現代の最新医療でも、認知症を改善させる薬や治療法は開発されていません。
そのような中、独自の手法によって認知症に取り組む医師が増えています。
今回ご紹介する3つの脳活性法は、異なる脳の領域を刺激して活性化させる注目のメソッドです。
植物脳・動物脳・人間脳に働きかけて効率よく脳を活性化
私のクリニックでは、認知症やうつ病の患者さんでもらくに取り組める、独自の脳活性法を紹介しています。患者さんへの効果についても、大変よい結果が出ていると自負しています。私が患者さんにすすめている脳活性法が高い効果を出している理由は、脳のさまざまな部分を刺激するからです。
脳は大きく分けて、①脳幹、②大脳辺縁系、③大脳新皮質の3つの層から構成されています。
私はこれらの3つの層を「植物脳」「動物脳」「人間脳」と呼んでいます。脳幹は呼吸や睡眠、血液循環、排尿、体温の調整など、生きていくために最低限必要な機能を担っていることから「植物脳」と定義しています。大脳辺縁系は食欲や性欲といった本能的な欲望や感情をつかさどっていることから「動物脳」といっていいでしょう。私が「人間脳」と呼んでいる大脳新皮質は、最も進化した部分です。理性や思想、運動、言語といった、人間らしい行動をつかさどっています。
私が認知症やうつ病の患者さんに行っているのは、投薬でもなければカウンセリングでもありません。「呼吸法」「ひざの上下運動」、そして「お手玉」の3つです。呼吸法は植物脳に、ひざの上下運動は動物脳に、お手玉は人間脳に主に働きかけます。呼吸法・ひざの上下運動・お手玉を実践した患者さんの脳の血流を、脳血流シンチグラフィーという検査で調べてみました。すると、取り組む前に比べて、前頭葉をはじめとする脳の血流が改善していることがわかったのです。さらに、〝幸せホルモン〟とも呼ばれ、心のバランスを整える脳内物質のセロトニンが分泌されることもわかりました。
ひざの上下運動とお手玉は、声を出したり歌ったりしながら行うと、より効果的です。ひざの上下運動は「いーち、にー、さーん」と声を出しながら、お手玉は「もしもしカメよ♪」などと童謡を歌いながら行ってみましょう。呼吸やリズムを整える作業が加わって、脳がより活性化します。
それでは、実際のやり方をご紹介しましょう。
● ティッシュペーパー呼吸法
ティッシュペーパーをのりづけしたハンガーを逆さに持ち(「中原医師がすすめる脳活性法」の図参照)、ティッシュが水平になるように息を吹きかけます。思いっきり息を吸って、吐ききることに集中しましょう。
最初は4~5回吹くだけで頭がクラクラすると思いますが、続けることでしだいに慣れ、回数が増えていきます。10回を1セットとし、1日4セット行うことをめざしましょう。
● ひざの上下運動
イスに座った状態でゆっくりと足踏みするようにひざを上げ下げする運動です。1秒に1回の速さで上げ下げするのが目安です。ひざを無理に高く上げる必要はありません。
片足10回ずつの上げ下げを交互にくり返し、合計30回ずつが1セット。1日5セット以上が目安です。
認知症の患者さんが脳活性法を試したら顔に生気が戻ってきた
● お手玉
玉を落とさずにお手玉の動きを続けるには、目でしっかりと玉の動きをとらえながら、リズミカルに左右の手を動かす必要があります。実際にお手玉をやってみると、なかなか難しいことがわかります。これは、脳への刺激が大きい証拠なのです。
お手玉をしているとき、私たちの脳では前頭葉や後頭葉といった大脳新皮質内のさまざまな領域が使われています。お手玉をすることで、心のバランスを整えるセロトニンや、やる気や記憶力を高めるβエンドルフィンが分泌されることもわかっています。
最初は片手で玉を投げ、受け取るところから始めてみましょう。お手玉に慣れている人は、利き手と逆の手で投げてみるのもいいでしょう。玉の数を増やしたり、玉に回転をかけたり、玉の重さを変えたりすることで脳の活性化につながります。
実際に私がすすめる脳活性法に取り組んだAさん(女性・77歳)の例をご紹介しましょう。
物忘れや目と耳の不調に続き、めまいにも悩まされるようになったAさんは、認知症を発症。複数の医療機関で治療を受けても効果が見られなかったことから、娘さんに連れられて私のクリニックを受診しました。
私がAさんに3つの脳活性法を指導すると、能面のように無表情だった顔に生気が戻ってきたのです。その後も脳活性法を続けたAさんは、6日後には娘さんのつき添いなしで通院できるようになりました。視力や聴力も回復し、普通の暮らしができるようになったと、娘さんはとても喜ばれています。
今回紹介した3つの脳活性法は、自宅で簡単に実践できます。空いた時間を使って毎日続けることが大切です。