川崎医科大学産婦人科学2特任教授 太田 博明
コロナ禍の予防対策として過度に外出を控えると関節症・骨粗鬆症悪化の危険大
日本で新型コロナウイルス感染症患者が最初に確認された2020年1月から、もうすぐ2年が経過しようとしています。ワクチンの開発や治療薬の研究が進んでいる現在、人類の新型コロナウイルスとの闘いは新しいステージに進んでいるといえるでしょう。とはいえ、感染力の強い変異株「デルタ株」が世界で爆発的に感染拡大し、この冬には第六波の到来が懸念されています。コロナ禍が終息するまでには、まだ時間がかかると予想されています。
新型コロナウイルス感染症に対する警戒は大切ですが、過度に外出を控えることはおすすめしません。特に高齢者は家に閉じこもりがちで顕著な運動不足になっています。そのため、変形性関節症や骨粗鬆症が進行して健康に大きな悪影響を及ぼす危険性があるからです。
変形性関節症は、加齢などが原因で関節軟骨がすり減ることで発症します。ひざ関節と股関節は変形性関節症が発症しやすく、関節に変形や炎症が生じて痛みが起こります。
高齢者に多い骨粗鬆症も、多くは加齢と低体重によって起こります。骨粗鬆症の患者さんは、骨の強さを示す骨密度が低下し、進行するとささいなことで骨折しやすくなります。高齢者の場合、大腿骨を骨折すると、元の状態に回復する方は20%で、1年以内には20%の方が亡くなってしまうというデータもあります。
骨粗鬆症は変形性関節症の直接的な原因とはいえませんが、骨がもろくなると姿勢がくずれて転倒しやすくなったり、ひざ関節・股関節に過剰な負荷がかかったりするようになります。その結果、変形性関節症を引き起こしたり、悪化させたりするおそれがあるのです。
変形性関節症や骨粗鬆症を悪化させる原因として、運動不足が挙げられます。運動不足になると、体重の増加や関節を支える筋力の低下が顕著になります。その結果、関節に対する負荷が増え、痛みが増幅するという悪循環に陥ってしまうのです。
骨の強さと筋力を維持するためにも、定期的な運動は欠かせません。運動によって骨に適度な負荷がかかると、骨にカルシウムが沈着しやすくなります。さらに、体を動かして骨に荷重負荷がかかると、骨を新しく作る骨芽細胞の働きが活発になって骨密度が高まるのです。
おすすめの運動が『かかと落とし運動』です。壁やイスに手をつき、つま先立ちでかかとを上げ、そのまま着地するだけの運動です。単純な運動ですが、骨には体重の3倍の重力がかかり、骨代謝が活性化します。さらに、かかとを上げた状態を長くすればするほど、ふくらはぎにある腓腹筋やヒラメ筋の強化につながります。目安としては2秒に1回のペースで行い、1日50回を目標とするといいでしょう。
骨を強化するには運動のみならず、栄養補給も大切です。骨粗鬆症を防ぐうえで大切な栄養素の一つにビタミンDがあります。ビタミンDにはカルシウムの吸収を助ける働きがあります。
また、栄養補給もさることながら、ビタミンDを効率よく体内に取り入れる方法としては日光浴がおすすめです。ビタミンDには日光を浴びることによって皮膚でも作られるという特徴があり、体内のビタミンDの80%が皮膚で生成されます。
家に閉じこもりがちの高齢者や、夜間勤務で昼夜逆転の生活を送っている人は、皮膚で作られるビタミンDが不足しているおそれがあります。新型コロナウイルス感染症への対策をしっかり取りながら、三密を避けて外出することがおすすめです。
外で運動する習慣をつけると日光浴の時間が増えるため、骨密度を高めるには一石二鳥といえます。これから寒さが厳しい季節になりますが、変形性関節症や骨粗鬆症の患者さんは、自宅でのかかと落とし運動を習慣化しましょう。そして、日中の暖かい時間帯は、十分に防寒して感染症対策を心がけ、外で運動する習慣を身につけてみてはいかがでしょうか。