水嶋クリニック院長 水嶋 丈雄
足の裏にある「湧泉」は腎機能に有効なツボで1日1回、両足を刺激すると数値が改善
私のクリニックでは、西洋医学だけではなく、鍼灸などの東洋医学的な視点を取り入れた治療も行っています。西洋医学と東洋医学の長所を生かしながら、短所を補い合うことで、よりよい治療効果が生まれると考えています。患者さんが増えている慢性腎臓病(CKD)は、西洋医学に基づいた治療だけでは改善が難しい病気です。
慢性腎臓病の患者さんは運動を行うと、たんぱく尿が出やすくなることが知られています。そのため、かつては慢性腎臓病の患者さんは、安静にすることがなによりも大切だとされてきました。
しかし、近年の研究によって、運動によって生じるたんぱく尿は一時的な現象であることが分かりました。フルマラソンのような長時間に及ぶ激しい無呼吸運動をしなければ、腎機能に大きな影響を及ぼさないことが判明したのです。
適切な運動がなぜ腎機能の維持に働きかけるのかについては、筋肉の血流を改善する働きや炎症を抑える働きなどに注目が集まっていますが、完全には明らかになっていません。一方で、世界中で行われた研究によって、ウォーキングなどの運動に取り組むことで、死亡リスクや透析・腎移植のリスクが低下することが分かっています。運動療法は生活指導も含めた腎臓リハビリテーションの一つとして、全国の医療機関に普及しつつあります。ぜひ、主治医の先生に相談し、運動に取り組んでみてください。
運動とともに、私が慢性腎臓病の患者さんにおすすめしているのが「ツボ押し」です。東洋医学の世界で「経穴」と呼ばれているツボは、エネルギーの通り道である経絡の上に存在する重要なポイントです。内臓の調子が悪くなると、経絡を通じて対応しているツボにしこりや圧痛が生じるようになります。
東洋医学では、ツボ押しをするとツボに対応している臓器に好影響を与えることができると考えられています。ツボを刺激すると、「気(生命エネルギー)」「血(血液やホルモン)」「水(体内に存在する血液以外の水液)」の流れがよくなります。
ツボを刺激することで血流が改善し、自律神経(意思とは無関係に内臓や血管の働きを支配する神経)のバランスが調整されます。その結果、慢性的な痛みが和らいだり、免疫力が向上したりするのです。
経絡によって腎臓とつながっているのは、足裏の中心から少し上にある「湧泉」というツボです。実際、慢性腎臓病の患者さんの足裏に触れてみると、湧泉が硬くこっている場合があります。湧泉を押したりもんだりして刺激することで、腎機能値が改善する患者さんも少なくありません。
湧泉のツボ押しは指で行うよりも、小さなすりこぎ棒や指圧棒を使うといいでしょう。たんぱく尿や腎機能値を改善させたい場合は、痛みを感じる程度の力で押してください。1日1回30秒、両足の湧泉を刺激することで、腎機能値の改善が期待できます。
食事療法とともに入浴後の「足指回し」を行ったら腎機能値が基準値に収まった
腎機能が低下すると、湧泉にコリが生じるだけではなく、足の指がむくんだり、曲げにくくなったりすることが多くなります。足の指は湧泉のツボとつながっており、特に小指への刺激は腎機能の維持に役立ちます。
足の指を刺激する方法は「足指回し」がおすすめです。らくな姿勢を取り、つまんだ足の指をやや強めに反らして大きく回します。両足すべての指を右回りと左回りに、それぞれ10回ずつ行ってください。
ツボ押しや足指回しを行う時間帯は、血流がよくなっている入浴後が最適です。1日1回行うだけで効果が期待できます。回数は増やしても構いませんが、やりすぎて足裏や指を傷めないようにしてください。
湧泉のツボ押しや足指回しは、病院の治療をおろそかにせず、生活習慣の改善や徹底した食事療法を行ったうえで取り組めば、良好な経過が期待できます。腎機能が悪化して人工透析を受けている患者さんの場合、大幅な回復は難しいものの、現状の維持はできると考えています。
最後に、湧泉のツボ押しや足指回しを行って、腎機能を維持している患者さんの例をご紹介しましょう。
来院時は全身にむくみが生じ、クレアチニン値(男性の基準値は0.6~1.1㍉㌘)が1.8㍉㌘だったAさん(当時56歳・男性)に、私は塩分とたんぱく質の摂取を制限する厳格な食事療法を指導しながら、湧泉のツボ押しと足指回しを毎日行ってもらいました。すると、3ヵ月後にAさんのクレアチニン値が1.2㍉㌘まで低下。1年後には基準値の0.8㍉㌘まで改善し、むくみも解消したのです。予想以上の効果に、Aさん本人も驚いていました。
腎臓の機能はある程度まで低下してしまうと元に戻ることがほとんどないため、残った機能を維持することが大切です。病院の治療だけではなく、運動やツボ押しにも前向きに取り組んで腎機能を維持していきましょう。