そうえん整形外科クリニック院長 宗圓 聰
骨粗鬆症が引き起こす脚のつけ根の骨折は生活の質の低下に加え命の危険にもつながる
骨粗鬆症は、骨密度が低下して骨折しやすくなる骨の病気です。骨がもろくなっているため、軽い転倒による骨折だけでなく、セキやくしゃみをしただけでも骨折の危険が高まります。
日本国内の患者数は高齢化に伴って増加傾向にあります。女性に多く見られ、患者全体に占める女性の割合は8割以上にも上ります。
骨粗鬆症は、腰部脊柱管狭窄症や変形性関節症と並んで、運動器症候群(ロコモティブシンドローム)の3大原因の1つです。命を直接的に脅かす危険はありませんが、要支援・要介護になって寝たきりを招くリスクを高め、QOL(生活の質)を著しく低下しかねません。
骨粗鬆症が原因で骨折が生じやすいのは、脚のつけ根の大腿骨近位部、背骨の椎体、腕のつけ根の上腕骨近位部、手首の橈骨遠位端などです。特に、大腿骨近位部を骨折した場合、歩行能力の低下などの後遺症が残ることが多く、介護が必要な状態となるリスクが高まります。
大腿骨近位部を骨折する人の数は増えつづけています。1992年には7万6600人ほどだったのに対して、20年後の2012年には17万5000人以上にも及び、3人に1人は治療を受けても元どおりに歩行ができるまでの回復が難しいといわれています。
大腿骨近位部の骨折は、自宅での軽い転倒や階段の踏み外しなどによって簡単に引き起こされてしまいます。多くの場合、治療には手術が必要となりますが、高齢になると体力や持病などの問題から手術自体が難しい例もあります。たとえ手術が成功したとしても、術後の日常生活を送るうえで車イスが欠かせなくなることも少なくありません。
また、大腿骨近位部を骨折すると、股関節の大腿骨頭(太ももの骨の先端)に血流が行き届きにくくなります。その結果、骨が壊死を起こして潰れ、変形性股関節症に至ることもあるのです。
さらに、大腿骨近位部の骨折で恐ろしいのは、高齢者の場合、手術後1年以内の死亡率が10%ほどになることです。原因は複数考えられますが、骨折後の活動の低下に伴って心肺機能が衰弱してしまうことなども要因の1つといわれています。
大腿骨近位部骨折の原因は、9割以上が転倒によるものです。そのため、骨粗鬆症の予防だけでなく、転倒を防ぐこともとても大切です。背中が丸まっていたり、すり足になって爪先が上がっていなかったりすると転倒しやすくなります。体幹や下半身のトレーニングを行うことで、姿勢の改善に努めましょう。
また、みずからの体の重みによって背骨が押し潰される「圧迫骨折」は、腰や背中が曲がってしまう原因となります。自覚症状が少ないため、「ただの老化だろう」と見過ごされることが少なくありませんが、骨粗鬆症患者さんは1ヵ所の骨を折ってしまうと、周辺の骨にも大きな負担がかかって連鎖的な骨折を招くおそれがあります。日頃から意識するように心がけ、少しの変化でも医師の判断を仰いだり、定期的に骨密度の検査を受けたりするようにしましょう。早期発見・早期治療が何よりも大切です。
加齢や閉経で低下する骨密度を維持するには食事や運動などの生活習慣の改善も大切
骨粗鬆症の主な要因は、加齢や生活習慣、閉経後のホルモンバランスの変化、過度なダイエット、薬の影響などが挙げられます。1つだけでなく、複数の要因が重なって発症することもあります。特に女性の場合、加齢に加えて女性ホルモンの分泌が減少しはじめる閉経後は注意が必要です。
骨は、体のほかの組織と同様に新陳代謝を繰り返しています。骨が古くなったり、血液中のカルシウム濃度が低くなったりすると、破骨細胞が骨を壊す「骨吸収」が行われます。一方で、骨吸収された部分には、骨芽細胞が新しい骨を作る「骨形成」が行われます。このように、破骨細胞と骨芽細胞が常に活動しながら、毎日少しずつ骨を作り変えているのです。
ところが、加齢や閉経に伴って女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量が減少すると、骨の新陳代謝に異常が生じます。骨の新陳代謝の際、エストロゲンは骨吸収を緩やかにし、骨からカルシウムが溶け出すのを抑制します。したがって、エストロゲンが減ってしまうと、骨吸収のスピードが速くなり、骨形成が追いつけずに骨がもろくなって、骨粗鬆症を引き起こしてしまうのです。
骨粗鬆症の発症には、運動や食事などの長年の生活習慣が深く関わっています。そのため、骨粗鬆症の治療では薬物療法に加えて、運動療法や食事療法などに継続的に取り組んで骨密度を高めていくことが大切です。
骨を強くするには、骨の形成に関係する栄養素であるカルシウムやビタミンD、たんぱく質を積極的に摂取するとともに、カルシウムを骨に蓄えるために有効とされる運動を定期的に行う必要があります。飲酒を控えたり、禁煙に取り組んだり、適度に日光を浴びたりして骨密度の維持に努めましょう。