プレゼント

コーヒー豆の生命力が凝縮された「発芽珈琲」を信州上田から世界へ発信!

ニッポンを元気に!情熱人列伝

イミー株式会社 代表取締役 市川 敬記さん

発芽玄米をはじめとする発芽食品が広く知られる中、発芽させたコーヒー豆を焙煎して作る「発芽珈琲」の存在が話題を集めています。発芽させたコーヒー豆は、風味はもちろん、栄養価も高くなることが分かり、嗜好品を超えた健康飲料として注目されているのです。長野県上田市から世界的コーヒーブランドの誕生も夢ではありません!

発芽玄米の製造機を開発後、独自商品の「発芽珈琲」を考案

[いちかわ・ひろき]——長野県上田市生まれ。家業としていた繊維業に従事した後、食品業界へ転身。勤務した企業では発芽玄米の工場長を務める。2003年に小型の発芽装置を開発し、イミー株式会社を設立。培った発芽技術をもとに、発芽させたコーヒー豆を焙煎する「発芽珈琲」を世界で初めて考案し、日本・韓国・中国で特許を取得。地元・長野県上田市から発芽珈琲の魅力を発信しつづけている。

世界各国で健康志向が一段と高まる中、健康意識の高い人たちが注目するのが、さまざまな発芽食品です。約20年前に一大ブームとなった発芽玄米をはじめ、カイワレダイコンや豆苗(とうみょう)といった発芽野菜も、私たちの生活になじんでいます。

発芽とは植物の種子から芽が出た状態をいい、生命力が最も高まる時期とされています。そのため、発芽させた米や大豆にはビタミンやミネラル、アミノ酸などが豊富に含まれています。

ひと口に発芽といっても、種子から芽を出せばいいわけではありません。発芽を促進させる技術しだいで味や成分、栄養価が大きく変わるため、その技術には大変な緻密さが求められるのです。

今回の情熱人は、大手企業もお手上げだった発芽装置の開発のみならず、世界初の「発芽珈琲」を考案したイミー株式会社の市川敬記(いちかわひろき)さん。長い歴史がある世界のコーヒー文化に新しい風を吹き込む市川さんに、発芽珈琲についてお話を伺いました。

「私が食品業界に足を踏み入れたのは、約25年前です。日本で初めて発芽玄米を発売した企業で工場長を務めていました。当時の日本は発芽に関する知識や技術力が乏しく、発芽玄米の製造も手探りで進めていました。玄米を発芽させる装置はタンクに水を入れるだけの簡易なものだったので、玄米から臭みが出るなどの問題がありました。その企業は閉業してしまいましたが、その後、別の企業から『発芽装置を作ってほしい』と依頼をいただいたんです。発芽に関するノウハウはありましたから、お受けすることにしました」

とはいうものの、「安心安全でおいしい発芽食品」を作る製造技術の確立は難しく、技術的な問題が山積していたという市川さん。当時の発芽方法は、①種子を温水に浸して発芽させる、②発芽タンク内のお湯を流しつづけてにおいを抑える、という二つの方法が主流でした。しかしながら、①の方法は異臭が発生し、②の方法は大量の湯を必要とするため、コストがかかりすぎる欠点がありました。発芽直後の高い栄養価を損なうことなく短時間で発芽させ、衛生面の不備が起こらない万全の体制で発芽をコントロールする——。工場長として培った発芽の知識をもってしても、これらの条件を満たす発芽装置の完成には5年の歳月を費やしたそうです。

「通常、玄米を発芽させるには24時間かかりますが、私が開発した発芽装置は12時間で発芽します。特殊装置と独自のプログラミングによって特有の発芽臭と雑菌の繁殖を抑えながら、水と電気の使用量も抑えています。装置の操作はごく簡単で、発芽用の玄米を装置に入れた後にスイッチを入れるだけです。どなたが使っても、安心・安全な発芽玄米を作ることができるのです」

念願の発芽装置作りに成功した市川さんは、2003年に穀物・種子発芽装置メーカーとしてイミー株式会社を起業。自社開発の発芽装置をはじめ、発芽製品の製造と販売を開始したのです。イミーという社名には、「Idea(考え・創造)」の「I」、「Make(作る・製造)」の「M」、「Your(あなたへ)」の「Y」、「つながる・継続」を願う「ー」をそれぞれ取って名づけたそうです。

市川さんが開発した発芽装置で発芽させたコーヒー豆

発芽食品が健康増進に役立つことは、携わっていた発芽玄米の製造から理解していた市川さん。「もっと多くの人に発芽食品の魅力を伝えたい」と、発芽玄米以外の新しい発芽食品を構想するようになったといいます。

