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筋肉に腎臓を保護する働きがあると判明!

糖尿病・腎臓内科

東名厚木病院名誉院長、熊本大学名誉教授 冨田 公夫

週3回、有酸素運動と筋力トレーニングを行ったら慢性腎臓病の患者さんの数値が改善

[とみた・きみお]——医学博士。1973年、東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学医学部勤務。1982年、米国国立衛生研究所(NIH)勤務。東京医科歯科大学医学部助教授、熊本大学医学部教授を経て、2013年より現職。東名厚木病院慢性腎臓病研究所所長を兼務。日本腎臓学会指導医・専門医、日本透析医学会透析指導医・専門医、日本内科学会認定内科医。

(じん)(ぞう)は、血液の老廃物をろ過して体外に排出するというとても重要な働きを持つ臓器です。さらに研究が進められ、腎臓が血液のろ過以外にもさまざまな働きを担っている〝血液の番人〟として人体という生命ネットワークの司令塔のような役割を担っていることが明らかにされつつあります。

腎臓は全身の血液を管理するために、さまざまな臓器と連携を取り合っています。つまり、腎臓の機能が低下すると、全身の血液に異常が起こり、すべての臓器で問題が生じる可能性があることを意味しています。

腎臓と連携を取りながら障害を軽減する臓器として注目を集めているのが筋肉です。筋肉と腎臓のつながりのことは「(きん)(じん)連関」と呼ばれ、近年の研究では筋肉に腎臓を保護する働きがあるという興味深い報告がなされています。

慢性腎臓病(CKD)は、加齢のほか、腎炎や高血圧症、糖尿病などによって、腎臓の機能が低下する病気の総称です。これらすべての病気に共通する動脈硬化(血管の老化)を抑えることが慢性腎臓病の治療の中心になります。動脈硬化を進行させる高血圧症や糖尿病などの生活習慣病は、〝血液の番人〟である腎臓の障害を増加させる主要因です。慢性腎臓病が末期まで進行して(じん)(こう)(とう)(せき)治療が必要になった患者さんのうち、約4割が糖尿病性腎症の患者さんです。

高血圧症や糖尿病などの生活習慣病はもちろん、動脈硬化の改善には運動療法が有効であることは広く知られています。ところが、運動はかつて腎臓に負担をかけると考えられており、慢性腎臓病の患者さんが運動を行うことは大きく制限されていました。その理由は、慢性腎臓病の患者さんが運動を行うと、腎機能が低下したことを示すたんぱく尿が出やすくなることが分かっていたからです。そのため、進行した慢性腎臓病の患者さんは、安静にすることが何よりも大切だとされてきました。

しかし、近年の研究で、運動によって生じるたんぱく尿は一時的な症状であり、長時間に及ぶ無呼吸運動のような激しい運動でなければ大きな問題にはならないことが判明したのです。腎臓に悪影響を与えない程度であれば、生活習慣病や動脈硬化を改善する運動は慢性腎臓病の患者さんにはむしろ推奨されるべきではないかと考えられるようになり、世界中で研究が行われるようになりました。その中でも、注目すべきものをいくつかご紹介しましょう。

米国で行われた透析患者さんの生活様式の調査では、活動的な患者さんのほうが生存率が高いという結果が出ています。さらに、別の試験では、透析患者さんの上腕の筋肉の太さが生存率と相関関係にあることも判明しています。

慢性腎臓病患者さんを対象とした試験。週3回、1日40分の有酸素運動と筋力トレーニングを行った患者さんは、腎機能値の改善が見られた

慢性腎臓病の患者さんを対象としたイギリスの試験では、通常の治療のみを行う患者さん10人と、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング、以下、筋トレと略す)を行う8人を比較しています。週3回、有酸素運動は1日40分、筋トレは20回行われました。試験の結果、通常の治療のみを行ったグループでは腎機能が低下の一途をたどっていたのに対し、有酸素運動を行ったグループでは腎機能の数値が徐々に改善していったのです。

運動の有効性に関する数々の報告を踏まえ、慢性腎臓病の治療を取り巻く環境が変化しつつあります。2016年からは、ステージG4以降の糖尿病性腎症の患者さんに限って、透析を予防するための運動療法に健康保険の適用が認められるようになりました。運動療法は生活指導も含めた腎臓リハビリテーションとして、全国の医療機関に普及しつつあります。現在、保存期・透析期を問わず、慢性腎臓病の患者さんに運動療法をすすめる医師は増えてきました。

まだすべてが解明されたわけではありませんが、なぜ運動が腎機能の維持に有効なのかについても研究が進んでいます。今回は「炎症」というキーワードとともに、筋肉と腎臓の関係に迫ってみましょう。

炎症とは生体反応の1つで、組織の損傷や外敵の侵入といった体の異常に反応して起こります。本来は体を保護しようとする機能であるものの、長期間に及んで炎症が治まらないと周囲の組織を傷つけてしまうようになります。長期間にわたって起こる、くすぶるような軽度の炎症反応が持続した状態を「慢性炎症」と呼びます。慢性炎症は生活習慣病と密接な関係にあるといわれています。

筋肉を増強したマウスでは腎臓の細胞の損傷が少なく機能も維持できた

慢性腎臓病の患者さんの腎臓でも、慢性炎症が起こっています。慢性炎症によって腎臓の細胞が傷つくことで、腎臓の機能がますます低下してしまうのです。慢性腎臓病の進行を抑えるには、腎臓に起こっている慢性炎症を抑えることが大切です。

