プレゼント

私が発明した「VED」は、砂漠化や食糧問題を解決する〝地球の薬〟です

ニッポンを元気に!情熱人列伝

金沢大学名誉教授 代表取締役社長 染井 正徳さん

自身のアトピー性皮膚炎をはじめ、がんなどの難治性疾患を改善するために、薬学の道に進んだ金沢大学名誉教授の染井正徳さん。研究の末にたどりついた2つの発明が、地球規模で注目されています。〝地球の薬〟と表現する「ソムレ」と「VED」についてお話を伺いました。

食糧増産と温暖化を防ぐ植物根伸長剤の開発が世界各国で注目される

[そめい・まさのり]——1941年、千葉県生まれ。1965年、東京大学薬学部卒業。1970年、東京大学大学院博士課程修了。薬学博士。1975年、カリフォルニア大学バークレイ、博士研究員。1976年より、金沢大学助教授、教授を経て、2007年より現職。2012年、ソメイヤッコ(薬壺)研究所を起業。日本薬学会、日本化学会、有機合成化学協会、日本農芸化学会などに所属。日本薬学会奨励賞、地球温暖化防止活動環境大臣表彰などを受賞。

「私は、太平洋戦争直後だった幼少時に苛酷な食糧難を経験しています。約80年を経た現在、世界中の人々が食糧難の問題に直面しています。私が続けてきた研究で、地球規模の危機といえる食糧問題を解決したいと真剣に思っています」

そのように熱く話すのは、金沢大学名誉教授でソメイヤッコ研究所所長の染井正徳そめいまさのりさんです。薬学博士として30年以上、薬学の分野で研究を続けてきた染井さんが2005年に開発したのが、有機化合物の植物根伸長剤「ソムレ」でした。

「ソムレには植物の根の長さを伸ばす働きがあるんです。農業作物の生育を促すだけでなく、砂漠の緑化や黄砂を止めるのにも役立ちます。現在、ソムレはインドや中国、アフリカ諸国で活用され、食糧増産と地球温暖化防止の面で大きな結果を出しています。2017年にはソムレの研究開発が評価されて、地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞しました」

世界的に評価されている染井さんの研究は、ソムレだけにとどまりません。ソムレとほぼ同時に開発した有機化合物「VEDベツド」も高い評価を受けています。染井さんがVEDを開発したきっかけは、難治性の皮膚疾患とされるアトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略す)にあったといいます。

アトピーの原因としてさまざまな要素が関与しますが、アレルギーを引き起こす物質が皮膚の細胞を刺激し、炎症を招くことで発症します。また、アトピーの肌は、かゆみを感じる神経が皮膚の表面まで伸び、かゆみを感じやすい状態になっています。かきむしりによって皮膚に傷ができ、さらにアレルギーの原因物質が入りやすくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

砂漠の緑化事業への貢献が評価された染井さんは、地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞した

厚生労働省の調査によると、現在、全国で125万人以上の患者さんがアトピーのかゆみに苦しんでいるといわれます。染井さんも、学生時代からずっとアトピーの症状に苦しんでいたそうです。

「アトピーの壮絶な苦しみは、かかった本人にしか分かりません。あらゆる治療を受けてもかゆみを和らげることは難しく、夜中に何度も目が覚めてしまいます。アトピーを克服するために、医師を目指そうと思ったこともあるくらいです」

アトピーの撲滅をかなえるために医師の道を志した染井さんですが、「医師になっても、私一人がられる患者さんの数は限られる。アトピーを改善する画期的な物質を発見すれば、救える患者さんの数は無限大になる」と考え直し、薬学の道を選んだといいます。1976年に金沢大学薬化学研究室で薬学の研究を始めてから30年後の2005年、ついに世界でただ一つの物質「VED」の開発に成功したのです。

染井さんが開発したソムレは、砂漠の緑化に活用されている

30年間の研究から完成に至ったVEDはアトピーや薄毛に有効

染井さんが生涯をかけて開発を目指した「VED」とは、どのような物質なのでしょうか。

「私はアトピーに対する有効性を持った成分を研究する過程で、VEDを含む複数の化学式を想定していました。この化学式を持つ物質を化学的な手段で作ることができたかもしれませんが、私は人体内に存在する物質から作り上げたかったんです。人体内に存在するさまざまな物質を想定した化合物を検討しましたが、可能性を秘める物質にたどりつくまで、ずいぶん時間がかかってしまいました」

