プレゼント

沖縄産の“海ぶどう”を使った化粧品でフードロスを解消!製薬会社社長の恩返し物語

株式会社東洋厚生製薬所 代表取締役・輪嶋 将一さん

フードロス(食品ロス)とは、まだ食べられる食品を捨ててしまうことで発生する損失を表した言葉。沖縄県の名産品として知られる「海ぶどう」も、その多くが廃棄処分され、大きな問題となっていました。海ぶどうのフードロス問題に取り組む輪嶋将一さんは、製薬会社ならではの発想で解決を目指しています。

規格外で廃棄される「海ぶどう」の活用を目指して研究を開始

[わじま・しょういち]——東京都生まれ。大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2012年に株式会社東洋厚生製薬所入社。取締役を経て、2018年から同社代表取締役を務める。

「長年お世話になっている沖縄に恩返しをしたいと、ずっと思っていました。製薬会社ならではの貢献を模索していたときに沖縄産の“海ぶどう”と出合ったんです。プロジェクトを立ち上げてから5年の歳月をかけて、海ぶどうエキスを配合した化粧品を開発することができました」

そのように喜びを話すのは、株式会社東洋厚生製薬所で代表取締役を務める輪嶋将一さんです。戦後間もない1948年に設立された同社は、今年で創業74年を迎える老舗企業。社名に製薬所とあるように、医薬品の研究開発を長年行ってきた歴史ある製薬会社として知られています。輪嶋社長が“恩返し”と表現する沖縄との接点は、いまから約30年前にさかのぼります。

「私たちは30年前から、沖縄県産の青パパイヤの特徴を生かした木酢液の製造と販売を行ってきました。木酢液とは、木材を焼いて炭ができるときに発生する煙の成分を凝縮させた樹木エキスのことです。一般的に木酢液は農業用の肥料や除虫目的に使われますが、私たちが製造していたのは、健康維持を目的とした、飲める木酢液でした」

飲用もできる安心・安全な木酢液は、沖縄県で育った青パパイヤを使っていたからこそ叶えられたと話す輪嶋さん。ところが、30年間にわたって全国のお客さんに愛用されていた沖縄県産の木酢液は地元の後継者問題が深刻となり、惜しまれつつ製造終了となったのです。

「木酢液の事業は終了しましたが、長くおつきあいをいただいた沖縄とのご縁を続けたい気持ちがありました。木酢液に代わる新しい素材を求めた私は、沖縄県の食材情報を発信している沖縄スーパーフード協会へ相談に行ったり、地元産食材の専門店や食堂、居酒屋などを巡ったりして、ご縁をいただけそうな情報を集めました。そこで出会ったのが、那覇市の国際通りで『想いっきり海ぶどう』という海ぶどうの専門店を経営されている平良司さんだったのです」

海ぶどうは正式名称をクビレズタといい、イワズタ科イワズタ属に属する海藻です。プチプチとした独特の食感がクセになる海ぶどうには食物繊維をはじめ、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル、ビタミンが豊富に含まれています。ローカロリー食材の海ぶどうはグリーンキャビアとも呼ばれ、健康・美容効果が期待できるスーパーフードとして注目されているのです。

海ぶどうはその美しさから、グリーンキャビアとも呼ばれている

平良さんと出会ったとき、海ぶどうは食感がいいおつまみという印象しかなかったという輪嶋さん。平良さんとの会話から、海ぶどうは沖縄県で長く食べられている伝統食ではなく、沖縄県を訪れる観光客向けに十数年前から養殖されている食材であることを知って驚いたといいます。

「さらに驚かされたのは、養殖されている海ぶどうの6割が廃棄されているという事実でした。海ぶどうの養殖は水温管理が難しいうえ、形や色ツヤが商品としてそぐわないと規格外として廃棄処分になるそうです。実際に海ぶどうの生産者さんたちは、養殖した半分ほどの量しか出荷できないとのことでした。その結果、かつては100人以上いた海ぶどうの生産者さんは次々と廃業。現在、組合には50ヵ所ほどの登録があるものの、実際に稼働している生産業者さんは20ヵ所ほどまで激減しているそうです」

それまで何気なく口にしていた海ぶどうが深刻なフードロス(本来食べられる食品を廃棄することによる損失)の問題に直面している事実に愕然とした輪嶋さん。そこで、廃棄されている海ぶどうを製薬会社ならではの視点で再利用できないかと考えたそうです。

