、がん細胞の増殖を抑制する効果があるフラクタルカインの値が全例で体操後に上昇。わずか10分間の運動でも健康増進に役立つホルモンが分泌されることを証明しました。肝炎体操によって肝臓が元気になり、健康長寿をかなえる人が増えることに貢献できればこれに勝る喜びはありません。