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COPDの二大対策は呼吸法と運動療法!生活の質が高まる[千住式トレーニング]

呼吸器科

びわこリハビリテーション専門職大学教授 千住 秀明

COPDの患者さんに呼吸リハビリは有効で正しい呼吸法の習得で生活の質が著しく向上

[せんじゅう・ひであき]——1974年、九州リハビリテーション大学校卒業。星ヶ丘厚生年金病院、国立療養所近畿中央病院、長崎大学医療技術短期大学助教授、オーストラリアカーティン大学留学、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授、公益財団法人結核予防会複十字病院呼吸ケア・リハビリテーション付部長を経て、2022年から現職。呼吸理学療法の第一人者として『COPD理学療法診療ガイドライン』の作成に携わる。日本呼吸学会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、欧州呼吸器学会などに所属。

呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハビリと略す)は、呼吸器疾患によって低下した呼吸器の機能を、維持・回復させる治療法です。セキやタン、息苦しさなどの症状を改善し、患者さん自身が自立した日常や社会生活を送るための継続的な支援を目的としています。

呼吸器疾患の中でも、C(シー)O(オー)P(ピー)D(デイー)慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん))の患者さんには、呼吸リハビリが特に有効です。COPDは、かつて肺気腫(はいきしゅ)慢性気管支炎(まんせいきかんしえん)と呼ばれていた疾患で、喫煙などによって有害物質を長期間にわたって吸入することで起こります。

ひと口に呼吸リハビリといっても、内容は呼吸訓練をはじめ、排痰(はいたん)訓練、運動療法、栄養療法など多岐にわたります。今回の記事では、呼吸リハビリの基本となる呼吸訓練と運動療法について解説しましょう。

まずは、呼吸法の基本について解説します。ほとんどのCOPDの患者さんは、首と肩の筋肉を使った「胸式呼吸」で呼吸をしています。「呼吸が浅く・速くなる」特徴がある胸式呼吸は疲れやすいだけでなく、酸素を取り込む効率が悪くなって息切れが生じやすくなります。息切れが起こると、さらに浅く速い呼吸になるため、より息切れが激しくなる悪循環を招きます。

胸式呼吸に頼らず、少しでもらくな呼吸ができるように私が患者さんに指導しているのが「口すぼめ呼吸」と「腹式呼吸」です。特に、口すぼめ呼吸は呼吸リハビリの基本といえる呼吸法です。COPDの患者さんが呼吸をする際は、息を吸うことよりも息を吐き出すことが難しくなります。口すぼめ呼吸は「息を吐く」ことを意識した呼吸法です。

口すぼめ呼吸は、鼻から息を吸った後、すぼめた口から吐き出していきます。口すぼめ呼吸のポイントは、口のすぼめ方です。口をすぼめすぎると腹部に過剰な力が入り、逆に息切れを起こしやすくなります。口のすぼめ方や吐く強さは、コップの水にストローでゆっくりぶくぶくと泡を立てる程度と考えるとよいでしょう。

口すぼめ呼吸によって吐く行為がらくになるのは、気管支の内側に圧力がかかって気管支が広がり、肺から空気を出しやすくなるからです。気管支拡張剤との相乗作用で気管支がより広がることで、呼吸機能のさらなる改善が期待できます。

腹式呼吸は、胸部と腹部の間にある横隔膜(おうかくまく)という筋肉を意識して動かす呼吸法です。横隔膜を動かす際に肺も一緒に動くため、肺の働きが低下しているCOPDの患者さんにはとても有効です。腹式呼吸は、横隔膜の動きを感じやすいひざを立てたあおむけの状態から習得することをおすすめします。

口すぼめ呼吸と腹式呼吸は慣れるまでは難しく感じますが、習得できれば確実に息切れの改善を実感できます。日常生活でこの二つの呼吸法を自然に行えるようになれば、生活の質が著しく高まることでしょう。

次に、運動療法について解説しましょう。運動中は、必ず口すぼめ呼吸と腹式呼吸を意識して行い、息を吐き出す時に動くようにしましょう。運動療法は、柔軟性トレーニングと持久力トレーニング、筋力トレーニングの三つに分けられます。

柔軟性トレーニングは、筋肉や連動する関節を伸ばすトレーニングです。全身のどの部位でも有効ですが、COPDの患者さんは、特に肺周辺の呼吸筋(呼吸時に用いる筋肉)を緩めるトレーニングがおすすめです。一般的にCOPDの患者さんは呼吸筋が固く、大きく動かすことが難しくなっています。呼吸筋の動きが悪くなると、呼吸をする際に肺が十分に広がらず、息切れの原因となります。柔軟性トレーニングを行って肺周辺の筋肉をしなやかにすることで、息切れの改善が期待できます。

柔軟性トレーニングのほかに、持久力トレーニングや筋力トレーニングに取り組んで筋肉をつけることも大切です。苦しいからといって動かなくなると筋力が衰えて、簡単な動作でも息切れを起こしやすくなります。体に筋肉がつけば動作に必要な酸素の量が少なくすむため、呼吸がらくになるのです。

運動療法で効果を得るには、息苦しさを伴わず、体力的に少しきつい程度の運動を実践することです。運動量が少なすぎると効果を発揮しませんが、COPDの進行度によっては控えたほうがいい運動もあります。今回の記事では運動療法の一例をご紹介しますが、トレーニングの内容は医師と相談しながら決めたほうがいいでしょう。

千住先生がすすめる運動療法その1

肺周辺の筋肉を柔らかくする柔軟性トレーニング

呼吸筋を中心に、肺周辺の筋肉と連動する関節を伸ばす運動です。柔軟性トレーニングによって呼吸筋がしなやかになれば呼吸時に肺が広がりやすくなり、息切れの改善が期待できます。

※ストレッチや運動療法の回数はあくまで目安です。無理のない範囲で行い、疲れた時は口すぼめ呼吸を行いながら休憩を取りましょう

千住先生がすすめる運動療法その2

らくな呼吸で歩ける[持久力トレーニング]

適切な呼吸法を習得することで、運動時に肺の負担を減らすことができます。さらに、持久力を高めるための筋力強化も効果的です。最初は平地での散歩から始め(目標6000歩)、筋力が強化されてきたら、自転車エルゴメーターやトレッドミル(屋内歩行器)などのマシンを活用してもいいでしょう。

※運動中の呼吸は口すぼめ呼吸と腹式呼吸を使い、慣れるまでは息を吐く時の歩数を少なめにしましょう。無理はせず、こまめに口すぼめ呼吸で休憩を挟むようにしてください

千住先生がすすめる運動療法その3

筋肉を強化して肺の負担を減らす[筋力トレーニング]

下半身を中心に筋力を強くすることで呼吸時に肺の負担を減らすことができます。正しい姿勢を取りながら、リズミカルに、呼吸とあわせて筋肉に適切な負荷をかけていきましょう

※動作は呼吸にあわせてゆっくり行いましょう。筋力トレーニングは、鍛えた部分しか効果を発揮しません。全身をバランスよく鍛えることが大切です