呼吸ケアクリニック東京理事長 木田 厚瑞
肺気腫・慢性気管支炎と呼ばれたCOPDは遺伝的・環境的因子の相互作用で発症する
肺の機能が低下して起こる呼吸器疾患として問題視されているのが「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」です。COPDは気道(気管支炎・細気管支炎)や肺胞(肺気腫)が広い範囲で治りにくい炎症を起こし、肺の構造が広い範囲で壊れる病気ですが、さらに肺全体の弾力性が低下して息を吐いた時に肺が縮みにくくなることも原因です。肺が縮まなくなると呼吸しづらくなり、苦しさを覚えるようになります。この現象は、階段を上る時などに強く起こります。
COPDの主な症状は以下になります。
● 呼吸困難(息切れ)
● 慢性的なセキとタン
● 喘鳴(呼吸時に呼吸器がヒューヒュー、ゼーゼーと鳴ること)
肺機能検査では、気管支や細気管支の中を空気が流れにくくなる気流閉塞が見られます。気管支を広げる吸入薬を吸った後でも改善度が少ないことで、喘息と区別します。
精密な肺機能検査では、肺拡散能(ガス交換を行う能力)の低下が見られます。通常、COPDの重症度は、吸入薬による負荷テストの後の気流閉塞の程度により決まります。日常生活が支障を受けているかどうかは、6分間平地歩行テストを実施します。450㍍以上歩くことができ、その間の酸素飽和度の低下が4%以内であることが目安とされています。
さらに、高感度の胸部CT(コンピューター断層撮影法)検査で肺全体の微細な変化を確認します。胸部CT検査は早期の肺がんを発見するうえでも重要なため、定期的に検査することをおすすめします。
COPDの診断や治療の方針は、診療のガイドラインで決められています。COPDに関する正しい知識の普及を通じて健康増進に寄与することを目的にしている国際的な組織である「GOLD」が、2023年に発表した内容が最も新しい情報です。これによれば、今まではCOPDはタバコの煙をはじめ、家庭・屋外の大気汚染による有害粒子やガスの吸入によって生じる肺の炎症性疾患と考えられてきました。しかし、それだけではなく、乳児期に重い肺炎を起こした場合や、胎児期に母親が喫煙を行って正常な肺の構造の発育が妨げられた場合、成人になってからCOPDを患うことが分かってきました。
乳幼児期の肺の発育障害がある場合には、COPDの症状は思春期以前にすでに認められる場合が多く、この時点で治療が始められるべきと考えられています。COPDを正しくとらえるためには、従来のような喫煙者の中高年に多い病気という考え方では不十分であることが判明しています。
COPDの死亡原因は、重症の肺炎や肺がん、心筋梗塞などの循環器疾患に大別されます。治療を進めながら、これらが起こらないように定期的な検査が必要です。COPDの患者さんは、次のことを意識して生活を送りましょう。
● 肺機能を低下させずに息切れを改善して快適な生活にすること
● 増悪が起こった場合はできるだけ早く治療を開始すること
● 経過中の併存症に注意すること
特に、増悪は放置すると苦しい症状が続くだけでなく肺機能が低下し、元に戻らなくなります。適切な治療を早期に行うことで、増悪の前に近い状態に戻すことができます。
母親の妊娠中も含め、さまざまな原因によって起こるCOPDですが、最も高いリスクは喫煙や職業的な粉塵、有害なガスの吸入です。妊婦の喫煙や受動喫煙には十分に注意しましょう。体質でCOPDが発症しやすい人がいることが判明していて、電子タバコや加熱式タバコのいずれも安全ではありません。また、農作業などで煙を吸うような仕事の場合も同様に、COPDが発症しやすいので注意が必要です。
カゼが長期化していたり、軽い息切れやセキ、タンが長引いていたり、体重減少が起こりはじめていたりする人は「年のせい」と考えず、早めに呼吸器専門医の診察を受けましょう。