熊沢 義雄
花粉症の人にとって、スギ花粉が飛びはじめる2月は何よりも嫌な季節です。専門的にいえば、花粉症の人は体の中でスギ花粉に対するIgE抗体が多く作られ、親和性を持つマスト細胞の受容体と結合します。スギ花粉と抗体が結合すると、脱顆粒と呼ばれる反応が起こり、アレルギーを引き起こすヒスタミンなどが放出されるのです。
抗アレルギー薬には、脱顆粒反応を起こさないようにするタイプと、ヒスタミンと拮抗して作用するタイプがあります。抗ヒスタミン薬は、脳内の受容体に結合して眠くなりやすい副作用があります。最近では、IgE抗体を作らせないようにする免疫療法も行われています。この治療法は、抗体作りにブレーキをかける制御性T細胞を誘導するものですが、効果が現れるまでに時間がかかるのが難点です。
2~3月は花粉症だけでなく、間質性肺炎が急性増悪しやすい季節でもあります。血液中のビタミンDの濃度が低くなりやすいこの季節は、インフルエンザやカゼなど呼吸器疾患の発症と相関しています。日本でビタミンDは骨のビタミンというイメージですが、世界的には免疫のビタミンと認識されています。
間質性肺炎は、肺の間質部に炎症が起こり、コラーゲン線維を作る細胞が集まることで発症します。間質性肺炎の1つである特発性肺線維症は原因不明の疾患で、治療も困難です。病院で間質性肺炎と診断されても適切な治療法がないことから、医師に「しばらく様子を見ましょう」といわれ、そのままになってしまうことが多いのです。
間質性肺炎は、薬の副作用によって誘導されることも分かってきました。例えば、抗がん剤治療を受けている肺がんの患者さんは、間質性肺炎を発症する危険度が高まります。漢方薬の小柴胡湯や脂質異常症の治療に使われるスタチン、一般的な解熱剤の使用も、間質性肺炎を起こす原因の一つといわれています。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)はタバコ病ともいわれる肺疾患です。喫煙によって酸化ストレスがかかることで肺組織が破壊され、徐々に呼吸が苦しくなっていきます。間質性肺炎やCOPDの患者さんはセキや息苦しさに悩まされ、外出時には酸素吸入器が必要になるなど、生活の質(QOL)が著しく低下してしまうのです。
花粉症や間質性肺炎、COPDは、体の中で炎症が起こって発症します。花粉症は抗原が少なくなると症状が治まっていきますが、間質性肺炎やCOPDによる肺の炎症は持続的です。肺疾患の治療は、とにかく大変なのです。
私は、慢性炎症のリウマチに目をつけて、植物成分のフラボノイドの作用との関係を調べました。その結果、ミカンに含まれるヘスペリジンとタマネギのケルセチンに抗リウマチ作用があることを見つけました。
ビタミンDと優れた植物成分は、慢性炎症による呼吸器疾患の症状の悪化を抑えるのに役立つと考えています。