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股関節専門医が推奨! 1日10回2セットの[立たない運動]で手術前後の生活の質が向上

整形外科

黒河内病院院長/北里大学医学部整形外科助教 森谷 光俊

変形性股関節症は早期発見・治療が大切で手術を受ける前の運動で治療効果向上

[もりや・みつとし]——1978年、埼玉県生まれ。医学博士。2003年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部卒業後、北里大学医学部整形外科入局。2010年、北里大学医学部整形外科学助教、2019年より現職。相模原市病院協会理事、公益財団法人日本テニス協会医事委員、相模原市病院協会理事、相模原市医師会理事、日本テニス協会医事員会委員、神奈川県テニスメディカルサポートドクターを兼任。

変形性股関節(へんけいせいこかんせつ)(しょう)は、股関節の軟骨がすり減って変形することで、痛みや違和感、ひっかかり、動かしにくさなどが起こる病気です。変形性股関節症は「早期発見・早期治療ができるかどうかが人生を変える」といっても過言ではありません。次のいずれかの症状に当てはまる方は、可能な限り早急に整形外科を受診しましょう。

歩きはじめや立ち上がる時に足のつけ根に痛みや違和感が生じる
股関節が曲げにくく、足の(つめ)が切りにくい
股関節が曲げにくく、靴下がはきにくい
あぐらがかけない
最近、歩き方がおかしいと指摘される

変形性股関節症の治療は、最終的には人工関節置換術が検討されますが、残念ながら一度人工関節に置き換えると元に戻すことはできません。痛みなどで極度に生活の質(QOL)が低下していない限り、どんな方でも基本的には保存療法がすすめられます。

私は、一部の例外を除き、基本的にはどの病期の患者さんでも最初は保存療法に取り組むべきだと考えています。変形性股関節症は病期にかかわらず、股関節に負担をかけすぎない程度に運動を行うことで症状が軽快する可能性があるのです。運動療法は「筋力を維持・強化すること」「関節の安定性を確保すること」「動く範囲を広げること」を目的に行われ、痛みが軽減して日常生活における歩行や動作の支障を改善することにつながります。

股関節に痛みがあると、歩くことがおっくうになるなど、どうしても股関節を動かす機会が少なくなりがちです。また、痛みは股関節周辺の筋肉を弱くする原因ともなり、ますます股関節を動かしにくくなってしまいます。股関節にかかる負荷の少ない姿勢や立ち上がり方・座り方など、日常生活の注意を守りながら、運動療法を治療の基本としてこつこつと続けることが大切です。

ただし、痛みが強い場合は股関節に炎症が起こっている状態です。炎症がある状態で運動を行うと、炎症が悪化して変形性股関節症がますます進行してしまうおそれがあります。まずは、消炎鎮痛剤を使った薬物療法で炎症を抑え、安静にするようにしましょう。

しかし、痛みがまったくなくなるまで安静にしていると、股関節周辺の筋肉などが硬くなってしまって予後が悪くなる傾向にあるので注意が必要です。運動を始める時期は、整形外科を受診して主治医と相談したうえで決めるようにしましょう。消炎鎮痛剤で痛みの軽減を実感できるようになったら、毎日少しずつ股関節を動かすようにしてください。

運動は、すでに手術が決まっている人にもおすすめです。手術後は、安静にしなければならない期間があるほか、手術による傷や痛みが運動の妨げになることが少なくありません。せっかく手術で関節を動かせるようになっても、筋肉が弱く、固まってしまっていれば回復が遅れてしまいます。手術の前から筋肉を増やしておくことで、日常生活への復帰を早めることができるのです。

[立たない運動]は寝た状態や座った状態で取り組めて毎日継続することが大切

私は、変形性股関節症の手術前から理学療法士と相談しながら、運動することをすすめています。私が院長を務める(くろ)河内(こうち)病院で指導している運動の一部をご紹介しましょう。寝た状態や座った状態でできるため、[立たない運動]とも呼べるでしょう。簡単な運動ですが、疲労や痛みが生じない程度に行うように気をつけましょう。

運動はそれぞれ10回を1セットとし、1日2~3セット程度を目安に行ってください。最初からすぐに10回行うのではなく、最初は少ない回数から始めて少しずつ回数を増やすよう意識しましょう。

どんな保存療法も、早めに取り組めばそれだけ効果が高まります。変形性股関節症も例外ではありません。保存療法が効果的であれば、最後まで人工関節置換術を避けることも可能です。股関節に少しでも違和感があったら、すぐにお近くの整形外科を受診するようにしてください。