輪嶋さんの熱い想いを聞いた平良さんは、申し出を快諾。こうして、沖縄産海ぶどうのフードロス解決プロジェクトが始まったのです。

地元の女性たちの利用法をヒントに化粧品の開発を思いつく

輪嶋さんとともに、沖縄産海ぶどうの化粧品開発&フードロスプロジェクトに取り組んでいる、海ぶどう生産者の三好和美さん

もう一人、輪嶋さんの力になってくれたのが、海ぶどう生産者の三好和美さんです。うるま市平安座島で海ぶどうを養殖している三好さんは、こだわりの海ぶどう生産者として知られ、沖縄県内で唯一、海水を海から直接引いた養殖場で海ぶどうを生産しています。三好さんが生産する海ぶどうは品質のよさと抜群の食感が特長で、全国の飲食店から評判を呼んでいます。

最高品質といえる海ぶどうの養殖場を眺めながら、フードロスの問題を解決する決意を新たにした輪嶋さん。「製薬会社だからこそ貢献できること」の答えを求めて、思案を重ねる毎日を過ごしたといいます。

「当時は毎日、海ぶどうの活用法について思いをめぐらしていました。答えが見つからず、もどかしい毎日を過ごしていたあるとき、破棄された海ぶどうを、地元の女性たちが顔や手に塗っていることを知ったんです。三好さんに尋ねてみると、年配の女性が海ぶどうを手に塗っただけで肌がツヤツヤになったというエピソードもあるとのことでした。その瞬間、『廃棄されている海ぶどうを使って新しい化粧品が作れるかもしれない!』とひらめいたんです。そして、『海ぶどうの有効性を科学的に検証した化粧品作りこそ、製薬会社ならではの恩返しになるはず』と思いました」

すぐに輪嶋さんは海ぶどうからエキスの抽出を試みたものの道のりは険しく、苦労の連続。一年以上の苦労の末に抽出した海ぶどうのエキスの分析を丁寧に進めたそうです。

「海ぶどうから抽出できるクビレズタエキスの分析を終えた私たちは、次のステップとして理想的な製品作りの検証に取り組みました。乾燥させたクビレズタエキスをミキサーで粉末にしたり、ペースト状にしたりして形状を変え、実際に肌に塗ってみたんです。その結果、地元の女性たちのような肌になるには、クリームとして仕上げるのが理想的という結論に至りました」

オール沖縄の素材で化粧品が完成!売り上げの一部を地域に還元

「オール沖縄で作る化粧品にこだわってこそ、意味のある恩返しになると思いました」

「製薬会社ならではの恩返し」を誓った輪嶋さんは、絶対に譲れないある決意をしていました。海ぶどうのクビレズタエキスの成分分析以外は、すべて沖縄県内で行うことです。

「最終的なクリームの製造はもちろん、製品のパッケージデザインやパンフレットの制作まで、すべて沖縄県内で行ってこそ意味があると思いました。化粧品は、クビレズタエキスのほかに久米島の水深600㍍からくみ上げた海洋深層水を脱塩精製した水、沖縄産サトウキビ由来の保湿成分スクワラン、沖縄産モズクから抽出したフコイダンを配合した“オール沖縄”と呼べる自信作です。構想から完成まで、5年の歳月がかかりました」

2021年10月、海ぶどうから抽出したクビレズタエキスを配合した新しい化粧品が誕生。「果報・幸せ・よい知らせ」という意味の沖縄方言にちなんで名づけられた『カフーリンクル』は、広告宣伝をほとんどしていないものの、美容情報に敏感な女性たちを中心にクチコミで反響が広がっているそうです。

規格外を理由に廃棄される運命だった海ぶどうに「化粧品」という新しい命を吹き込んだ輪嶋さん。海ぶどう生産者の安定収入に貢献するだけでなく、化粧品の売り上げの一部を沖縄県に寄付するなど、輪嶋さんの恩返しは続きます。地元からは、沖縄発の“美ら美容”という新しいジャンルの誕生に大きな期待が寄せられているそうです。

「海ぶどうから抽出したクビレズタエキスのペースト化に一年間費やすなど、完成まで予想以上に時間がかかりました。コロナ禍による厳しい経済状況の中、『ほんとうに製品化していいのだろうか』と、何度も心が折れそうになりました。そんなときに私を勇気づけてくれたのが、沖縄から届く励ましの声でした。フードロスの問題は、海ぶどうだけではありません。同じ問題を抱えて解決策を求めている全国の方々にとって、海ぶどうの化粧品が何かのきっかけになればと思っています」

~沖縄からの贈り物~
KAFUU wrinkle
カフーリンクル

沖縄産海ぶどう抽出エキス配合。 沖縄の海のミネラルをたっぷり詰め込んだ

株式会社東洋厚生製薬所