無理なく腎臓病の食事療法を続けるには治療用特殊食品を活用することも大切
慢性腎臓病(CKD)の食事療法のポイントは、食事で摂取する塩分やたんぱく質の量を管理して、適正なエネルギーを確保することです。
腎臓の機能が低下すると、ほとんどの場合、血圧の上昇が認められるようになります。高血圧になると腎臓にかかる負担が増え、腎機能が低下して血液のろ過が十分にできなくなり、塩分制限が必要になります。一日の塩分量は3㌘以上6㌘未満に調整するようにしてください。
ただし、塩分を減らすだけでは料理が味気なくなってしまいます。塩分の代わりに、柑橘類の酸味や香辛料、薬味を利用するといいでしょう。また、煮物は塩分が多くなりがちです。そこで、塩分が少なくてもおいしくいただける焼き物やいため物、揚げ物、酢の物を取り入れるようにしましょう。
調味料は「かける」より「つける」、汁物は一日1杯を目安にして、麺類の汁は残すようにします。手軽に活用できるのは減塩調味料ですが、いくら薄いといっても、かえって過剰になる危険性があるので使いすぎには注意してください。
たんぱく質は筋肉や内臓など身体を作る栄養素です。たんぱく質は二〇種類のアミノ酸から構成されており、特に人間の体内で作ることのできない必須アミノ酸は食品から補わなければなりません。必須アミノ酸がバランスよく含まれているのは、牛肉・鶏肉・豚肉などの肉類、アジ・イワシ・サケなど加工していない魚類、卵などの動物性たんぱく質です。
日本腎臓学会のガイドラインでは、ステージ3b以降の腎臓病患者さんのたんぱく質の摂取量(㌘)は、一日「標準体重(㌔㌘)×0.6~0.8㌘」です(左㌻の図表参照)。たんぱく質を上手に摂取するには、肉の倍量の野菜をとるようにしましょう。肉を小さくカットした野菜いため、多めの野菜類で魚を覆うホイル焼きなど、切り方や野菜のボリュームによって見た目や量の満足感は向上します。ただし、カリウムが気になる場合は、野菜は250㌘程度に抑えましょう。カリウムは水に溶けやすいため、「ゆでる」「細かく切って水にさらす」などの下処理をして、よく絞ってから調理することをおすすめします。
また、必要に応じて、低たんぱく米などの治療用特殊食品を活用するといいでしょう。精白米には植物性たんぱく質がご飯一膳分(180㌘)で約4.5㌘も含まれています。例えば、たんぱく質の含有量を通常の二五分の一に減少させた低たんぱく米では、一パック(180㌘)で約0.18㌘です。低たんぱく米に置き換えると、主食から摂取するたんぱく質の量を抑えられるぶん、副菜として肉や魚、卵などの摂取量を増やすことができます。
さらに、低たんぱく食品は、通常の食品とほぼ同量のエネルギー量が含まれています。低たんぱく食事療法を行う方には、たいへん便利なのでおすすめです。
腎臓病の食事療法で難しいのは、たんぱく質を制限しながら適正なエネルギーを確保することです。過剰な食事制限で低栄養になると、体重や筋肉量が減るばかりでなく、最も重要な抵抗力・免疫力が低下してしまいます。エネルギー量は一日「標準体重(㌔㌘)×25~35㌔㌍」が目安とされています。糖尿病の場合はエネルギー量を調整する必要がありますので、管理栄養士に相談しましょう。
エネルギーの不足分は炭水化物や脂質から摂取してください。だしで煮る煮物より、油を使用したいため煮や揚げ物など、油料理をうまく取り入れることがエネルギー確保のコツです。
食品添加物に含まれる無機リンは高リン血症を引き起こしやすく過剰摂取に要注意
リンは、肉や魚、卵、乳製品など、たんぱく質が多い食品に含まれています。腎機能が低下するとリンを十分に尿から排出することが難しくなり、除々に体内に蓄積されていきます。高リン血症になると、脳梗塞や心筋梗塞、骨折などの発症リスクが高まります。
リンには、食材にもともと含まれている「有機リン」と食品添加物に使用される「無機リン」があります。無機リンは、ハムやソーセージなどの食肉加工品、麺類や缶詰、プロセスチーズなどに添加されています。有機リンは体内への吸収率が40~60%であるのに対し、無機リンは90%以上と高い吸収率であることが知られています。無機リンを多く含む食品を好んで食べていると、たんぱく質の量にかかわらず多量のリンを摂取してしまうため、注意が必要です。リンはお湯に通すと短時間で10~20%溶け出すため、食べる場合はたっぷりのお湯でゆで、ゆで汁は捨てるようにしてください。
食事療法は、少しずつでも実行に移し、継続していくことが大切です。主治医や管理栄養士の指導のもと、正しく効果的な食事療法に取り組むようにしてください。