30年という膨大な年月をかけて染井さんがたどりついたVEDは、イランイランノキなどのバンレイシ科の果実に含まれるアシルトリプタミンという成分と同じ構造を持っています。バンレイシ科の果実は、インドネシアやタイで、昔から食べられている植物です。染井さんは、食品として展開することも考えたそうですが、まずは自分の肌に塗ってみたそうです。

「VEDを含む化粧品の効果は想像以上でした。塗った瞬間にアトピーのかゆみと痛みが軽減して、1週間後にはかきむしってできた傷が治まっていたんです。皮膚科で治療を受けても変わらなかったアトピー肌が改善したことで、大きな手応えを得ました」

VEDの養毛効果は抜群で、ヤギのみならず、人間に対する試験でも確認されている

VEDの実力に確信に近いものを感じるようになった染井さんは、食品としての使用を前提に安全性の研究を行いました。中国・内モンゴルで飼育されているヤギに食べさせて安全性を確かめることにしたのです。その結果、VEDはアトピー以外にも有効であるという予想以上の結果にたどりつきました。

「4年間にわたって、衣類の原料として知られるカシミヤのヤギにVEDを配合した飼料を食べさせました。すると、ヤギの毛量が20~70%も増え、毛質も向上したのです。この結果に驚いた私は、VEDの育毛作用にも期待を寄せるようになりました」

その後、染井さんは秋田大学と共同でVEDの育毛作用に関する研究を開始。実験用のマウスに1日2回、VEDを塗布とふしたところ、発毛促進効果を発揮することが分かりました。さらに、脱毛が見られる男性10名を対象に1日1回、頭部に塗布する試験を行ったところ、63%の確率で発毛促進を実感したのです。試験参加者の約3分の2が「塗布前と比べて髪の毛が太くなった」「枝毛が少なくなった」と感じたことで、VEDは人間に対しても発毛促進作用を発揮することが明らかになったのです。

ソムレとVEDで農業・畜産分野の生産力向上を目指す

驚異的ともいえる、VEDの実験結果は続きます。

「さらに確かめられたのは、VEDの繁殖を促す作用です。VEDを配合した試料を食べさせたヤギは養毛だけでなく、発情を促して繁殖力を高める働きが強くなっていました」

当時、ヤギの妊娠率は1〜2割と低いものでした。ところが、飼育場にいた雄ヤギにVEDを試したところ、90頭の雌ヤギ全頭が妊娠し、生まれたすべての子ヤギが元気に生育しました。通常の2倍以上という繁殖率に、染井さんはあらためて大きな手応えを感じたそうです。

VEDは、イランイランノキなどのバンレイシ科の果実成分と同じ構造を持っている

「私は、植物根伸長剤のソムレを開発して以降、中国の内モンゴルからモンゴルに広がるゴビ砂漠の緑化計画に取り組んでいます。ソムレは類いまれな植物根伸長剤であると自負していますが、ソムレを使って緑化計画に取り組んだとしても、ヤギが草を根こそぎ食べ尽くしてしまう問題がありました。とはいえ、ヤギの繁殖と生育は、現地の人の生命線です。少数のヤギでも繁殖力を高めることができるVEDが普及すれば、ヤギに食べられる植物の総量が減り、緑化計画が進展する可能性があります」

さらに、染井さんはVEDがヤギに対して養毛作用を発揮する点に注目。毛量と品質を確保する目的で使用すれば、現地の人たちの収入を維持しつつ、ヤギの飼育頭数を減らすことができます。その結果、ヤギによって砂漠の草が食べ尽くされることがなくなり、ひいてはゴビ砂漠の緑化にもつながると考えているそうです。

「VEDがヤギだけではなく、ウシやブタといった家畜の繁殖力を高められれば、畜産分野にも革命が起こります。ソムレで植物性食品の生産力を向上させ、VEDで畜産の生育力を高めるのです。私は、ソムレとVEDの二つの発明が〝地球の薬〟になると信じています」

VEDが地球だけでなく、人間の健康に対しても画期的な改善策になると話す染井さん。内モンゴルにおけるヤギでの実証をもとに、人に対しても育毛・増毛作用や不全に対する働きが期待できるそうです。世界的な規模で食糧問題や地球環境問題が深刻化する現在、染井さんが手がける「ソムレとVED」の今後に注目です。