プレゼント

患者どうしのつながりと医師とのネットワークを広げていきたい

患者さんインタビュー

非結核性抗酸菌症患者の会代表 瀧口 和朗さん

子どもの頃から絵画や工作が大好きで工房を主宰しています

[たきぐち・かずお]——1968年、山形県生まれ。幼少時から美術工作やガーデニング好きで、10代から水彩画では全国教育美術展全国特選、油絵画では全日本学生美術展に3年連続で入選を果たす。20代から建築・陶芸・写真・彫刻などの分野でも受賞を続ける。「ナチュラルライフTAKITARO」を設立して、雑貨やハーブ苗を販売する「雑貨の店TAKITARO」を開店。
その後、家具・陶芸・ステンドグラスなどの創作販売や各種体験教室を行う「たきたろう工房」を併設。2005年に房総半島の長柄町に移住してログハウス作りを手がけながら、住宅や庭のプロデュースを手がける〝自然派建築のスペシャリスト"として活動中。

私はもともと山形県に住んでいました。雪深さをはじめ、厳しい環境を考慮して関東圏への移住を決めてから、茨城県や神奈川県など30ヵ所の移住先候補地を見てまわりました。現在、私が暮らしているのは、房総(ぼうそう)半島の丘陵地帯にある千葉県長生郡(ちょうせいぐん)長柄(ながら)(まち)です。夏はあまり暑くなく、冬は雪が積もっても寒さが厳しくない長柄町は、私にとって願ってもない好環境でした。房総半島の奥地といっても東京まで日帰りで往復でき、近隣には総合病院や小・中学校もあったことから、2005年の秋に移住しました。

山形県で暮らしていた時は、雑貨店と工芸工房を営んでいましたが、長柄町に移住した後は、暮らしのあらゆる場面に自然の魅力を取り入れたライフスタイルをプロデュースしています。具体的な事業としては、オールドスタイルのログハウスや木造建築の構想・設計・修繕からインテリアまでプロデュースする

「タキタロウウッドハウス」、ガーデニングや造園をプロデュースする「タキタロウナチュラルガーデン」をメインに、自然派に人気の(まき)ストーブなども手がけています。

今振り返ると、私は幼少の頃から絵画や工作が大好きで、特に絵画に関しては小学生の時から全国規模のコンクールで受賞経験がありました。中学1年の時には全国で1位入賞を果たしたほか、高校時代は全国の油絵コンクールで入選するなど、絵画を中心とした芸術領域が得意でした。絵画だけでなく、建築や造園をプロデュースすることになったきっかけは、現在住んでいるログハウスと庭を18年かけてセルフビルド(自主建築)したことでした。厳密にいうとまだ建築中なのですが(笑)、フランスのアルザス地方の家をモチーフにした外壁など、家屋の四面すべての表情が異なる自信作です。

ログハウスを自分で建てる作業風景をブログで紹介したところ、100万アクセスという予想外の反響をいただきました。以後、現在に至るまで建築デザインや庭作りに関する相談を多くいただくようになりました。現在、千葉県内からはもちろん、県外や海外からも見学に来られるお客様が増えました。私の影響を受けた息子は造園会社に勤務しています。日比谷(ひびや)ガーデニングショーという造園コンテストで技術賞を受賞した息子は、造園技法について私に意見をいうほど頼もしく成長しました。

17年前に非結核性抗酸菌症と診断されて手術を受けました

公私ともに充実していた私が非結核性抗酸菌症を発症したのは、2006年12月のことでした。就寝時に肺の奥からこみ上げるようなセキに悩まされるようになったんです。体を起こすとセキは止まりますが、横になるとセキ込む状態が1週間続きました。「これは普通の風邪ではない」と感じた私が近隣の病院に行ってレントゲン検査を受けると、右肺上葉(じょうよう)に3㌢ほどの影が見つかったんです。

医師から「肺がんかもしれないので、大きな病院で検査を受けてください」といわれたので、紹介状を書いてもらった総合病院を受診して気管支内視鏡検査を受けました。結核(けっかく)の疑いもあったことから、結核病棟に隔離された私は家族と面会謝絶。検査の結果、医師から告げられたのが非結核性抗酸菌症という病名だったのです。

