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高齢者や肩・ひざが痛い人でもラクに泳げる〝ラクロール〟の普及がライフワークです!

ニッポンを元気に!情熱人列伝

一般社団法人日本ラクロールスイム 協会代表理事 馬場 浩希さん

運動療法やリハビリテーションを目的に水泳を始めたものの、長く続かずに挫折してしまった人はいませんか? 「速く泳ぐよりも、楽しくラクに泳ぎたい!」と思っている人の間で話題を集めるのが、ラクに泳げるクロール〝ラクロール〟です。考案者の馬場浩希さんに、詳しくお話を伺いました。

歩くように泳げる新泳法「ラクロール」が中高年の間で大人気!

[ばば・ひろき]——3歳から水泳を始め、高校まで水泳部に所属。健康医療系の専門学校を卒業後、スポーツクラブに就職し、水泳指導にあたる。以後、独自の視点で考案した「ラクに泳げる」指導が評判を呼び、独立。2023年5月、一般社団法人日本ラクロールスイム協会を設立して代表理事に就任。日本スポーツ協会公認水泳上級教師、日本スイミングクラブ協会アクアフィットネス上級インストラクター。『クロールがラクに泳げる!ラクロール』(じゃこめてい出版)が好評発売中。

運動療法やリハビリテーションとして医師から水泳をすすめられたものの、水泳教室の指導についていけずに退会してしまったという人は多いのではないでしょうか。

そんな苦い体験がある人たちの間で話題を集めているのが、まるで歩いているようにラクに泳げる「ラクロール」です。水泳の概念を(くつがえ)す新しい泳法を考案し、普及に努めている馬場浩希(ばばひろき)さんにお話を伺いました。

「私が考案したラクロールは、その名のとおり、ラクに泳げるクロールです。一般的に知られるクロールは基本的に短距離型の泳法なので、50~100㍍も泳ぐと息が上がってしまう人が多いんです。私が提案しているラクロールは、苦しむことなく長い距離を泳ぐことができる長距離型のクロールといえます。ラクロールの泳法を習得した方の中には、これまでまったく泳げなかったのに、今では数㌔㍍の遠泳を準備運動感覚でこなせるようになったり、トライアスロンに挑戦したりする人がたくさんいらっしゃいます。これまで当たり前と思っていた水泳の常識や概念をいったん捨てていただくことで、何歳になっても楽しくラクに泳ぐことができるんです」

そう穏やかな笑顔で話す馬場さん。アザラシやジュゴンを思わせるふっくらとした体形は一見、水泳選手のイメージとは異なりますが、この体形こそ馬場さんの人気ぶりを象徴しています。

「おかげさまで、中高年の方々を中心にラクロールが評判を呼んでいるんです。私は毎日、生徒さんがいる各地のプールで個人指導と団体指導に明け暮れているので、体を冷やさないためには厚い筋肉と脂肪が必要です。この体でいるからこそ、多くの方々にラクロールの魅力をお伝えできるんです」

現在、全国のスポーツクラブや水泳教室から引っ張りだこ状態の馬場さん。中高年が魅力を感じるラクロールとは、どのような泳法なのでしょうか。

「私はアルバイト時代を含めると、18歳からスポーツクラブで水泳のインストラクターをしていましたが、常にもどかしさを感じながら生徒さんを教えていました。どのスポーツクラブでもクラスは泳力別・泳法別に分けられ、『より速く・よりうまく』という教科書どおりの教え方で教えていたからです」

馬場さんは各地のスポーツクラブや水泳教室で独自の泳法を指導している

スポーツクラブには、泳げる人はもちろん、泳げない人やなんらかの痛みを抱えている人、病後で体力をつけたい人など、さまざまな目的を持ってやって来ます。馬場さんによると、当時はそのような人たちも一般向けの泳力別・泳法別のクラスに分けられて指導を受けることが少なくなかったといいます。

「体が痛くて腕が上がらない、ひざを伸ばせないといった、教科書どおりの指導に当てはまらない生徒さんに、なんとか水泳の楽しさを伝えたいと思いました。そこで、教科書的な指導とは別に、生徒さんの体力や技術に合わせてラクな泳ぎ方を個人指導するようになったんです。最初はほかのコーチたちに意図を理解してもらえずに苦労しましたが、生徒さんたちの間で評判が広まり、私のレッスンを受けたいという方が増えていきました」

教科書どおりの水泳指導に疑問を持ち体に優しい泳法を指導

水泳歴約40年、指導歴は27年。人生のほとんどをプールの中で過ごしてきたといえる馬場さんが水泳を始めたのは3歳の時。両親にとしまえんのプールに連れて行ってもらったことがきっかけでした。

