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もったいない!捨てられている素材の健康効果に注目しよう

クマ先生の免疫学的なお酒と料理の楽しみ方
熊沢 義雄

[くまざわ・よしお]——医学博士(京都大学)。元北里大学教授。山梨大学大学院発酵生産学修了後、北里研究所、北里大学薬学部・理学部に40年間在職。順天堂大学医学部非常勤講師。専門は生体防御学(免疫学)。日本細菌学会名誉会員。現在は北里大学発のベンチャー企業の代表として奮闘中。

日本酒やワインは、原料となるお米やブドウをすべて使って造られると思っていませんか?  日本酒のラベルで「何割精米」という表示を見かけることがあるように、原料の一部を使って造られることが多いのです。精米によって除かれた部分は米粉として、米菓子や米粉で作られたパンなどに使われています。

日本酒を造るさいに欠かせない「発酵」という工程を経た後に残るのが「酒粕」です。使用したお米の4分の1ほどの量になる酒粕は、炭水化物やたんぱく質、脂質が主成分です。さらに、ペプチド、アミノ酸、オリゴ糖、ビタミン類、乳酸・有機酸なども豊富に含まれています。日本酒に含まれるアミノ酸は白米の500倍以上もあり、体の中では合成されない必須アミノ酸も多く含まれているのです。 酒粕に含まれるデンプンは、直鎖状のアミロースと、枝分かれしたアミロペクチンの2種類からできています。デンプンを分解するアミラーゼは麹が作る酵素ですが、枝分かれがあると切断できなくなります。この過程で生まれる水溶性食物繊維の難消化性デキストリンは、腸内細菌の栄養となるため便秘対策に役立ちます。

日本酒を造るさいに残る「酒粕」

酒粕は和食を中心にさまざまな料理に使われています。福井県小浜市では養殖用の飼料に酒粕を混ぜています。育てたサバは〝よっぱらいサバ〟として売り出され、人気になっています。

ワインについていえば、白ワインは果汁だけを使い、赤ワインは果実を丸ごと仕込んで造ります。赤ワインは皮と種をいっしょに発酵させるので、ブドウの栄養成分がたっぷり含まれています。

ブドウの果汁を使って造る白ワインは3割程度の搾りかすが残ります。日本では搾りかすを廃棄物として処理しますが、ワインの本場では、搾りかすにブドウ糖と水を加えてアルコール発酵させたものを蒸留した、「マール」「グラッパ」と呼ばれる蒸留酒を造っています。

欧米では、ワインの搾りかすからブドウ種子オイル、ブドウ種子エキスが作られています。近年では、ブドウ種子エキスが持つ健康への有効性について研究が進んでいます。

私自身もイタリア・バーリ大学医学部のエミリオ・イリッロ教授といっしょに、ブドウ果皮・種子エキスの有効性について共同研究を行っています。研究当初はカベルネ・ソーヴィニヨンとか、メルローといったボルドーの品種を研究していましたが、日本の甲州産ブドウの搾りかすを粉砕し、植物性乳酸菌で発酵させた発酵ブドウエキスが、花粉症などのアレルギー反応を抑制することが分かりました。

慢性炎症にも効果が期待できると考えた私は、動物を使って関節リウマチや糖尿病、潰瘍性大腸炎などに対する実験を重ね、その有効性を海外の科学誌に発表しました。イリッロ教授は、ブドウ果皮・種子が脳神経系の疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病にも効果があると発表しています。