「そこで浮かんだのが、発芽させたコーヒー豆から作る『発芽珈琲』のアイデアです。コーヒー豆は植物の種子ですし、世界中の人に愛飲されています。新しい発芽食品としてうってつけでした。調べてみると、発芽珈琲を製造している企業は皆無だったので、私のもとで商品化したいと思ったんです」

世界初の発芽珈琲作りに着手した市川さんでしたが、実際にコーヒー豆を発芽させてコーヒーを()れてみると、「おいしくない」といわれることが多かったといいます。「コーヒー豆を発芽させただけでは、ほんとうの発芽珈琲は作れない」という壁に直面した市川さん。おいしさと飲みやすさに加えて、発芽食品ならではの高い栄養価を求めて試行錯誤の日々が始まったのです。

持ち前の研究熱心さで試行錯誤を繰り返し発芽珈琲を完成!

発芽珈琲は味わいの深さと栄養価の高さが特長

コーヒー豆をはじめ、植物の種に含まれる栄養素は、外敵に奪われないように特殊な酵素で守られています。発芽した後、新芽に栄養素を与えるために種の中にある消化酵素が使われて、新芽が栄養素を吸収できるようになります。発芽によって生命力が高まるのは、発芽の過程で酵素をはじめとする栄養素が融合し、新たな有用成分が作られるからと考えられています」

発芽玄米のように、発芽食品として高い栄養価を伴ってこそ発芽珈琲の開発に意味があると考えた市川さん。温度や湿度による発芽の変化や程度など、細心の注意を払って最良の発芽状態を探る日々が続きました。コーヒー豆は産地によって特性が異なるため、それぞれの豆に合った発芽の工程が必要です。市川さんは持ち前の研究熱心さで試行錯誤を重ねた結果、ついに発芽珈琲を完成させたのです。

「専門的な話になりますが、コーヒー豆の風味を保ちながら栄養価を高めるためには、pH(ペーハー)7.5~9.7の弱アルカリ性温水で発芽させることが適切と分かりました。この温水にコーヒー豆を浸けて温水を吸収させ、さらに37~80℃の湿潤な環境で4~8時間にわたって発芽処理させるという手法を完成させました」

アミノ酸のバランスに優れる発芽珈琲は栄養価も高いと判明

発芽珈琲に含まれるナイアシンの含有量は通常コーヒーの約3倍もあることが確かめられている

理想的な発芽珈琲の手法を完成させた市川さんに、次なる壁が立ちはだかりました。コーヒーの焙煎(ばいせん)技術です。発芽の研究にのめり込むあまり、コーヒーの焙煎技術についてはほとんど考えていなかったことに気づいたのです。

「当時は焙煎機を持っていなかったので、何をしたらいいのか分かりませんでした。とにかく試してみようと、発芽させたコーヒー豆をステンレス製の網かごに入れてガスコンロにかけ、腱鞘炎(けんしょうえん)になるかと思うほど手を振りつづけました。コーヒーの芳醇(ほうじゅん)な香りが漂いはじめた頃に火から下ろして細かく砕き、できたての発芽珈琲を飲んでみました。初めて飲んだ発芽珈琲の味は、適度な苦さでほんのりと甘く、『これはおいしい!』と思えるものでした」

うれしさはもちろん、ついにたどりついたという気持ちから感慨深さに浸ったという市川さん。発芽珈琲が、世界で初めて誕生した瞬間でした。

市川さんが完成させた発芽珈琲は、まろやかな味わいとすっきりとした後味が特長です。さらに、一般的なコーヒーと比べてアミノ酸がバランスよく含まれているだけでなく、GABA(ギヤバ)は2倍、ナイアシン(ビタミンB群の一つ)は3倍、セロトニンの含有量も多いことが確認されています。ナイアシンはアルコールを分解して二日酔いを防ぐ働きや、血圧の安定や糖質・脂質を燃やす働きもあるとされています。セロトニンは〝幸せホルモン〟と呼ばれるように、抗ストレスや安眠を促し、冷え症や便秘の改善などにも効果が期待できるとされています。さらに発芽珈琲には、コーヒーのまろやかさのもとになるキナ酸やカフェー酸も含まれているのです。

「2014年に、ある飲料メーカーがコーヒー豆の成熟度に関する研究結果を発表しました。その内容は、コーヒーの香りと味は焙煎技術などによって決まるものの、最も重要なのはコーヒー豆の品質で、収穫時に豆の成熟度が高いほど風味がよくなるとのことでした。コーヒー豆の成熟度は、豆に含まれるトリプトファン(必須アミノ酸の一つ)の量が少ないほど完熟しやすいそうですが、コーヒー豆は発芽させることでトリプトファンの量を減らす一方で、ほかのアミノ酸の量を増やすことができるのです。つまり、発芽コーヒーは成熟した高級豆と同じように風味がよく、栄養面でも優れていることが科学的に証明されたのです」

