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間質性肺炎は肺胞を囲む組織の炎症で起こる呼吸器疾患で適切な対症療法が大切

呼吸器科

呼吸ケアクリニック東京理事長 木田 厚瑞

間質性肺炎は肺胞を取り囲む組織の炎症で起こり日常生活の動作で呼吸困難を招く

[きだ・こうずい]——1970年、金沢大学医学部卒業後、同大学院医学研究科修了。医学博士。東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)呼吸器科、カナダ・マトバニ大学留学、東京都老人医療センター呼吸器科部長、日本医科大学呼吸器内科教授、同大学特任教授、東京医療学院大学客員教授を経て、2019年より現職。日本内科学会認定総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会元理事長、身体障害者福祉法呼吸器機能障害指定医、東京都難病指定医。一般社団法人GOLD日本委員会理事。

肺は私たちの体に欠かせない酸素と体内で不要になった二酸化炭素を交換する働き(ガス交換)を担う大切な臓器です。肺はブドウの房のように肺胞(はいほう)という小さな袋状の器官が集まってできています。肺胞の総数は、左右の肺を合わせると約3億個以上もあると考えられ、その壁の厚さはわずか100分の1㍉です。

肺胞の壁を構成しているのが間質(かんしつ)です。間質はコラーゲンやエラスチンと呼ばれる線維(せんい)状の構造に多糖体と呼ばれる(のり)のような物質がからみついた構造から成り立っています。強さを保ちながら呼吸に合わせて伸び縮みするのに都合のいい構造なのです。この壁の中を細い毛細血管が網目となって肺胞を構成しています。

間質性肺炎とは、肺の間質を中心に炎症が起こる肺疾患の総称です。さまざまな原因によって薄い肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、肺胞の壁が広い範囲で厚く硬くなると(線維化)、肺の伸びが悪くなってガス交換がうまくできなくなります。肺の最小単位である(しょう)(よう)を囲む小葉(かん)(しょう)(へき)や肺を包む(きょう)(まく)のすぐ下から線維化が進むことが多く見られますが、全体として肺が膨らみにくくなります。

さらに線維化が進んで肺が硬く縮むと、胸部CT(コンピューター断層撮影法)検査で蜂巣肺(ほうそうはい)といわれる多数の穴(嚢胞(のうほう))を確認することができます。肺機能検査では、肺活量が減少し、さらに肺拡散能の低下が見られます。6分間平地歩行テストでは、日常の歩行で大幅な酸素飽和度の低下が見られるようになります。

間質性肺炎の特徴的な症状としては、安静時には感じない息切れが、坂道や階段の上り下りだけでなく、平地の歩行中や入浴・排便といった日常生活の動作の中でも起こるようになります(労作時呼吸困難)。患者さんによっては、季節に関係なく現れるタンを伴わないセキ(乾性セキ)に悩まされる人もいます。間質性肺炎は長年かけて徐々に進行するため、自覚症状が出る頃には病状がかなり悪化している人も少なくないのです。

間質性肺炎の原因として、強皮症や多発性皮膚筋炎(たはつせいひふきんえん)などの膠原(こうげん)(びょう)(自己免疫疾患)、職業上や生活上でのほこりやカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)、病院で処方される薬剤・漢方薬(薬剤性肺炎)、特殊な感染症などが挙げられます。

間質性肺疾患の中でも原因が特定できないものは、総称して「特発性間質性肺炎」と分類されます。「特発性」とは発症の原因が不明という意味です。中でも原因が不明で治療が難しく短期間で悪化していくのが「特発性肺線維症」です。特発性肺線維症は特発性間質性肺炎の中で最も多く、80~90%を占めています。

わが国における特発性肺線維症の発症率と有病率については、「厚生労働科学研究難治性疾患研究事業びまん性肺疾患に関する調査研究班」で報告されています。具体的な数字をご紹介しましょう。

2003年から2007年における北海道での全例調査では、特発性肺線維症の発症率は10万人当たり2.23人、有病率は10万人当たり10.0人でした。ただし、このデータは古く、また特定の地域だけに限定しています。米国では約20%が過敏性肺炎に相当するという最近の報告もあり、詳しい実態は不明であるのが現状です。

間質性肺炎の進行に伴って間質が厚く硬くなると、酸素と二酸化炭素の交換がしにくくなる

過敏性肺炎は、特定の物質を吸入することによって発症しやすい体質で起こることが知られています。鳥を飼っていたり、羽毛の布団(ふとん)を使っていたり、エアコンや加湿器など機器内のカビを吸い込んだりすることで招く場合があります。

特発性間質性肺炎のうち最も治療が難しい特発性肺線維症は50歳以上の男性に多く、ほとんどが喫煙者といわれています。肺が壊れて肺胞が広がっていく肺気腫(はいきしゅ)と肺線維症が合併した「気腫合併肺線維症」は、喫煙歴があって息切れを自覚する患者さんに多く発症することが分かっています。また、間質性肺炎では、経過中に肺がんの合併が多く見られるため、定期的な胸部CT検査を受けることをおすすめします。

近年になり、進行性で肺に線維化を伴う間質性肺疾患を改善させる治療薬である「抗線維化薬」が出てきました。すべての間質性肺炎で効果があるわけではないため、症状やさまざまな検査によって薬の処方が決まります。

従来、間質性肺炎の治療効果が認められている薬剤として、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬と免疫抑制薬が使われてきました。近年は、厳密に区分されて効果が期待できる場合に投与します。また、特発性肺線維症に対しては、抗線維化薬が処方されます。臨床研究の進歩によって効果がある間質性肺炎の適用範囲が広がってきています。改善が期待できる場合には、十分説明を聞いたうえで処方されることがあります。

治療効果は間質性肺炎の種類によって異なるため、これらの薬剤が間質性肺炎のすべてに有効というわけではありません。可能な範囲で厳密に効果がある薬を選択し、生活の質を向上させるとともに予後を安定させることが治療の目標となります。

いずれの薬剤も効果の期待度が低く副作用のおそれがあるため、病状の進行によっては薬物療法を行わずに経過を見ることもあります。特に高齢者の場合には、判断が難しいことが多くなります。これらの薬剤のほかに、セキやタンが多い患者さんには、鎮咳薬(ちんがいやく)去痰薬(きょたんやく)を処方する場合があります。最近では鎮咳薬の研究が進み、強力な新薬が使われはじめています。

間質性肺炎を悪化させないためにも、喫煙者は直ちに禁煙が必要です。間質性肺炎はカゼなどの感染症をきっかけとして、急激に進行・悪化しやすくなることがあるため注意しましょう。

間質性肺炎の急性増悪と呼ばれる症状としては、発熱や急激な呼吸困難の悪化、セキ、タンなどがあります。急性増悪を起こさないためには、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの感染予防が大切です。また、肺炎球菌ワクチンの接種によって、肺炎などの感染症を予防して重症化を防げるため必ず打つようにしましょう。少しでも不調を感じた時は、すぐに呼吸器内科を受診することをおすすめします。