炎症を観察するにあたって、指標となるのが「インターロイキン」です。インターロイキンは「サイトカイン」と呼ばれるコミュニケーション物質(ホルモンや情報伝達物質など)の一つで、細胞が(ぶん)(ぴつ)しています。サイトカインは、細胞と細胞間の情報伝達の役割を果たしているといわれており、インターロイキンは特に炎症と深い関わりのあるサイトカインです。

インターロイキンの中でも、IL-6は炎症が起こっている際に多く分泌される特徴があり、IL-10は炎症を抑える働きがあることが知られています。日常的に運動を行っている慢性腎臓病の患者さんは、運動を行わない慢性腎臓病の患者さんに比べてIL-6は少なく、IL-10が多い傾向にあります。つまり、運動には炎症を抑制して腎機能を保護する働きがあると考えられるのです。

マウスを2つのグループに分けて、一方の遺伝子を操作して筋肉を増強した。すべてのマウスの腎臓に負荷を与えたところ、筋肉を増強したマウスのほうが腎臓の細胞の損傷が少なく、機能も維持された

腎臓の炎症と筋肉の関係については、マウスを使った実験でも確認されています。マウスを二グループに分けて、一方のグループは運動をしなくても筋肉が強化されるように遺伝子を組み替えました。二グループすべてのマウスの腎臓に負荷をかけたところ、筋肉が強化されたマウスは腎細胞の損傷が抑えられているだけでなく、腎機能の低下も抑えられていることが判明したのです。

複数の研究によって、筋肉から「マイオカイン」というコミュニケーション物質が放出され、腎臓が受け取ることでなんらかの作用が働き、腎機能の維持・増強に役立っていることが推察されています。運動を習慣にして筋肉を増強することが、腎機能の維持につながるのです。

運動は、有酸素運動と筋トレの両方を行うことが大切です。最初は少ない時間・回数から始めながら、徐々に増やしていくといいでしょう。

筋力トレーニングは下肢の大きい筋肉を鍛えると効率的でスクワットがおすすめ

有酸素運動は、歩行やジョギングなどの無理のない範囲内で安全に続けられる運動を行いましょう。わざわざマラソンのような負荷の大きい運動に取り組む必要はありません。1回につき20~30分、1日1~2回、週3~5日を目安にして行うようにしましょう。

筋トレには、特に大きな決まりはありません。取り組みやすいもので、転倒などの危険が少ないものを選びましょう。大きい筋肉を動かすほうが効率がいいと考えられるため、下半身の筋肉を強化する筋トレがおすすめです。

筋トレの中でも、私が患者さんにおすすめしているのが「スクワット」です。最初は無理のない程度に少ない回数から始め、徐々に回数を増やしていくようにしましょう。あくまでも自分の体力と相談しながら無理のない範囲内で、15回を一セットとして1日3~5セット、週に3~5日をこなせるようになるのが最終目標です。

スクワットのやり方にも大きなしばりはありませんが、目安として一例をご紹介しましょう。まず両足を肩幅より少し広めに開けて立ちます。(つま)(さき)は、30度程度開きましょう。ひざは足の人さし指の方向を向くようにしてください。お(しり)を後ろに引くように体を沈めます。この際、ひざが爪先より前に出ないように意識して、90度に曲げるのが理想です。ひざを曲げた状態で一度静止したら、ゆっくりと体を起こしましょう。

スクワットは、筋力が少なかったり、バランス力に自信のなかったりする方には転倒の危険が伴ってしまいます。最初は必ずイスやテーブル、壁などに手を添えて行うようにしてください。回数を重ねて負荷がもの足りなくなったら、水を入れたペットボトルなどを両手に持って行うと、下半身をさらに鍛えることができます。

立って行う運動が困難な方には「レッグレイズ」がおすすめです。レッグレイズはあおむけの状態から始めます。3~5秒かけて息を吐きながら、両ひざを胸に近づけます。1秒静止した後で、曲げていた足をゆっくりとまっすぐに伸ばし、地面から少し高い位置で静止します。以上の動きを1回として、再び足を折りたたむ動作に戻ります。スクワット同様に無理のない範囲内で、5~10回を一セットとして1日3~5セット、週に3~5日行うのを最終目標にしてください。

基本的に、運動は慢性腎臓病のステージに関係なくおすすめします。初期の人はもちろん、透析目前の保存期の患者さんや透析を行っている患者さんにもおすすめです。ただし、心疾患や極度の肥満、変形性ひざ関節症など、慢性腎臓病以外の疾患で運動を制限されている方は、必ず医師の指導を守るようにしましょう。

慢性腎臓病が進行すると、「代謝性アシドーシス」という疾患を合併します。〝血液の番人〟である腎臓は、血液の酸性とアルカリ性のバランスを調整する役割も担っています。腎機能が低下して本来弱アルカリ性に保たれるべき血液が酸性に傾いた状態を、代謝性アシドーシスといいます。代謝性アシドーシスになるとさまざまな問題が生じますが、筋力の低下もその1つです。

代謝性アシドーシスが起こりやすい慢性腎臓病の患者さんは、筋力が低下しやすい状態にあるといえます。そのため、運動を継続的に行って筋力を維持することがとても重要です。さらに、運動は慢性腎臓病の最大の合併症といえる脳卒中や(しん)(きん)(こう)(そく)などの心血管障害の予防にも有効です。ぜひ、運動習慣を日常生活に取り入れて、腎機能の維持に努めてください。