理学博士 大野 秀隆
暮らしの楽しみの1つに「食」があります。
もちろん、食欲のおもむくままに暴飲暴食を重ねる人は、ろくな結果を招きません。だからといって、誰にとっても「腹八分」がいいという理屈もありません。腹八分というのは、過食を戒める言葉のアヤにすぎません。
もともと胃袋は、腹十分に食べてもいいようにできています。特に、成長期の子どもや重労働をしている人、スポーツ選手といった、体を酷使する人が腹八分では困ります。大事なことは、満腹感と実際にとっている栄養素のバランスが取れているかどうかです。
昔の日本人の食事は、たんぱく質や脂肪が極端に不足していたため、米を腹いっぱい食べなければ体がもちませんでした。そのため、食べすぎの弊害が生まれました。 栄養面が向上した現では、食べ過ぎるほど食べなくても十分な栄養がとれるようになりました。カロリーを抑えながら満腹感を得る食事も可能です。高齢者や胃腸の調子が悪い人、太り過ぎの人の中には腹八分目を心がけている人も多いと思いますが、栄養不足や偏りが出てしまっては困りものです。過食を戒める意味での腹八分は大いに結構ですが、摂取する栄養素は腹十分を心がけるべきでしょう。空腹感を我慢するのは精神衛生上もよくありません。腹八分目の意味を誤解しないようにしたいものです。