コーヒー豆を〝あえて〟発芽させることで風味と栄養を高める発芽珈琲は、一般的なコーヒーと比べて3倍以上の手間とコストがかかります。最近の研究では、発芽珈琲は通常のコーヒーよりカフェインが1割ほど少ない「体に優しいコーヒー」であることも分かったのです。

新しい発芽食品として、発芽珈琲の普及をライフワークに掲げる市川さん。宣伝費用もなく、小売店に営業に行っても断られるなど、販売網の開拓は苦労の連続だったと振り返ります。

長野大学の学生さんとのコラボレーションから生まれた「夜蒸(よふかし)珈琲」

「それでも、コーヒー好きの方々の間で発芽珈琲の話題が口コミで広がり、少しずつ注文をいただけるようになりました。実際に発芽珈琲を飲んでいただいたお客様から、『苦手だったコーヒーが飲めるようになった』『発芽珈琲で毎日リラックスしています』といったうれしいお声をいただいています」

発芽珈琲を地元である上田市の地域振興にも役立てたいと考えている市川さん。本社近くにキャンパスがある長野大学の学生さんたちと一緒に、発芽珈琲のコラボレーションにも取り組んでいます。学生さんたちと考案したのは、夜間のリラックスタイムに最適な『夜蒸(よふかし)珈琲』というブランド。ネーミングやラベルのデザインは学生さんたちが考えたそうです。

独学で完成させた発芽装置とコーヒーが国際展示会で大反響!

「発芽珈琲の魅力を世界中の人に知っていただきたい」と話す市川さん

発芽装置を自分で作ってしまうほど機械工学に精通している市川さんですが、学校で専門的に学んだことはないといいます。仕事を通じて培った経験だけで機械のしくみをイメージし、実際に作り上げてしまうのは、まさに天性といえましょう。

「小さい頃から好奇心が旺盛(おうせい)で、機械いじりが大好きだったんです。当時住んでいたお向かいの家にブリキのおもちゃがたくさんあったのですが、おもちゃのしくみや構造が知りたくて、遊びに行くとおもちゃをばらばらに分解していたそうです。そのうち、お向かいさんがおもちゃを隠すようになったと両親から聞きました(笑)」

市川さんの実家は家業として繊維工場を経営していたそうですが、斜陽産業となり廃業。使わなくなった繊維工場を加工食品のハムをパックする工場として再活用したものの、発注企業の都合で長く続かなかったといいます。

「その後は建設会社に3年間勤務しました。繊維と食品、建設の仕事に携わったおかげで、衣食住の仕事に関するノウハウを習得できました。発芽装置の完成は、元来の機械好きが高じた面もありますが、さまざまな職場を経験したからこそ作ることができたと思っています」

研究熱心な市川さんは、発芽装置が完成するたびに改良点を見つけ出し、現在稼働している装置は18代目になるとのこと。もちろん、現在も使いやすさの追究を怠らないそうです。

「発芽装置は、アイデアしだいでさまざまな発芽食品の開発に役立つと思います。ある企業には、発芽大豆から作ったきなこを牛乳で割った『発芽きなこミルク』の商品開発を提案しました。発芽装置を導入していただいた発芽玄米の企業には、発芽豆乳の製造を提案して喜んでいただきました。そのほか、黒大豆を使った発芽納豆や、発芽玄米クッキー、発芽玄米ロールケーキを作っているお店もあるんです。発芽食品のよさを認めてくださる方々のもとで、新しい発芽食品が続々と生まれています」

長野県上田市にあるイミー本社に併設されている「カフェ スプラウト」では、発芽珈琲をはじめ、発芽玄米を使った食事も楽しめる

ご自身が手掛けて販売した発芽装置は、一度も壊れたことがないという市川さん。社長である市川さん自身が販売先に出向いて定期的にメンテナンスをしているそうですが、体力的な面から発芽装置の販売は2年後に終了する予定とのことです。

「昨年、中国の上海(シャンハイ)で開催された国際展示会に発芽珈琲を出展したところ、出展ブースが大盛況となりました。中国の企業から店舗展開のオファーをいただき、中国で複数の発芽珈琲のショップを開店する予定です。長野県上田市から、世界中の人々の健康増進に貢献できる発芽珈琲を広めていきたいと思っています」