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Dr.朝田のブレインエクササイズ(特別編) 「不可思議塗り絵」に挑戦!

認知症

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

塗り絵に夢中になっている時間は、脳にとてもいい影響を与えています。不思議なイラストの塗り絵を、ぜひ完成させてください。

塗り絵に没頭したときの「無心」は瞑想の状態と酷似し脳波の活性化に期待大

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

特別編の今回は「不可思議塗り絵」を出題します。塗り絵は簡単に取り組むことができ、老若男女を問わず楽しめるものです。高齢者のためのデイサービスでは、特に人気のある脳トレです。塗り絵が完成したときの達成感や満足感を経験したことがある人は少なくないでしょう。

私は認知機能の研究者として、塗り絵に集中しているときの「無心」「静寂な心」に注目しています。そもそも私が塗り絵に注目するようになったのは、知人の言葉がきっかけでした。会社の代表を務めている知人は、社内・社外を問わず、さまざまな問題に直面し、頭を悩ませていました。そんな彼にとって、最も落ち着ける時間こそ、塗り絵に熱中しているときだったのです。

その話を聞いた私は「塗り絵に没頭しているときの脳波は、瞑想(めいそう)時の脳波に似ている」という仮説を立てました。いまも、その考えに変わりはありません。

私たち人間は、一生懸命に無心になろうと思っても、無心になることはできないのだそうです。むしろ、軽い心理的負荷がかかる作業に熱中していると、無心の状態に近づくといわれています。皆さんも、瞑想や黙想をしながらも無心になれず、さまざまな思いがよぎってしまった経験をお持ちではないでしょうか。私の場合は、連想というより妄想が芋づる式になってしまうほどです。「考えるな、考えてはいけない」と思うと、さらに新しい連想が生まれてしまう気がします。

さて、近年では「マインドフルネス」と呼ばれる瞑想が流行っています。マインドフルネスとは〝いまこの瞬間〟に意識を置いた脳の状態をいいます。過去の嫌な経験や未来の不安から脳を解放してあげることで、ストレスの軽減が期待できます。禅やヨガ、(たい)(きょく)(けん)なども同じような効果が期待できるでしょう。マインドフルネス瞑想を実践する際に必要な動きは腹式呼吸です。呼吸をすることだけに集中しながら、1分間に10回以下の呼吸になるように、ゆったりと行いましょう。

マインドフルネス瞑想は、脳科学的にも研究されています。多くの研究では、瞑想を行うことで脳波の中でも低周波α(アルファ)波とθ(シータ)波が活発になることが分かっています。瞑想状態になることで脳がリラックスするだけでなく、鋭い意識を維持する基盤を作れることが分かってきたのです。塗り絵に没頭することで得られる「無心」の時間は、脳がマインドフルネス瞑想をしているときと同じような状態に導いてくれると考えています。

現実ではありえないものを描いた不可能図形の「違和感」で脳を刺激

不可能図形の一例

塗り絵は純粋に楽しむだけでも脳にいい影響を与えますが、今回の出題は、さらに脳を刺激する要素を加えました。「ブレインエクササイズ!」の連載でたびたび掲載している「不可能図形」です。一見すると普通の立体物に見えるものの、現実の世界ではありえない物体を描いた図形を不可能図形と呼びます。代表的な不可能図形として知られているものに、ペンローズという数学者が生み出した「ペンローズの階段」があります。

ペンローズの階段をはじめ、不可能図形を作品として描いた画家として有名なのがエッシャーです。「永遠」「無限」というテーマを持ちつづけた彼は、二次元の平面上に三次元の空間を描く「錯視」を使った作品のほか、数学的アプローチによって独自の絵画空間を描き出しました。

ペンローズの階段の一例

エッシャーのような図形を描くのは難しすぎると思われがちですが、一部のエッシャー図形の作り方は簡単に描けるような工夫がなされており、いまでも小学校や中学校などの教育現場でも紹介されています。今回紹介している2つの塗り絵は、エッシャーの発想を取り入れて描いた不可能図形です。

不可能図形の違和感は、脳にとって新しい刺激となります。どこが現実の世界でありえないのか、目と脳をしっかりと使って考えた後に塗り絵を楽しんでください。

雑誌の紙質を考えると、色鉛筆などよりも水性ペンや油性ペンを使って塗るといいでしょう。上の図で紹介しているペンローズの階段の一例のように、影のイメージをつかみながら色塗りをすすめましょう。

あなたも不可思議塗り絵に挑戦!❶

ペンローズの階段に色を塗ってみましょう。

すぐに色塗りを始めるのではなく、最初は全体の構造を把握することをおすすめします。階段の終着点や壁の向きに注意することが大切です。影を入れる部分は悩むところですが、不可能図形であることも忘れないようにしましょう。凸凹の逆転や前後の逆転の錯覚に惑わされると思います。不思議な感覚は脳の刺激になるので、大いに楽しんでください。全体の構図が理解できたら、ペンを持って色塗りに没頭しましょう。

あなたも不可思議塗り絵に挑戦!❷

色を塗って風景画を完成させましょう

不思議な風景を描いたイラストです。広大なイラストなので塗り絵としてだけでも満足できますが、このイラストの中にも不可能図形が盛り込まれています。

まずは、3D空間を歩くようなイメージで広大なイラストを楽しみましょう。不可能図形は中央からやや左上にあります。皆さんは、お分かりいただけたでしょうか?

目で見て理解した後は、考えながら色塗りをしてみましょう。どこに影を入れたら立体的になるかを考える際、障壁となるのが不可能図形です。不可能図形の周辺に起こっている矛盾をどのように乗り越えるかが腕と頭の使いどころです。

不可能図形の不思議な感覚を楽しみつつ、塗り絵に没頭することで脳にいい刺激を与えることができます。脳機能の向上に私がおすすめする「不可思議塗り絵」をぜひ楽しんでください。

塗り方の一例は次ページです。

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