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ガン・認知症・心不全・視力にも効果。老化制御で大注目の若返り薬「NMN」とは?

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央

世界中が驚いた!マウスの実験で老齢のマウスが数十歳も若返った?

[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催して活動中。一般社団法人日本先進医療臨床研究会代表理事(臨床研究事業)、一般社団法人ガン難病ゼロ協会代表理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

2015年に放送されたNHKスペシャル『ネクストワールド』の中で〝若返りの薬〟として紹介された「NMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)」という成分をご存じでしょうか。放送ではNMNを服用した生後22ヵ月の老齢マウス(ヒト60歳相当)が生後6ヵ月(ヒト20歳相当)の状態に若返ったと報じられたのです。

このNMNにつながる一連の老化制御の研究は〝サーチュイン遺伝子〟と呼ばれる若返り遺伝子が発見された2000年頃から始まりました。サーチュイン遺伝子が活性化することによって細胞内でエネルギーを生産する「ミトコンドリア」という小器官が増え、同時に細胞内で不要となったたんぱく質や古くなった細胞内器官などが除去される「オートファジー(自食作用)」という細胞再生産の機構が働きます。こうして細胞が若返ると考えられています。

NMN自体は、2011年に米国ワシントン大学医学部の(いま)()(しん)(いち)(ろう)教授が「マウス実験で糖尿病に劇的な治療効果を上げた物質」として発表し、大きな注目を浴びました。そして、この報告を受け、2013年に長寿研究の第一人者であるハーバード大学医学部のデビッド・シンクレア教授がNMNを使った動物実験でマウスの細胞を若返らせることに成功し、NMNの若返り効果を発見しました。

アルツハイマー病をはじめとする認知症の多くは、脳細胞が老化して神経幹細胞が減ることが関係しています。そのため、NMNを早いうちから摂取していれば、神経細胞の減少を食い止めて発症を抑える可能性のあることがマウス実験によって判明しました。

また、(けい)(おう)()(じゅく)大学医学部内科学教室の()(とう)(ひろし)教授、眼科学教室の(つぼ)()(かず)()教授、薬理学教室の(やす)()(まさ)()教授、生理学教室の(おか)()(ひで)(ゆき)教授らと今井眞一郎教授らの研究グループは、抗老化候補物質として期待されるNMNが健康なヒトに安全に投与可能であることを世界で初めて明らかにしました。

現在のところ、NMNにほんとうに若返り効果があるのかどうかはまだ結論が出ていません。しかし、NMNには否定的な面は発見されておらず、それどころか、目の疾患や難聴、肝臓や心臓を守る作用があると分かっています。

また、肝臓ガンにかかったマウスにNMNを投与したところ、(しゅ)(よう)が消えたこともありました。まだ実験段階ですが、NMNは加齢に伴う疾患全般に効果がありそうだということが分かってきたのです。そのため、加齢疾患の一つであると考えられているガンに対しても効果があるのではないかと、多くの研究者や医学者が考えています。

(とう)(かい)大学医学部の(かわ)(かみ)(さと)()客員准教授(試験実施責任者)が行ったNMNによるヒト由来乳ガン細胞MCF7に対する制ガン効果を確かめた実験。対照群(100%)に対して、1㍉㌘/㍉㍑(30.9%)、0.1㍉㌘/㍉㍑(27.6%)、0.01㍉㌘/㍉㍑(40.7%)といずれの濃度のNMNでもMCF7が有意に減少し、制ガン効果を発揮していることが分かる

NMNは、老化によって衰えた体全体のミトコンドリアを活性化します。そして、エネルギーの活性を高めて体全体の弱点を克服するのです。その結果、各臓器などの不調や機能不全が治ると考えられています。つまり、NMNは治療薬というより機能改善剤とでもいうべき役割を担っているのです。そのため、NMNを治療に使う場合には、加齢に伴う諸症状をNMNで抑えながら、例えばガン治療であればガンに効果的な別の治療素材を併用するのがいいのかもしれません。

また、NMNが脳のコントロールセンターに関与していることも分かってきました。NMNによって活性化されるサーチュイン遺伝子は、NAD(+)(ニコチン・アミドアデニン・ジヌクレオチド)という生体のいたるところで働いている〝脱アセチル化酵素〟の働きによって遺伝子をオン・オフしたり、さまざまなたんぱく質を活性化させたりすることが判明しています。つまり、このNAD(+)が老化制御のカギだったのです。特に老化制御においてNAD(+)がどこで活性化されることが最も重要なのかが研究された結果、脳の〝()(しょう)()()〟と呼ばれる領域が特定されました。脳の視床下部が老化・寿命を制御するコントロールセンターだと分かったのです。

また、視床下部以外でも、脂肪組織と骨格筋での働きが重要だと分かってきました。例えば、マウスに()()刺激を与えると視床下部のNAD(+)の活性が低下します。すると、脂肪組織からNAD(+)合成を促進する指令が出るのです。脂肪組織は視床下部でのサーチュイン遺伝子の機能が一定に保たれるように調節する役目を持っているといえるのです。

現在、世界一の超高齢社会といわれる日本では、NMNによる発想の逆転が必要なのではないかと思います。つまり、病気を研究して治療方法を探すよりも、ほとんどの病気のリスク因子である老化制御ができる予防策を講じれば、複数の病気をまとめて防ぐことができるわけです。いわば、加齢に伴う病気に対して先制攻撃ができるのです。これが「予防医療」を超えた「先制医療」という考え方です。

NMNはヒトでの安全性の確認が完了しています。そのため、加齢由来疾病、慢性疾患、免疫系疾患、抗ガン(根治、転移抑制、延命効果など)に関する臨床研究が世界中で行われていて、近い将来、NMNでガンを根治するという夢のような効果も期待されています。

NMNは生体内物質で食品区分に分類されるため、薬ではなくサプリメントとして実用化されています。サプリメントにしても薬にしても、大事なことは科学的な作用機序が明確に解明されて、予防に使えるかどうかが臨床研究できちんと検証されることです。

なお、NAD(+)は概日リズムがあります。ヒトの場合には午前中に上昇します。そのため、NMNをサプリメントとして摂取するなら朝にとるのがよいようです。