きみづか整形外科リハビリテーション科理学療法士 渋谷 佳樹
神経は決まった感覚領域・筋肉を支配し脊柱管狭窄症ではふくらはぎ・すねの筋力低下を招く
加齢など、さまざまな原因で骨や軟骨、椎間板、靱帯が変形すると、背骨(脊椎)の腰の部分にあたる腰椎の「脊柱管」が狭くなります。すると、脊柱管の内部にある神経や血管が圧迫されて血流が悪化。神経に浮腫(水ぶくれ)や炎症が起こって、足腰の痛みやしびれなどが現れるようになります。こうして起こるのが、腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)です。
脊柱管が狭窄することで神経が圧迫を受けやすい部位に「椎間孔」があります。椎間孔は上下の椎骨の間に位置し、神経の通り道になる部位です。椎骨が積み重なって構成されている背骨は運動によって動くため、椎間孔の面積も背骨の動きに合わせて狭くなったり広くなったりします。
「運動時の椎間孔の面積」のグラフからも分かるように、椎間孔の面積は前屈すると広がり、後屈すると狭まります。神経の通り道になっている椎間孔の面積が狭まれば神経の圧迫が生じやすく、広がれば神経の圧迫が軽減することが期待できるわけです。
これらの報告をもとにおすすめしたいのが、椎間孔の面積を広げて、脊柱管狭窄症による足腰の痛みやしびれを改善する[ネコ背体操]です。
まず四つばいの姿勢になって、腰を丸めます。背中ではなく、腰を丸めるように意識しましょう。次に、そのままの状態を保ちながら、お尻をできる限り後ろに下げます。お尻を後ろに下げながら、腰をさらに丸められるのが理想的です。
脊柱管狭窄症の患者さんは、足腰の痛みやしびれ、だるさを訴えることが多く、中には臀部や太もも裏に痛みやしびれを訴える方もいます。患者さんによって訴える症状に違いが出るのは、圧迫されている神経の部位が異なるためです。
脊髄は、脳と体の各部を結ぶ主要な神経の経路です。長く傷つきやすい管状の構造をしており、脳の底部から下方に伸び、椎骨が重なってできた脊椎に守られています。椎骨と椎骨の間には軟骨でできた椎間板があり、衝撃を和らげています。
脊椎は、次の4つの領域に分けられます。
①頸椎(Cervical)…首
②胸椎(Thoracic)…胸
③腰椎(Lumbar)…腰
④仙椎(Sacral)…骨盤
4つの領域は頭文字のアルファベット(それぞれC、T、L、S)で表され、脊椎の各領域の椎骨には上から番号が付けられています。例えば、頸椎の一番上は「C1」、胸椎の二番目は「T2」、腰椎の三番目は「L3」、仙椎の四番目は「S4」といった具合です。
それぞれの神経は脊髄から出た後、対応する体の部位に向かいます。そのため、一本一本が支配する感覚領域と筋肉がおおむね決まっており、筋力低下やマヒ、感覚低下がどこに起こったかに着目することで、脊髄のどこに圧迫が生じたのかを推定できます。
脊柱管狭窄症では、腰椎の四番目(L4)と五番目(L5)、その下の神経の枝(S1)の支配領域に痛みが生じることが多くのケースで見られます。運動面でも、同様の神経(L4・L5・S1)が支配する筋肉で筋力低下が生じやすくなります。具体的には、L5の神経が主に支配するすね付近やS1の神経が主に支配するふくらはぎの筋肉で筋力低下がしばしば認められます。また、太もも裏側の筋肉も、L4・L5・S1の神経の支配を受けるため、筋力低下が認められることがあります。
ただし、脊柱管狭窄症の患者さんは、股関節を持ち上げる筋肉やひざを伸ばす筋肉の筋力低下も報告されています。また、加齢や動きの癖、別疾患の影響などによって、ほかの部位の筋肉にも筋力低下が認められる場合も多々あります。そのような場合は、総合的な筋力トレーニングが必要な場合もあります。
今回は、脊柱管狭窄症によって直接的に筋力低下が起こりやすい筋肉に絞って筋力トレーニングの具体的な方法をご紹介します。ふくらはぎの筋力を強化する[ふくらはぎ筋トレ]です。
まずテーブルなどに手をついて腰をできるだけ丸めます。背中ではなく、腰を丸めるように意識しましょう。次に、そのままの姿勢を保ちながら、かかとを3秒間かけて上げて、3秒間かけて下ろします。
脊柱管の狭窄部の圧力を減らすため、腰をなるべく曲げて行うのがポイントです。写真の3のように腰が反ってしまうと、腰椎の狭窄部の圧力が上昇してしまう可能性があるので注意しましょう。
脊柱管狭窄症の症状改善を目指す[ネコ背体操]と[ふくらはぎ筋トレ]のそれぞれの回数の目安は、10回を一セットとして1日3セット程度です。2つの運動療法は[ネコ背体操]→[ふくらはぎ筋トレ]の順番で取り組んでください。[ネコ背体操]で神経の圧迫を軽減させた状態(筋力を発揮しやすい状態)で[ふくらはぎ筋トレ]を行うとさらに効果的だからです。
ただし、運動中や運動後に足腰の痛みやしびれが生じたり、悪化したりする場合は中止してください。また、ひざ関節の可動域制限がある場合は無理のない範囲で行いましょう。
運動療法全般にいえることですが、「症状が消えるか、残るか」という二者択一ではなく、「(症状は残っているけれど)痛みやしびれの頻度が減少した」「痛みやしびれの程度が軽いものになった」という場合は状態が好転していると解釈してください。理学療法士としての経験則上、運動療法を継続する意義は十分にあると考えています。