「両親によると、プールの中に入ってもまったく水を怖がらず、楽しそうにはしゃいでいたそうです。その様子を見た両親が、プール教室に通わせてみようと思ったようです」

地元の水泳教室に入会した馬場さんは楽しく水泳を覚えて、実力を上げていったといいます。

「その後、通っていた水泳教室に強化選手の育成を目的にした選手コースができたんです。厳しい練習をしたくなかったので、入りたくなかったのですが、母親からすすめられてしぶしぶ入りました。上級レベルの生徒が集まる選手コースの練習は確かに厳しいものでしたが、より速く泳げるようになったので、さらに水泳が楽しくなりました」

水泳指導歴27年の馬場さんは、多くの生徒さんから絶大な信頼を寄せられている

馬場さんの大きな転機となったのが小学生の時。どうしても勝てなかった一学年上の上級生より速く泳げたことが、大きなきっかけになったといいます。

「年上で体も大きく、自分より速く泳いでいた上級生に勝ったことが自信になりました。同時に、上達させてくれたコーチに感謝し、コーチという職業に憧れるようになったんです」

この成功体験をきっかけに、みずからが水泳選手として輝くよりも、コーチという仕事に魅力を感じるようになった馬場さん。中学・高校時代も水泳部に所属していたものの、この時に芽生えた「コーチになる!」という気持ちは色あせることなく持ちつづけていたそうです。

高校卒業後、水泳指導の知識習得と現場に出ることを優先した馬場さんは、健康医療系の専門学校に進学。在学中にインストラクターの資格を取得して、プールで水泳指導の経験を積んでいきます。同時に、在学中は専門学校の図書室にある水泳に関する教科書を片っぱしから読みあさり、水泳指導の知識を学んでいったそうです。

「専門学校を卒業した後は、学生時代にアルバイトをしていたスポーツクラブにそのまま就職し、水泳のインストラクターをしていました。その後、転職したスポーツクラブでも水泳教室の生徒さんに指導をしていましたが、学んできた教科書どおりの指導に少しずつ違和感を覚えるようになりました」

今から約20年前にあたる当時は、体力が低下した中高年が健康増進やリハビリを目的にスポーツクラブに通う黎明(れいめい)期だったと振り返る馬場さん。オリンピックや世界水泳選手権のような速くて力強い泳法ではなく、体を傷めずに無理なく泳げる新しい泳法を、多くの中高年が求めはじめていたのです。

「レッスン中に『体をまっすぐにピーンと伸ばして~』『バタ足を強くして~』といっても、腰やひざが痛い生徒さんにとっては苦痛そのもので、場合によってはもっと体を痛めてしまいます。水泳インストラクターの仕事は、体によいことを教えることです。体に悪い水泳を教えている自分は指導者失格と思うようになっていきました」

ラクロールの普及を目指して協会を設立し水泳の楽しさを広める

スポーツクラブに所属しながら教科書どおりの水泳指導とは異なる個人レッスンを始めるようになった馬場さん。その後、「ラクに泳げる」という馬場式泳法をより広めるために個人事業主の道を選びました。フリーランスの水泳インストラクターは当時とても珍しく、不安だらけの独立だったそうです。

「フリーランスになってあらためて気づかされたのが、水泳教室に参加される生徒さんの体力が千差万別ということでした。ご高齢の方だけ見ても、腕・腰・ひざなど痛みを抱える部位は異なりますし、その一方でマスターズ水泳のように速く泳ぎたいという人など、ほんとうにさまざまです。いただいたオファーに応えるために、多くの講習会に参加して目的別の指導法や技術習得を重ねていきました」

ラクロールで泳げば、ラクに長い距離を泳ぐことができる

教科書どおりの指導では対応できない生徒さんたちの基本的な泳法として馬場さんが考案したのが「ラクロール」です。ゆったりとしたローリング(回転)が特長的なラクロールは、「ラクに長く泳ぎたい」と希望するすべての人に覚えてほしいと話します。

「ゆっくりとラクに泳ぐことができなければ、速く上手に泳ぐことはできません。どんな人でも、まずはここから始めましょうと考案したのがラクロールです。ラクロールは、①体を伸ばさない、②手足に力を入れない、③頭を下げないという、水泳の教科書とは真逆の泳法です。『水泳はきつい・つらい・苦しい』と思っている方がラクロールを覚えると、『水泳ってこんなにラクで気持ちがいいものなの?』という目からウロコの体験ができると思います」

朝から晩まで各地のスポーツクラブを巡って指導する日々は充実していたそうですが、一人では限界を感じたことからインストラクターをあっせんする会社を設立。さらに、2023年5月には一般社団法人日本ラクロールスイム協会を設立し、本格的にラクロールの普及を目指しています。

「現状ではラクロールの指導を受けられるスポーツクラブには限りがありますが、ラクロールの魅力は確実に広まっています。水の中は浮力によって痛みが軽減して体を動かしやすくなりますから、ラクロールを覚えて楽しみながら健康作りに役立てていただけたらと思います。そして、ラクロールを広めて泳げない人をゼロにしながら、百歳になっても泳ぐことを楽しめる人を増やしていきたいです」