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慢性的な炎症の原因・中高年の肥満に要注意!

クマ先生の免疫学的なお酒と料理の楽しみ方
熊沢 義雄

[くまざわ・よしお]——医学博士(京都大学)。元北里大学教授。山梨大学大学院発酵生産学修了後、北里研究所、北里大学薬学部・理学部に40年間在職。順天堂大学医学部非常勤講師。専門は生体防御学(免疫学)。日本細菌学会名誉会員。現在は北里大学発のベンチャー企業の代表として奮闘中。

2019年3月に、メジャーリーグのシアトル・マリナーズに所属していたイチロー選手が45歳で現役を引退しました。まだまだ活躍できると思っていましたが、厳しい競争を生き抜いてきたトップアスリートは、わずかな肉体の衰えも敏感に察知するのでしょう。「まだ大丈夫」と思っていても、私たちは、体の限界を感じるときがやって来るのです。

今年の7月末に、長野県と山梨県にまたがる南八ヶ岳みなみやつがたけを縦走しました。学生時代とは異なり、後期高齢者で左ひざの靭帯損傷じんたいそんしょうから回復したばかりだった私にとっては、かなりきつい山旅になりました。昔の感覚と現実の体力のギャップは想像以上で、ひざへの負担と大腿部だいたいぶの筋肉の持久力低下から、ヨロヨロ歩きでなんとか下山することができました。

先日、カルチャーセンターで「40歳からの生活」というテーマで講義をしました。現在の日本において、健康寿命(日常的な医療・介護に依存せず自立した生活ができる期間)は、男性が70.4歳、女性が73.6歳です。「まだ若い」と思っていても、40歳は健康を考えるうえで大きな転機。健康寿命の視点で考えると、すでに人生の半分を超えています。特に女性は40歳を超えると、女性ホルモンの分泌ぶんぴつが急激に減少して更年期の問題に直面するため、一つの節目といえるでしょう。

40歳からの死亡原因で1位になるのは悪性新生物(がん)です。中年以降に発症するがんの原因の中でも、主なものは肥満と喫煙、運動不足です。30代までに悪い生活習慣を続けていた人は、40代以降に反動となって体に現れます。何よりも気をつけたいのは、食べ過ぎによる中年太りです。肥満は体に脂肪がついているだけではなく、全身の慢性的な炎症を引き起こす原因となります。最近の研究によって、肥満した脂肪細胞が出す炎症物質(炎症性サイトカイン)は全身の慢性的な炎症の原因になり、動脈硬化や糖尿病、高血圧のみならず、がんや認知症を引き起こすことも分かっているのです。

慢性的な炎症と老化や病気の発症は密接に関係していますが、腸内環境と老化の関係も無視できません。

私たちの腸内には1.0~1.5㌔㌘もの細菌がすみついています。腸内細菌の分布状況は腸内フローラと呼ばれ、菌の多様性があるほど健康的な腸といえます。

老化を遅らせて病気の発症を防ぐには、善玉菌を中心に腸内細菌を育てることが大切です。さらに、腸内環境に対して口内環境も重要です。大腸がん患者の便中に歯周病菌が多いことが分かっています。私たちの口の中にも善玉菌は存在します。腸内環境と口内環境を整えていくことが、健康寿命を延ばす秘訣ひけつといえるでしょう。

視力や聴力、骨や筋肉の衰えは感じやすいですが、少しずつ進む肉体の衰えは、なかなか気づきにくいものです。体の衰えは、悪い生活習慣から始まります。慢性的な炎症や口内・腸内環境の悪化を招く食事は、できるだけ早く見直しましょう。年齢に応じて食べるものを吟味することで、健康を維持したいものです。