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くさい! おいしい!世界中で愛される発酵食品の世界

クマ先生の免疫学的なお酒と料理の楽しみ方

熊沢 義雄

[くまざわ・よしお]——医学博士(京都大学)。元北里大学教授。山梨大学大学院発酵生産学修了後、北里研究所、北里大学薬学部・理学部に40年間在職。順天堂大学医学部非常勤講師。専門は生体防御学(免疫学)。日本細菌学会名誉会員。現在は北里大学発のベンチャー企業の代表として奮闘中。

以前、強烈なにおいを放つチーズを手に入れたことがあります。集まった人にすすめても、あまりのにおいに皆さん手が出ません。ところが、ある女子学生が「おいしい!」といって食べはじめ、「誰にも渡さない!」というほど気に入ってしまいました。くさい食材でも、そのにおいを好む人もいるのです。

足の裏や生ゴミ、トイレのにおいだけでなく、くさいにおいを放つものは食べ物にも存在します。においは微生物の発酵によって生まれますが、体に悪い影響を与える毒作用がないので、腐敗とはいいません。

においの程度を示す指標として、「アラバスター(単位はAu)」があります。世界でいちばんくさい食べ物が、スウェーデンで食されるニシンの塩漬けを発酵させた「シュールストレミング」で、数値は8070Auだそうです。ウオッシュタイプのチーズもくさいですが、ベルギー原産のチーズ「リンバーガー」は、くさい食べ物トップ10に入る強者食品。発酵学者の()(いずみ)(たけ)()さんがつけたランキングでは「エピキュアーチーズ」1870Auが第3位にランクされ、この世で最もくさいチーズとされています。日本の食材でいうと、焼きたてのクサヤが1267Au、(ふな)寿()()が486Au、納豆が452Au、タクワンの古漬けが430Auと続きます。

納豆といえば、新型コロナウイルス騒動で売り切れ状態となりました。納豆は「大好き」という人から「あれは食べ物ではない」という人もいて、地域によって好みが異なるのがおもしろい。納豆のにおいが気になる人は、ダイコンおろしと混ぜるとにおいが気にならなくなります。

古漬けも独特のにおいがします。「イブリガッコ」という秋田県の名物は、ダイコンを(くん)(せい)にして発酵させる漬物で、チーズと合わせるとワインがおいしくなります。燻製も保存を兼ねた食の知恵といえるでしょう。

醸造酢は原料が米、麦、コーンなどの穀物から作られる穀物酢と、リンゴ、ブドウ、柿などの果実から作られる果実酢に分かれます。黒酢は穀物酢に属します。お酢は日本料理に欠かせない調味料の1つですが、西洋料理を見ても、ブドウから作るワインヴィネガー、リンゴから作るリンゴ酢などがあります。柿から作る柿酢も健康にいいとされています。

お酢の主成分の酢酸は、私たちのおなかにいる腸内細菌も作っています。腸内細菌は短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・(らく)(さん))を作っていますが、健康状態によって作る割合が異なります。健康で長寿の人は酪酸を多く作っています。例えば、キクイモに含まれるイヌリンをとると酪酸生産菌が増えます。

その一方で、食べる食材はそれほどくさくなくても、肉を食べすぎると、悪玉菌によって(りゅう)()(すい)()や二酸化()(おう)、アンモニアなどが発生して、くさいおならになります。自分の腸内の菌によってくさいガスが作られる状態が健康によくないことはいうまでもありません。