非結核性抗酸菌とは、結核菌以外の細菌によって起こる感染症の一つで、①吸入によって感染する呼吸器系、②水や食物を介して感染する消化器系、③傷ついた皮膚から感染して、肺、リンパ節、皮膚、骨・関節などに病変を作る三つのタイプに大別されます。感染する部位として最も多いのが肺です。現在、非結核性抗酸菌症の原因菌として200種以上の菌が存在していますが、MAC(マック)(Mycobacterium avium-intracellulare complex)菌が非結核性抗酸菌症の7割を占めるとされています。

非結核性抗酸菌症の感染経路は、屋外の水たまりや温泉といった自然環境内にある水をはじめ、水道・貯水槽・シャワーといった給水システム、菌を含む土壌からのほこりや水滴を吸入することで発症します。私の場合は、母親が気管支拡張症と結核を患っていました。幼少時から風邪を引きやすかったので、遺伝的に呼吸器が弱いのでしょう。さらに、ものづくりを生業とするようになったことで、ガーデニングや陶芸で使う水と土に含まれる菌が肺の中に入ってしまったと考えています。

非結核性抗酸菌症で起こる症状としては、セキや息苦しさ、血痰(けったん)を含むタンをはじめ、倦怠感(けんたいかん)や発熱などが挙げられます。重症化すると喀血(かっけつ)や呼吸不全による呼吸困難に陥り、命に関わることもあります。非結核性抗酸菌症は健康で免疫力が適切に働けば発症しないそうですが、疲労などで免疫力が低下した時は注意が必要です。患者の多くは()せ形の中高年女性で、先に挙げた理由から、農業・園芸従事者や美容師などが多いそうです。また、結核とは異なり、人から人へ感染することはありません。

非結核性抗酸菌症は自覚症状がなく、気づいた時には進行しているケースがほとんどです。現在も治療法が確立せず、専用の治療薬もないため、私が診断を受けた時も治療は手探り状態でした。治療を受けられる病院は限られるため、私は千葉市にある国立病院機構千葉東病院(当時は呼吸器専門の医療機関)で治療を受けました。

里山の風景が広がる房総半島の長柄町で創作活動を展開する瀧口さんのログハウスは、4面すべて異なるデザインで仕上げられている

非結核性抗酸菌症の専用薬はありませんから、結核の治療薬が処方されました。菌の種類によっては治療薬が効かないこともあります。私の場合は結核に有効とされるクラリスロマイシン、エタンブトール、リファンピシンといった治療薬と胃の粘膜(ねんまく)を保護するための胃腸薬が処方されました。1日3回、計17錠の治療薬を服用しながら、1~3ヵ月に一度通院しました。

治療開始から1年後の検査で菌が消失していたので、薬の服用を中止しました。ところが、半年後の検査で再発したため、服用を再開して1年半継続。あらためて菌が消失したことを確認して薬の服用を終えたものの、さらに再発。その後も2年間にわたって薬を服用しましたが、さらに再発したため、医師から再三すすめられていた手術を受けるために、長柄町から遠い東京都清瀬(きよせ)市にある国立病院機構東京病院で「胸腔鏡(きょうくうきょう)下右肺上葉切除」を受けることになりました。医師からは「手術を受けても死亡するリスクがあります」という説明を受けた時は、「ログハウスが完成する前に死んでしまうかもしれない」と覚悟を決めたものです。

幸いにも手術は成功しましたが、服用していた治療薬の副作用にはずっと悩まされました。頭痛と倦怠感がひどく、自宅から最も近い大きな街の茂原(もばら)市にあるスーパーマーケットまで車を運転するだけで疲れ果て、帰宅後はすぐに寝込んでしまうほどの激しい疲労感でした。

副作用の影響は長く続き、お正月に初詣(はつもうで)に行った時は神社の石段を上ることができなかったほどでした。副作用が和らいだと感じたのは、薬の服用をやめて3年たった2020年のことでした。初詣に行って石段を上ることができた時、「ようやく薬が抜けた!」と思いました。現在は7年ほど寛解(かんかい)状態を維持しています。

再発を防ぐために水や土を使う作業では細心の注意を払います

非結核性抗酸菌症は、気管支拡張症や関節リウマチ、シェーグレン症候群との併発が多いとされています。非結核性抗酸菌症の患者は併発した疾患の治療薬も服用するため、飲み合わせには注意が必要です。そこで、専門科を横断した主治医どうしによる情報共有や治療の連携が重要になります。

