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COPDは心筋梗塞や心不全、脳血管障害にも要注意

呼吸器科

かい内科クリニック院長 甲斐 達也

COPDの9割以上は喫煙が原因で発症し約半数が合併症を患い心筋梗塞の合併も深刻

[かい・たつや]——1992年、近畿大学医学部卒業後、同大学大学院修了。医学博士。新金岡豊川総合病院内科、近畿大学医学部高血圧老年内科講師・医局長、済生会富田林病院循環器内科部長、さくら会病院内科部長、田仲北野田病院内科部長などを経て、2020年より現職。日本内科学会認定総合内科専門医・地区評議員、日本循環器学会認定循環器専門医、日本高血圧学会認定高血圧専門医・指導医・評議員。

COPD(シーオーピーディー)慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん))は、タバコの煙などに含まれる有害物質に長期間さらされることにより、肺が持続的な炎症を起こして呼吸機能が低下する呼吸器疾患です。わが国では、COPDの発症原因の90%以上が喫煙とされていることから、生活習慣病の一つと考えられます。

COPDの患者さん約3000人を対象に行われた研究では、約半数の患者さんがなんらかの併存症を有していました。さらに、2つの併存症を有する患者さんは全体の11%、3つ以上の併存症を有する割合は全体の2%と報告されています。

また、中等度以上のCOPDの患者さん1万6000人を対象とした研究では、高血圧や心筋梗塞(しんきんこうそく)、心不全、脳血管障害、糖尿病のうち2つ以上を合併している割合は18~20%と報告されています。この割合は健常者と比較して約2倍とされており、COPDは重症になるにしたがって全身に障害が起こりやすくなることが分かります。

COPDの患者さんが循環器疾患を合併しやすい背景として、「炎症反応の亢進(こう しん)」「低酸素血症」という2つの理由が挙げられます。

炎症反応の亢進
COPDを発症すると、安定期であっても酸化ストレスの亢進やICAM-1の上昇、炎症性サイトカインの増加が起こります。その結果、COPDそのものが動脈硬化(血管の老化)の危険因子になります。

酸化ストレスは、体を傷つける活性酸素の産生が過剰となり、活性酸素を消去する抗酸化能とのバランスがくずれた状態です。酸化ストレスは、COPDや動脈硬化、心筋梗塞、感染症、(じん)機能障害、認知症、パーキンソン病、自閉症、うつ病やがんといった炎症を伴う病気との関連性も指摘されています。

ICAM-1は接着分子とも呼ばれ、多くの炎症性疾患に対して重要な役割を果たしています。免疫の(かなめ)である白血球が炎症部位へ遊走して移行・浸潤(しんじゅん)という役割を果たすためには、血管内皮(ないひ)にICAM-1などの接着分子を使って接着することが必要といわれています。

サイトカインは炎症反応の重要な調節因子で、細胞から分泌(ぶんぴつ)される低分子のたんぱく質の総称です。サイトカインは侵入した病原体に応答して産生され、免疫細胞の刺激や動員、増殖をさせます。サイトカインには、インターロイキン(IL)やケモカイン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(しゅようえしいんし)(TNF)などがあります。COPDの場合は、TNF‐α(アルファ)、インターロイキン6などが上昇し、炎症を亢進させることが分かっています。

低酸素血症
COPDの患者さんは肺の気腫(きしゅ)性変化(肺胞(はいほう)が過拡張すること)により、動脈と静脈がつながって作られるシャント血流が増加し、酸素と二酸化炭素を交換するガス交換が正常に行われなくなります。特に、労作(ろうさ)時に肺血流量が増加するとガス交換が困難になるため、血液中の酸素量が不足する低酸素血症になります。

COPDは全身性の炎症疾患のため、さまざまな併存症が起こる

低酸素血症の状態が続くと、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)や血管を強力に収縮させるエンドセリンという物質の発現が誘導され、血管のリモデリングと呼ばれる血管壁の構造的変化を招きます。動脈硬化と血管のリモデリングにより、血管壁の狭小化やプラーク(血液中の脂肪やコレステロールから作られる粥状(じゅくじょう)物質)が不安定な形で作られるようになります。不安定プラークが心臓で破裂すると狭心症や心筋梗塞が起こり、脳で破裂するとアテローム性脳梗塞の原因となります。

ほかにも、COPDによる低酸素血症は、肺血管の収縮や肺血管(しょう)(肺の微小血管が集まる組織)の破壊、二次性多血症、体液貯留などの要因によって、肺高血圧(心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が高い状態)を発症させます。その結果、慢性的な肺高血圧によって右心室の機能が低下する肺性心や右心不全を招いてしまうのです。

アメリカで3万5000人を対象に行われた研究では、COPD患者の有病率は健常人と比較して不整脈が2.3倍(11.3%)、狭心症が2.16倍(6.6%)、急性心筋梗塞が2.42倍(2.3%)、うっ血性心不全が6.12倍(19.0%)、脳梗塞が1.47倍(4.8%)と分かっています。

また、COPD患者に気管支拡張薬のチオトロピウムを投与することにより、肺機能の改善とともに心筋梗塞とうっ血性心不全の発症が有意に抑制したと報告されています。そのため、COPDと循環器疾患が密に関係していることが示唆されています。

COPDの患者は呼吸器疾患だけでなく循環器の機能低下も深刻で早期治療が大切

COPD患者さんの死亡原因は呼吸不全や肺炎といった呼吸器疾患が最も多く、その割合は約35%と報告されています。2番目に多い死亡原因は循環器系の疾患で、約27%と報告されています。COPDは呼吸器疾患に該当する病気ではあるものの、全身の炎症や細胞の酸素不足を招くという病態から、「呼吸器にとどまらない全身性の病気」ともいえるでしょう。

COPDが進行していくと、呼吸器だけでなくさまざまな臓器や器官に障害が起こるようになります、特に、COPDに伴って発症する血管障害は深刻で、心筋梗塞や心不全、脳梗塞といった命を脅かす病気を招く場合も少なくありません。COPDと診断されても適切な治療を受ければ肺機能の低下を遅らせることは可能です。すでにCOPDと診断されている人はもちろん、呼吸器の不調に悩んでいる人は、専門医による治療を受けることをおすすめします。