理学博士 大野 秀隆
いまからわずか半世紀~1世紀前の日本では「人生50年」といわれていました。現在では「人生90年」となり、日本はまさに世界一の長寿国となりました。
急性伝染病や結核が猛威をふるっていた終戦直後の昭和22年、日本人の平均寿命は男性が50.06歳、女性が53.96歳。いまと比べると雲泥の差です。平均寿命の延長に最も大きく貢献しているのが、いうまでもなく乳児死亡率の減少と青少年の結核死亡者の減少です。
戦後、数十年の間の乳児死亡率は、出生数1000人に対して約77人から6人程度と大幅に減少しています。現在は、ほとんどゼロに近いでしょう。結核死亡率も、10万人に対して約187人から5人程度に減少。これも現在ではゼロに近いと思われます。
このように、乳児や結核による死亡者の減少に直接貢献しているのが、各種の抗生物質の開発です。その背後には、国民の栄養状態の改善など、一連の公衆衛生の向上が大きく寄与しています。これらが戦後における画期的な平均寿命の延長をもたらしたと思われます。
戦後直後に猛威をふるった各種の急性伝染病はその影を潜めたものの、新型コロナウイルスをはじめ、国際的な伝染病への脅威は存在しています。平均寿命の延長によって国民の年齢構成に問題が起こり、中高年層の増加によって疾病構造に変化が起こっています。がん、高血圧症・心臓病・糖尿病など、いわゆる生活習慣病が国民の健康を考えるうえで重大な課題となっています。また、社会生活の複雑化によって、心身症をはじめとする精神的な健康の問題も大きな課題となっています。
一方では人間環境や生物資源、エネルギーなど、重要分野の基盤として遺伝子工学をもって代表されるバイオテクノロジーが重要な役割になっています。これが医療の分野へ導入されると、がんをはじめ、各種難病の発現機序の解明や診断、治療または予防に応用されるなど、画期的な進展が期待されます。
いずれにしろ、社会環境の変化や科学の進歩に伴って、人間の健康は内・外双方からの力に対応していきます。その心身の健康を健全に保っていくためには、私たち自身が常に「自分の健康は自分で作り、守る」という自覚と信念を持つことが重要です。