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変形性ひざ関節症の痛みの軽減に有用な杖には“太さ”が重要

整形外科

西九州大学リハビリテーション学部理学療法学専攻教授/同大学院生活支援科学研究科教授 大田尾 浩
西九州大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科講師 釜崎 大志郎

変形性ひざ関節症の痛みは軟骨のすり減りが原因で軟骨への負担を減らすことが重要

[おおたお・ひろし]——1999年、医療福祉専門学校緑生館理学療法学科卒業後、佛教大学社会学部社会福祉学科卒業。吉備国際大学保健科学研究科保健科学専攻修了。保健学博士。理学療法士。河畔病院リハビリテーション科、姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科助手、県立広島大学保健福祉学部理学療法学科助教、西九州大学リハビリテーション学部理学療法学専攻准教授を経て、2018年より現職。日本理学療法士協会会員。

変形性ひざ関節症は、ひざの軟骨がすり減って関節炎や関節の変形が生じ、痛みや炎症などが起こる病気です。ひざ関節は、太ももの大腿骨(だいたいこつ)とすねの脛骨(けいこつ)、ひざの「お皿」と呼ばれている膝蓋骨(しつがいこつ)で構成されています。脛骨のすぐ外側には「腓骨(ひこつ)」と呼ばれる細い骨があり、靭帯(じんたい)によって大腿骨・脛骨と結ばれています。

関節軟骨には神経がありませんが、周辺にある骨や関節軟骨を包む「関節包(かんせつほう)」、関節包の内側にある「滑膜(かつまく)」などの組織には神経があります。関節軟骨がすり減って変形性ひざ関節症を発症すると、大腿骨と脛骨の隙間(すきま)が狭くなっていき、関節包や滑膜が変形したり、「(こつ)(きょく)」と呼ばれる骨の突起が形成されたり、関節軟骨のかけらができたりします。それらの刺激によって滑膜に炎症が生じると、ひざに痛みが起こるのです。

さらに、滑膜に炎症が起こると、「炎症性サイトカイン」という物質が産生されます。炎症性サイトカインには炎症反応を促進する働きがあり、炎症が悪化することで痛みを増悪(ぞうあく)させてしまいます。

関節軟骨がすり減ることで衝撃を吸収する働きが低下し、骨に直接衝撃が加わってしまうことも痛みの原因の一つです。特に、関節軟骨の下で土台の働きをしている硬い骨(軟骨下骨)が露出するようになると、骨どうしがぶつかり合って強い痛みが生じるようになります。

[かまさき・たいしろう]——2018年、西九州大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科理学療法学専攻卒業後、同大学院生活支援科学研究科リハビリテーション学専攻修士課程修了。2021年から鹿児島大学大学院保健学研究科博士後期課程に在籍。理学療法士。雪の聖母会聖マリア病院リハビリテーション室を経て、西九州大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科、医療法人伊藤医院デイケアセロリでの理学療法士を兼務。

変形性ひざ関節症の多くのケースでは、歩き出しや立ち上がりに痛みを伴います。すり減った軟骨を再生させるのは難しいと考えられるため、痛みを軽減しながら軟骨への負担を減らすことが大切です。

軟骨への負担を減らす方法の一つとして、「(つえ)の使用」が思いつくのではないでしょうか。杖は痛みがない健側(けんそく)で使用することで軟骨への負担を減らすことができます。ただし、杖は正しく使わなければ、本来の効果を発揮しません。杖を正しく使えていないためにかえって軟骨に負担をかけてしまったり、事故を招いてしまったりするケースも多く見受けられます。

杖の正しい使い方は、ひざの状態や腰の曲がり具合、普段の姿勢によって変わるため、一概にはいえません。ただ、主治医に「杖の正しい使い方を理学療法士から教わりたい」と伝えれば、患者さんそれぞれに適した杖の使い方を教わることができます。

また、適切でない杖を使っている場合も問題です。第三の足となる杖は、選び方を間違えると大事故につながりかねません。この記事では、一般的によく使用されているT字杖の正しい選び方をご紹介しましょう。

ひざの負担を減らす杖は太さ、握りやすさ、滑り止めの素材・形状に着目することが大切

太さ
杖の役割は、ひざにかかる負担を分散させることです。杖にある程度体重を乗せることになるため、直径約2㌢の太さがないと負担を支えきれない場合があります。

持ち運びを優先させるために、軽量化された杖や折り畳みができる杖が発売されています。しかし、安全面を考慮すると、あまり推奨はできません。利便性よりも、安全性を優先して太さのある杖を使うことをおすすめします。

握りやすさ
人によって手の大きさが異なるため、杖の持ち手の太さによって握りやすさが変わります。握りやすさは握力に関係し、杖を使って歩き出す時に手に力が入らないと快適な歩行はできません。持ち手を握った時に、力がグッと入る太さかどうかを確認しましょう。

力が入らなかったり、持ち手が滑ったりする場合は、持ち手の部分に取り付けられるグリップが市販されています。グリップを杖に装着して、握るのにちょうど良い太さになるかどうかを確認しましょう。また、クッション性やデザイン性に優れたものもあるため、自分の好みに合わせて杖を選ぶのも長く使う秘訣(ひけつ)です。

滑り止めの素材・形状
地面に接する滑り止めがしっかりしていないと、杖を正しく使っても滑ってしまい、転倒する危険があります。滑り止めはゴムの素材や形状によって、地面との摩擦(まさつ)(りょく)が異なります。特殊なガラス繊維を練り込んだゴムや突起がついた形状など、摩擦力の高い滑り止めをおすすめします。

また、杖の滑り止めは靴の底と同様に、使えば使うほどすり減ります。長年、杖を使っている患者さんで滑り止めを替えていない場合、滑りやすくなっていることが少なくありません。滑り止めの状態を確認し、すり減っていたら交換することをおすすめします。

「転ばぬ先の杖」ということわざがあるように、ケガや転倒をする前に杖を使いはじめることが大切です。杖を正しく使うことでひざへの負担が減り、変形性ひざ関節症の予防や痛みの軽減が期待できます。杖に興味がある方は、整形外科専門医や理学療法士に相談してみてください。