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がん克服のカギは多くのがん克服者に共通する「考え方」と「食事」にあり

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央

がん克服者への調査で最も影響があったのは「考え方」、次いで「食事」「治療法」「家族」と判明

[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催して活動中。一般社団法人日本先進医療臨床研究会代表理事(臨床研究事業)、一般社団法人ガン難病ゼロ協会代表理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

「がんの克服に最も影響があったことは何だと思いますか?」——これは以前、インターネット上でがん患者さん向けに代替医療や生活習慣のアドバイスを行う医師を中心とした医療者の会「eクリニック」で行われたアンケートの質問です。がん克服者87名を対象にして最も影響があった項目を1つだけ選んでもらった結果、圧倒的に多かったのは「考え方」でした。

がんになったとき、「その事実をどう受け止め、どのように考えるのか」「がんを克服するため、いまの自分をどう変えていけばいいのか」——こうした「考え方」がいちばんのカギだと、実際にがんを克服した多くの人々が答えているのです。そのうえで「自分の体は自分で治す」と決意し、がんを克服するための情報収集に努め、自分の意思で治療法を選び、選んだ治療法に真剣に取り組むという自立心を持った人にがんを克服している人が多いという結果が判明しています。

ちなみに、アンケート結果の第2位は「食事」、第3位は「治療法」でした。多くのがん克服者が「考え方」を重視し、「治療法」より「食事」を上位に挙げているのは非常に興味深い点です。実は、「西洋医学の祖」といわれるヒポクラテスも、中国医学で「最上の名医」とされる上医じょういも、昔から同じことをいっています。「食事を薬としなさい。手術や薬は最後の手段だ」と。

1990年以降、がん死亡率を減少に転じさせた米国や欧州などの先進国でも、がん治療の現場では「食事」や「栄養」を非常に重視しています。米国に学び、1998年に日本で初めて栄養サポートチーム(NST)を導入した現・日本静脈経腸栄養学会理事長の東口髙志ひがしぐちたかし先生は、次のように語っています。

「米国では『栄養摂取は医療行為の基本中の基本である』と医師も患者も認識しています。米国の病院には、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・臨床検査技師・運動療法士など、栄養管理の専属チームが用意されています。そして、がん患者をはじめとする多くの患者さんの体力改善、免疫力強化、副作用軽減、治療の質の向上などに尽力しているのです」

それに対し、日本では患者さんの栄養サポートを行うNSTを他業務と切り離して専属で設置している病院は、いまのところ非常に少数しかありません。現在、日本国内では4分の1にあたる約2000病院でNSTが設置されていますが、そのほとんどは他の業務との併用で多忙を極めながら栄養管理を行っています。そのため、米国のように患者さんの栄養管理を専門の医療チームが専業で行うのは非常に難しい状況といわざるをえません。

さらに、日本の医師や医療従事者の多くは、栄養摂取に関して一般人並みの知識しか持ち合わせていません。その理由は、日本の医学教育では栄養学の講義がほとんどなく、また医師免許に更新制度がないためです。治療後に「もう何を食べてもいいですよ」などと、治療予後や再発予防に対して適切とはいえない、栄養管理の重要性を損なうような発言をする医師が多いのは非常に困った状況です。

日本のこうした医療現場の状況は、国民皆保険制度の弊害でもあるのではないかと考えています。日本の保険制度では、科学的に効果を証明できない事柄に対して点数をつけることが非常に難しいからです。食事や栄養の効果は検査や薬などと違って判然としないため、これまで点数をつけることは難しかったのでしょう。外来での食事栄養指導は、2016年度の診療報酬改定でようやく保険点数がつくようになりましたが、検査や治療に比べて決して十分とはいえません。

そのため、日本では栄養管理に対して、積極的に行う雰囲気になっているとはお世辞にもいえません。先進国で重要視されている食事と栄養が日本では軽視されているという事実と、先進国の中で日本だけががんの死亡者と死亡率が増加しているという事実の間には大きな相関関係があるのではないでしょうか。

ところで、多くのがん克服者は食事療法だけでなく、医師や医療従事者と相談して同時に複数の治療法を実施しています。ただし、日本の病院には「混合診療禁止」というルールがあるため、病院の医師が外部の治療法をすすめることはまずありません。しかし、患者さんはそんなルールに縛られる必要はありませんし、自分にとって最良の治療を受ける権利があります。そこで、しっかりと考えた自立的ながん克服者の多くは、自分で情報収集して探し出した効果的な治療法を行ってくれるクリニックにも並行して通院することが多いのです。

日本先進医療臨床研究会設立のきっかけを作った故・安保徹先生(右)と同会設立以前の小林氏

先にご紹介したアンケートでは、多くのがん克服者が「考え方」「食事」「治療法」に次いで、第四位に「家族」と回答しています。そのことから、家族との交流やつながりから得られる「メンタルの力」は、がんの克服に大きな影響を与えることが容易に想像されます。

このアンケート結果は、世界的なベストセラーとなった書籍『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社)で劇的な寛解かんかいを遂げた例(例外的にがんを克服した例)についての論文1000本と、劇的な寛解を遂げた元患者100人以上へのインタビューをまとめた「劇的な寛解に至った人たちが実践している9つのこと」と非常に似ています。各ポイントに順位はありませんが、内容は以下のとおりです。

「①抜本的に食事を変える」「②治療法は自分で決める」「③直感に従う」「④ハーブとサプリメントの力を借りる」「⑤抑圧された感情を解き放つ」「⑥より前向きに生きる」「⑦周囲の人の支えを受け入れる」「⑧自分の魂と深くつながる」「⑨どうしても生きたい理由を持つ」——これらの9つのポイントからも「食事」をはじめ、「治療を自分で決めること」「メンタルの力」ががん克服に多大な影響を及ぼしていることが分かると思います。