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冬は心肺機能が低下しやすく寝たきり危険度も上昇

呼吸器科

筑波大学名誉教授 細川 淳一

寒い冬は血管障害が起こりやすい季節で細菌やウイルス感染による肺炎にも要注意

[ほそかわ・じゅんいち]——長野県生まれ。東京大学大学院博士課程修了(健康科学・衛生学・環境保健学)。宇都宮大学講師、東京教育大学(現・筑波大学)講師、筑波大学助教授を経て、同大学教授。現在は同大学名誉教授。健康科学分野の第一人者として、ヒアルロン酸をはじめとする機能性素材の研究や、海外交流の振興にも貢献。天津職工医科大学客員教授、国際個別化医療学会顧問、国際食品機能学会会長など、多数の要職を務める。

私が専門とする健康科学とは、 従来の衛生学をさらに現代化した学問です。「人々の健康と健康生活を確立し、心身ともに長寿をまっとうするために、衣・食・住をはじめとするあらゆる環境の重要性を踏まえて科学的に分析・実践化する学問」と定義されます。環境と健康の関係について長年研究を続けている私は、日本国内では学会の理事や顧問、公的機関の委員などを務めながら、世界中の環境問題に関わってきました。

健康科学を考えるうえで重要な指標といえるのが、介護や介助を受けることなく自立した日常生活が過ごせる期間を指す「健康寿命」です。2021年7月に厚生労働省が発表した最新の調査結果によると、日本人の平均寿命は女性が87.74歳(世界第1位)、男性が81.64歳(世界第2位)となり、ともに過去最高を更新しました。私たち日本人は、長年にわたって世界トップクラスの寿命を誇っています。

一方で、見過ごすことができない調査結果もあります。2017年に厚生労働省が日本人の健康寿命を調べたところ、女性が74.7歳、男性が72.1歳と分かったのです。世界トップクラスの寿命を誇る日本人は、天寿をまっとうするまで十年前後の間、介助や介護が必要な時間を過ごしているのです。

もう一つ、最新の調査結果をご紹介しましょう。2020年に厚生労働省が発表した『2019年度・人口動態統計月報年計』によると、日本における高齢者の死亡原因の第1位はがん、続く第2位に心疾患、第4位の脳血管疾患、第5位の肺炎と続きます。

調査結果の中で注目を集めたのが、これまで第4位~第5位だった老衰が、初めて第3位になったことです。老衰は「ほかに記載すべき死亡の原因がない自然死」と定義され、超高齢社会となった現在の日本を現す象徴として大きく報道されました。ともに高齢者の死亡原因の上位にありながら、天寿をまっとうする老衰と心疾患・肺炎の間には、生活の質を考えると大きな隔たりがあるといえます。

出典:厚生労働省
『2019年度・人口動態統計月報年計』をもとに作成

心筋梗塞(しんきんこうそく)に代表される心疾患と同様、血管障害が脳に起こって発症するのが脳梗塞です。脳血管疾患は、先の調査で死亡原因の第4位となっています。血管障害は治療の開始が遅れたり、適切な治療を受けられなかったりすると、言語や運動障害などの後遺症が心配され、寝たきりになるおそれもあります。

高齢者の死亡原因の第5位となる肺炎は、昨年に世界中を襲った新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)以降、報道されることが増えた呼吸器疾患です。肺炎は、肺炎球菌をはじめとする細菌やウイルスが口から気管支へと入り込み、肺の中で炎症を起こして発症します。免疫力が正常であれば、白血球をはじめとする免疫細胞が細菌やウイルスを撃退できますが、高齢者や病中病後など体力が低下した人は肺の炎症が進み、呼吸困難を招きます。特に高齢者の場合は、カゼをこじらせて肺炎に至る場合があるので注意が必要です。

肺炎の中には、細菌やウイルスが付着した唾液(だえき)が誤って気管に入り、肺の中で増殖する誤嚥(ごえん)性肺炎もあります。健康な人が誤嚥をしたときは、セキやむせといった反応(嚥下(えんげ)反応)が起こり、誤嚥した異物を吐き出すことができます。しかしながら、高齢者や体力の低下が著しい人は、吐き出すことができません。のどの感度が鈍っている場合は、誤嚥をしたことすら気づくことができず、肺の中の炎症が進行してしまうのです。

心疾患と同様、肺炎も高齢になるほど死亡率が上昇します。実際に、肺炎で亡くなる人の97%以上が65歳以上となっています。冬に肺炎が起こりやすいのは、気温の低下に伴って鼻やのどの粘膜(ねんまく)の働きが弱くなり、ウイルスに対する抵抗力が弱くなることも一因です。高齢者が命を守るためには、「カゼを引かない」「肺炎にかからない」ことが大切といえるでしょう。

冬は寒さや運動不足などによって血流が悪くなっています。特に、寒い外気と暖かい室内の寒暖差が大きいことから、血圧の急激な上昇が起こりやすくなります。その結果、血管や心臓に負担がかかって心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなります。 健康寿命を考えるうえで、冬の過ごし方はとても重要です。新型コロナウイルス感染症の蔓延以降、私たちは三密(密閉・密集・密接)を意識した生活を送っています。心肺機能を守るためにも、外出先から帰宅した際は手洗いとうがいをこまめに行い、カゼとインフルエンザの流行期には人混みを避けるようにしましょう。