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COPDは肺気腫・慢性気管支炎と呼ばれた呼吸器疾患で遺伝的・環境的因子の相互作用で発症

呼吸器科

呼吸ケアクリニック東京理事長 木田 厚瑞

COPDの増悪は息切れや呼吸困難を招き肺機能が低下するため要注意

[きだ・こうずい]——1970年、金沢大学医学部卒業後、同大学院医学研究科修了。医学博士。東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)呼吸器科、カナダ・マニトバ大学留学、東京都老人医療センター呼吸器科部長、日本医科大学呼吸器内科教授、同大学特任教授、東京医療学院大学客員教授を経て、2019年より現職。日本内科学会認定総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会元理事長、身体障害者福祉法呼吸器機能障害指定医、東京都難病指定医。一般社団法人GOLD日本委員会理事。

肺の機能が低下して起こる呼吸器疾患として、多くの高齢者を悩ませているのが「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」です。COPDは、気管支が細かく枝分かれして最も細くなった細気管支から病変が始まる病気です。細気管支は5万~7万本以上もあるため、気づいた時にはすでに広い範囲に病変が広がっています。

細気管支の先には、酸素を取り入れて二酸化炭素を出す肺胞があります。肺胞が広い範囲で壊れた状態が肺気腫です。階段を上る時や重い荷物を持って歩く時に激しい息切れが起こることで肺気腫に気づく場合が少なくありません。

COPDは国際的には死因の第3位といわれるほど注目されていますが、わが国では診断率が低くて適切な治療を受けている人が極めて少ないことが問題です。

COPDは、以前はタバコ病と呼ばれるほど喫煙者に特有な病気と見なされていましたが、近年の研究では、乳幼児期の肺の発育段階で肺炎などの重い病気を経験した人や、妊娠中に喫煙習慣のある妊婦から生まれた子ども、大気汚染だけではなく長く過ごす室内での空気汚染など、多様な生活環境が要因となることが分かってきました。そのため、実は空気がきれいな農村や高地生活者にもCOPDの患者さんが多いことが知られています。また、年齢層も必ずしも高齢者だけではなく、若年層でも隠れている場合があります。非喫煙女性に多いこともぜんそくとの区別という点で分かりにくくなっています。

COPDは、息切れなどで日常生活が不自由になるだけでなく、経過中に急に悪化することがあります。多くは風邪の症状から始まり、数日の間に重症となる「増悪」が起こることが問題です。新型コロナウイルス感染症の流行期間中には、増悪によって多くのCOPDの方が犠牲になったといわれています。

COPDの診断は、今の症状だけではなく、幼児期からの変化、血縁関係に同じような呼吸器の病気の方がいないかなど、詳しい問診を行います。診察では特に肺の聴診所見は大切で、呼吸運動とともに肺の中で生じるさまざまな雑音や呼吸状態によって、現在の状態が「増悪」であるかどうかを判断することができます。安定した状態での詳しい肺機能検査を実施することによって、肺の容積が減っているか、空気の吐き出しが障害を受けているか、酸素の取り込みが障害されているか、吸入の薬の効果が期待できるかどうかなどを厳密に判断します。

COPDは進行すると日常生活に支障をきたすことが多いため、平地を6分間歩く検査を行うことがあります。日常の歩行が制限されるような息切れがないか、酸素不足が生じていないかを判断します。普段の生活の中で歩行する際に息切れが起こる場合はCOPDの可能性があるため、呼吸器内科で検査することをおすすめします。

COPDの死亡原因では、重症の肺炎、心血管病変、肺がんが多いことが明らかになっています。心筋梗塞などの心血管病変は軽症のCOPDでも多く起こり、経過中に肺がんが発見されることも少なくありません。そのため、COPDの治療の開始を始める段階で胸部CT(コンピューター断層撮影法)検査を実施しておくと、その後の経過を正確に判断する材料となります。

COPDの肺は肺胞の弾力がなくなって縮まなくなる。また、気管支は壁が厚くなったり、粘膜が腫れたりして狭くなる

COPDの治療は、軽症で日常生活に不自由を感じない程度であれば、薬は必ずしも必要ではありません。ただし、軽症の場合でも、経過中の「増悪」に注意することが重要です。息切れや呼吸困難などの症状が重い時には、薬物治療と非薬物治療を並行して行います。薬は吸入薬を使う場合が多いですが、近年は薬の種類が多くなっているため、病状に合わせて使いやすいものを主治医と相談しながら選ぶことが大切です。非薬物治療では、日常の運動や食事療法を行って筋肉量や栄養状態の維持・改善を目指します。

COPDは悪化すると買い物など日常生活に必要な外出が不自由になって交友関係も減り、最終的には自宅から出られない状態になる場合があります。患者さんの中には、トイレに行くのがやっとの状態にまで生活の質(QOL)が低下していきます。治療はこれらの悪循環が進まないようにするために行います。

近年、COPDに関する研究が盛んに行われており、治療内容が日進月歩で進化しています。かかりつけ医と専門医が組んで行うと治療がうまくいくため、早めに専門医療機関への受診をおすすめします。