プレゼント

“多治見のもみじ”で新しいもみじ文化を創りたい

ニッポンを元気に!情熱人列伝

もみじかえで研究所代表 本間 篤史さん

日本の四季を象徴する植物の一つとして知られる「もみじ」。もみじを中心とした美しい紅葉は、国内はもちろん、世界中の人を魅了する、日本ならではの風景といえます。しかも、これまで眺めるだけだったもみじに健康効果も期待できることが分かってきたのです。「多治見のもみじを世界へ発信!」を合言葉に岐阜県多治見産のもみじを研究する本間篤史さんは、新しいもみじ文化の創造に取り組んでいます。

大学の構内で見たもみじを調べたら驚くべき機能性を秘めていました

[ほんま・あつし]——1983年、愛知県生まれ。2001年、東京水産大学(現・東京海洋大学)博士課程修了。海洋科学博士。2011年、株式会社もみじかえで研究所を設立し、もみじの機能性の研究と特長を生かした商品開発に取り組んでいる。

日本の秋の風景として多くの人が想像するのが、鮮やかに色づいた紅葉の景色。中でも「もみじ」の葉は、紅葉の象徴的な存在としてとらえられ、シーズンには多くの人が全国各地にある紅葉の名所を訪れています。

「もみじの魅力は美しさだけではありません。多くの健康効果が期待できる存在なんです」

そのように話すのは、株式会社もみじかえで研究所の代表を務める本間篤史さん。本間さんは現在、世界でただ一つの、もみじをテーマとする会社の経営者として注目を集めています。現在は岐阜県多治見市を拠点にしながら、もみじが秘める可能性を追いつづける本間さんに、これまでの経緯と今後について伺いました。

「小さな頃から海洋生物が好きだった私は、進学先として東京水産大学(現在は東京海洋大学)を選びました。あるとき、担当教授から研究テーマとしてある課題が出されたんです」

教授から出されたテーマは、「糖尿病や肥満に対する可能性を秘めた素材の発掘」だったといいます。本間さんは早速、さまざまな素材を調べてみたそうですが、効果が期待できるデータを持つ素材は見つからなかったといいます。

「教授からは、『研究の対象となる素材は、水産物はもちろん、農産物でもかまわない』といわれていました。素材の選択肢が広がったとはいえ、目に入るものすべてが対象となるので、気が遠くなるような道のりでもありました。当時は、何かに取りつかれたように素材を見つけては調べていたと思います」

多くの素材を調べ尽くしても、納得できるデータが得られなかった本間さん。ある日、大学の構内でふと見かけたもみじの木に目が止まったといいます。

「もみじの葉を見た瞬間、こんなに美しい葉に機能性があったらすごいだろうな…と思ったんです。自分の中にひらめくものがあったのでしょう。研究室でもみじの葉を調べはじめると、驚くべき機能性を秘めている可能性があると分かったんです」

本間さんが「世界一のもみじの街」を目指している岐阜県多治見市のもみじ
もみじの収穫は手作業でていねいに行われている

もみじの葉から抽出できるエキスを細胞や動物実験で試しながら、抽出成分の改良を進めるうちに、もみじには高い機能性を発揮するアントシアニンをはじめとするポリフェノールが多く含まれていることが分かったのです。

動物とは異なり、みずから移動できない植物は、身を守るためにみずから自分を守る物質を作り出しています。例えば、抗酸化物質のポリフェノールは、強い紫外線の影響から身を守るために作り出されると考えられています。

「最初にもみじエキスのデータを見たときは、とにかく驚きました。もみじエキスには、アンチエイジングを図るうえで大切な抗酸化作用のみならず、血糖値の上昇や肥満を抑える働きを秘めていることが分かったからです。もみじに秘められた可能性を明らかにしたいと、さらに研究に熱が入りました」

専門家たちとのコラボレーションから生まれた「もみじ茶」と、天然もみじのエキスが入ったサイダー「もゆるは」。ともに紅葉色が鮮やか!

もみじ研究ひと筋となった本間さんは、大学院の修士課程で2年間、博士課程で3年間、もみじの研究に取り組んだそうです。

「研究に没頭していたとき、担当教授から、『ここまできたら、世界初のもみじの会社を起業してみたらどうか』とすすめられたんです。当時は自分が起業するなんて想像もしていませんでしたが、この頃になるともみじには運命的な縁を感じていたので、『よし、やってみよう!』と思いました」

担当教授のすすめで起業を決意した本間さん。博士課程でもみじの研究を続けるかたわら、仕事をして開業資金を貯める生活を続けたといいます。

「当時の生活は心身ともにハードなものでしたが、研究を重ねながらもみじに秘められた機能性が明らかになるにつれて、もみじへの情熱がどんどん高まっていきました」

数年間かけて開業準備を整えた本間さん。そしてついに、世界初・もみじをテーマとする会社が誕生したのです。2011年、本間さんが28歳のときでした。本間さんは立ち上げた会社を、株式会社もみじかえで研究所と名づけました。

「ともに手のひらのような形をしているもみじとかえでは、同じカエデ属の植物です。ちなみに、もみじは英語でJapanese maple(ジャパニーズ・メイプル)と呼びます。名前からも日本を代表する植物の一つだと思ったので、社名にしました」

ご縁をいただいた多治見の街からもみじの魅力を発信

彩りとしても使われるもみじは、欧州でも日本の美を象徴する植物として人気がある

起業した本間さんがすぐに手がけたのが、もみじを安定的に栽培できる土地の確保でした。もみじの機能性を研究しながら、商品を普及するには、質のいい土壌と長期的な視点で栽培できる環境が欠かせないからです。

「栽培地の確保だけでなく、自治体による起業支援の制度が整っている地域を求めて全国を訪ね歩きました。多くの自治体をめぐる中で事業内容の理解とご支援をいただけたのが、岐阜県多治見市だったのです」

地域の子どもたちにもみじをより知ってもらうための植樹イベントも行っている

ご縁をいただいた多治見の地からもみじの魅力を発信し、「多治見を世界的なもみじの街にする!」ことを決意した本間さん。その後、その道の専門家や企業との出会いからさまざまなプロジェクトが進み、もみじ茶やもみじサイダー、もみじアイスといった色鮮やかな商品の開発に成功しています。

「多治見市では、休耕田や耕作放棄地を活用したもみじ栽培の広がりだけでなく、もみじを通じた地域との交流も生まれています。市民の皆さんとの植樹や、地域の子どもたちにもみじをより知ってもらうための活動も行っています。使われてない土地をもみじ畑に転用すれば、収穫だけでなく、美しい観光資源として活用できます。ご縁をいただけた恩返しの一つとして、多治見産のもみじを世界に発信していきたいです」

“もみじ博士”ともいわれる本間さんが情熱を注いで研究を続けるもみじエキス

最近では“もみじ博士”としてメディアでの登場が増えている本間さん。開発した鮮やかなもみじ色の飲食品が話題となる中、もみじとの出合いのきっかけとなった糖尿病予防や肥満体策としての研究も視野に入れていきたいと考えているそうです。

「現在までの研究で、もみじエキスには、①糖の吸収抑制作用、②脂肪吸収抑制作用、③体重増加抑制作用があることを動物実験で確認しています。糖尿病と肥満は欧米を中心に、東南アジアでも深刻な社会問題になりつつあります。多治見産のもみじが、世界中の人の健康作りに役立てることを目指してがんばっていきます」