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女性は更年期から骨の老化が進みやすくヘバーデン結節など指関節の炎症にも要注意

整形外科

女性のための整形外科 かおるこHappyクリニック院長 伊藤 薫子

骨の新陳代謝は女性ホルモンと密接に関係し40代から骨密度の検査を推奨

[いとう・かおるこ]——慶應義塾大学整形外科入局。国立埼玉病院、永寿総合病院、国立栃木医療センター大久保病院を経て、米国Cleveland Clinic留学(2011~2013年)。帰国後、慶應義塾大学病院骨粗しょう症外来担当。2021年、「いくつになっても背筋を伸ばしてハイヒール」をモットーに開業。厚生労働省による再生医療認定施設。更年期セルフケアや骨粗鬆症の予防として「骨活プログラム」を主宰。

加齢現象は、男女ともに50代を境に現れやすくなります。骨がもろくなったり関節に痛みを感じたりするのもその一つです。特に女性は、50歳前後に訪れる閉経という肉体的な変化が大きなきっかけとなります。

女性は閉経により、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌ぶんぴつ量が減少します。更年期と呼ばれる時期を迎えた女性にはさまざまな不調が現れやすくなり、その影響は骨にも及びます。

私たちの骨は、骨を形成する骨芽こつが細胞と破壊する破骨はこつ細胞の働きによって新陳代謝が行われ、新しい骨が作られています。女性ホルモンの減少によって破骨細胞の働きが活発になるため、閉経から3~5年のうちに骨密度が急激に低下してしまいます。

骨密度が20~44歳の30%を下回ると骨粗鬆症こつそしょうしょうと診断され、骨折のリスクが高まります。骨粗鬆症に伴って起こる骨折は年代によって傾向があり、50代は手足の指や肋骨ろっこつ、60代は手首・足首・肩・腕、70代以降は背骨や大腿骨だいたいこつです。年齢とともに、体の末端から中心部へと骨折する部位が変わっていきます。

女性の骨密度は女性ホルモンの分泌が減少する更年期を境に低下しやすくなる
出典「骨粗鬆症の治療と予防ガイドライン」をもとに作成

骨粗鬆症によって起こりやすくなるのが、「いつのまにか骨折」と表現される圧迫骨折です。背骨に起こりやすい圧迫骨折は、骨がつぶれるように折れるため、骨折していることに気づかない人がほとんどです。骨がつぶれた状態で固まってしまうと、背骨が曲がったりゆがんだりしてしまいます。その結果、背中が曲がって歩きづらくなるなど、日常的な動作に支障が現れるようになります。

背骨とともに注意したいのが、大腿骨の骨折です。特に高齢者は大腿骨を折ると治療に時間がかかり、完治も難しいとされています。そのまま寝たきりになる場合や、体力・認知機能の低下も心配されます。骨密度の低下は骨だけの問題ではなく、健康寿命と密接な関係があるといえるでしょう。

「女性のための整形外科」をうたう私のクリニックでは、「40代を迎えたら定期的に骨密度を測りましょう」と呼びかけています。更年期以降、女性は確実に骨密度が低下していきます。年に一度、骨密度を知る機会を設けて数値を確認することで、健康寿命を延ばすためのモチベーションを高めていただきたいと思います。

骨粗鬆症の治療として、かつてはビスホスホネート製剤など、骨が壊れるのを防ぐ内服薬や皮下注射が主流でした。現在は、骨が壊れるのを防ぎながら造る働きを高める皮下注射(抗スクレロスチン抗体)や、骨を造る副甲状腺ふくこうじょうせんホルモン製剤の皮下注射などもあります。

そのほか、女性ホルモンの錠剤を服用したり、パッチを貼ってエストロゲンを経皮吸収させたりする女性ホルモン補充療法(HRT療法)もあります。HRT療法を受けている女性は、高齢になっても骨密度が低下しにくいという研究結果があり、海外では広く普及しています。

骨密度の改善を図るうえで治療薬の活用は有効ですが、毎日の食事から骨に必要な栄養素のカルシウムとビタミンDをとることも大切です。カルシウムは骨を造り、ビタミンDはカルシウムの吸収を高める働きがあります。カルシウムが多く含まれる食材は、大豆食品や乳製品、魚介類で、ビタミンDが多い食材は魚やキノコ類です。これらの食材は、ナチュラル&ミネラル食品ナビゲーターの遠藤京子えんどうきょうこさんが推奨している「ちょい足し食材」として、手軽に補給することができます。

体内でビタミンDを産生する日光浴もおすすめです。4000~8000歩のウォーキングを週に2~3回実践してみましょう。日中に外で行うウォーキングは日光浴も兼ねられます。

へバーデン結節も女性ホルモンの減少と関係が深く再生医療のPRP療法に注目

閉経は骨の老化だけでなく、関節にも影響を及ぼします。最近は、指の第一関節にれや痛みが起こるヘバーデン結節けっせつや、第二関節に起こるブシャール結節など、指関節との関係が報道されるようになりました。

ヘバーデン結節とブシャール結節が起こる原因はいまだにはっきりと分かっていませんが、女性ホルモンの減少や手の使い過ぎによって発症するといわれています。そのため、へバーデン結節は更年期の女性に多く発症します。治療法は痛み止めをはじめ、外用薬やテーピング固定、ステロイド注射、エクオールのサプリメントに加えて、最近は先に挙げたHRT療法、自己多血小板血漿けっしょうばんけっしょう療法(PRP療法)という再生療法などがあります。

PRP療法は、自分の血液から組織修復力のある成長因子を多く含んだ血小板を濃縮して採取したものを患部に注射することで人間が本来持つ自己治癒ちゆ力を引き出して痛みや炎症を抑え、再生を促す治療法です。現在、保険適用はされていませんが、厚生労働省により承認された施設でのみ行うことができます。自身の血液を使用するためアレルギーや副作用の心配が少なく安全性が高い治療法で、治療効果も比較的高いとされています。

現在、PRP療法は関節痛のみならず、ひじや足関節の靭帯じんたいの修復や、顔・手の甲・首の弾力回復、シワの改善、増毛などにも用いられています。へバーデン結節やブシャール結節に対しても、早めにPRP療法を受けることで進行を防ぐことが期待できます。

指関節に痛みを感じた時、自己診断は難しいものです。適切な治療を受けないまま時間が過ぎると、関節が変形してしまうおそれもあります。また、へバーデン結節は関節リウマチと間違われやすいため、誤った治療を受けると薬の副作用で悪化することも考えられます。指関節に腫れや痛み、こわばりといった症状が現れたら、早めに受診するようにしましょう。

伊藤薫子先生が診療されている、
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