手術を受けてから七年がたちましたが、CT(コンピューター断層撮影法)などの検査では異常がなく、SPO2(血中酸素飽和度。基準値は96~99%)の数値も99%を維持しています。再発や再感染を抑えているといえますが、非結核性抗酸菌症は「いつ再発・再感染するか分からない」疾患です。そのため、ガーデニングをする時はマスクを着けて、入浴時はシャワーを使いません。排水溝に菌がいるおそれがあるので、浴室の掃除は妻に協力してもらいながら細心の注意を払っています。

非結核性抗酸菌症の患者にとって禁物なのが、風邪を引くことです。体を温めて血流の改善を促すショウガを食事に取り入れてから、風邪を引かなくなりました。疲労は免疫力を下げてしまうので、ログハウスやガーデン作りには十分注意しながら取り組んでいます。絵画や工芸は逆に運動不足になりやすいので、免疫力を維持するために医師からすすめられているウォーキングを実践しています。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構の調査によると、国内では非結核性抗酸菌症の患者が2007年から7年間で約3倍も増えています。非結核性抗酸菌症は、欧米に比べて日本をはじめとするアジア圏の患者数が多いとされています。非結核性抗酸菌症を発症させる菌は「どこにでもいる」のが実情です。夏は大型商業施設のエントランスで冷却効果を目的としたミストシャワーを見かけますが、噴霧される水の中に菌が存在していることも考えられるので、外出時は注意しています。

情報を求める患者さんの多さを実感しネット上の患者会で活動しています

私は長年、ログハウスの建築状況やガーデニングの様子をブログで紹介していましたが、非結核性抗酸菌症と診断されてからは「情報を求めている患者さんたちのお役に立ちたい」という思いから、闘病記も載せることにしました。すると、ブログを読んだ患者さんたちから直接、質問をいただくようになったんです。患者さんたちとインターネット上でコミュニケーションを図るうちに、非結核性抗酸菌症に関する情報と患者どうしで情報を共有する機会が少ないことに気づきました。

「患者どうしはもちろん、医師とのネットワークも広げていきたいです」

患者にとって、自身の病気に関する情報は、あらゆる手段を使っても手に入れたいのが正直な気持ちです。私にはログハウスやガーデニングのブログで培った情報発信のノウハウがあり、患者さんから患者会を作ってくださいという要望をいただいたので、「自分が患者会を立ち上げよう!」と思ったんです。

「非結核性抗酸菌症患者の会」と名づけた患者会を立ち上げたのは、2016年です。インターネット上で交流できる「フェイスブック」で専用のページを立ち上げてから、全国の患者さんどうしで情報共有をしてコミュニケーションを図れるようになりました。その後、ある患者さんから「インターネット上だけでなく、実際に皆で集まって情報交換をしませんか?」という発案があり、実際に開催時期も決まったのですが、コロナ()によって無期延期となってしまいました。2023年7月現在、患者会の会員数は363人です。会員の構成は女性が大半で、20代から70代まで幅広い年齢層が集まっています。あらためて会員の皆さんと実際に会って情報交換をする機会を設けたいと思います。

患者会には、「医師からこんなことをいわれて落ち込んだ」「こんな症状が現れた時はどうしたらいいのか」といった、患者ならではの視点による悩みや相談が寄せられます。ワラにもすがる思いで医師を頼り、悩みを聞いてほしいと願っても、患者が診察室にいられるのはわずか数分。待合室で2時間待っても2~3分の診察で終わってしまう現状に不安と不満を感じている患者は多いと思います。今後の展望としては、医師と患者の目線から率直なディスカッションを行って、悩みや不安の解消を図りたいと考えています。そのためにも、結核・非結核性抗酸菌症学会の認定医との意見交換会開催を目指してネットワークを広げていきたいです。

現時点では非結核性抗酸菌を対象とした完全な治療薬はありません。その事実は大きく、患者はもちろん、医師も手探りの日々が続いています。解決には新薬の開発が不可欠ですが、そのためには国や関係省庁、製薬会社の協力が必要です。開発のための資金提供をはじめ、日本呼吸器学会が治験データを積極的に製薬会社に提供するなど、新薬開発を効率的にサポートする仕組みを作っていただきたいと切望しています。問題は山積みですが、一人でも困っている患者が減るように、患者会としてできることに取り組んでいきたいと思います。