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〝長寿地域〟奄美群島のアマミシマアザミは動脈硬化や脂肪肝の予防・改善に有効と判明

ご当地研究最前線
琉球大学熱帯生物圏研究センター応用生命情報学部門教授 屋 宏典

奄美群島に自生する白い花のアザミの秘密

[おく・ひろすけ]——1957年、鹿児島県生まれ。1985年、九州大学大学院修了。農学博士。2009年、琉球大学分子生命科学研究センター教授。同年4月~2014年3月、同大学熱帯生物圏研究センター長。2014年、伝統野菜「長命草」に強い抗肥満効果があることを証明。2012~2015年、日本栄養・食糧学会理事。2015年4月~2019年3月、琉球大学副学長(産学官連携担当)。沖縄の生物資源の生理機能研究を進め、生活習慣病の改善や健康・美容産業での応用を目指している。

鹿児島県にある奄美あまみ群島は、九州と沖縄のほぼ中間に位置しています。国内でも有数の長寿地域として知られ、100歳以上の長寿者が人口10万人当たり144.5人といわれています。これは、全国平均の53.43人の約2.7倍に上ります。長寿の世界記録を更新したことで有名な泉重千代いずみしげちよさんや本郷ほんごうかまとさんも、奄美群島の1つである徳之島とくのしまの住民でした。

奄美群島で暮らす人々の長寿の秘訣ひけつには、この地域ならではのさまざまな要因があると考えられます。1年を通して温暖な気候やのどかな風土、人々の穏やかな気質が健康寿命を支えているといえますが、私が特に注目しているのは、島の伝統野菜です。

古来、奄美群島や沖縄諸島に自生する動植物は、亜熱帯独特の強烈な暑さや紫外線、海からの塩害といった自然環境がもたらす強いストレスに適応して生き延びてきました。紫外線による酸化から身を守るための抗酸化物質を生成する力や、酸化されやすい脂肪組織の蓄積を防ぐ力を備え、進化を遂げてきたのです。

奄美群島の特産である伝統野菜の中でも、私たちが栽培と研究に力を入れているのが「アマミシマアザミ」です。アマミシマアザミは、日本国内で広く見られる紫色の花をつけるアザミと同様、キク科の多年草です。しかし、奄美群島にだけ自生するアマミシマアザミは、春になると白色の花を咲かせます。アマミシマアザミは、食用としてだけでなく、解毒や止血をはじめ、乳房や膀胱ぼうこう、腹膜の炎症に効く薬草としても活用されてきました。

島の住民に親しまれていたアマミシマアザミですが、機能性を裏づける科学的検証は行われていませんでした。そこで、地元の徳之島徳洲会とくしゅうかい病院の医師らが中心となってNPO法人を立ち上げ、私たち琉球りゅうきゅう大学熱帯生物圏研究センターや大阪大学が共同研究を行うことになったのです。アマミシマアザミの成分を分析したところ、長寿のカギといえる次のような成分が含まれていることが分かりました。

アマミシマアザミには、葉だけでなく根や茎の部分にも、ポリフェノールが多く含まれている

● 高濃度のポリフェノール
アマミシマアザミの葉には、レタスやブロッコリー、キャベツに比べて6~7倍もの高濃度のポリフェノール(植物に含まれる色素成分)が含まれています。また、葉だけではなく、根や茎にもポリフェノールが多く含まれていることも判明しました。

アマミシマアザミに含まれるポリフェノールの構造を解析した結果、主要成分の一つがペクトリナリンという物質であることも分かりました。ペクトリナリンには、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫力増強作用、抗腫瘍こうしゅよう作用、肝障害抑制作用があることが、動物実験などで確認されています。

● 豊富なミネラルと食物繊維
アマミシマアザミには、ミネラルの中でも日本人に不足しがちなカルシウムとマグネシウムが豊富に含まれています。また、腸内環境を整える食物繊維も豊富です。

● 必須脂肪酸αアルファ-リノレン酸
粉末状のアマミシマアザミには、5%程度の脂質が含まれています。この脂質の成分のおよそ半分が、必須脂肪酸(体内では合成できない脂肪酸)のα-リノレン酸です。

α-リノレン酸はオメガ3系列の脂肪酸で、体内に入ると代謝され、血液や血管の健康維持に重要な役割を担うEPAや、脳や神経の発達に関わるDHAに変わります。オメガ3系列の脂肪酸には、コレステロールや中性脂肪の数値を下げる働きがあり、動脈硬化によって引き起こされるさまざまな病気を予防したりアレルギー症状を緩和したりする効果が期待できます。

シマアザミが脂肪の蓄積を抑えると実証

アマミシマアザミ粉末を摂取したマウスでは、肝臓の中性脂肪やコレステロールの濃度の低下、AST、ALTの数値の減少が確認された

さらに、私たちはアマミシマアザミの有効成分の体内での作用を明らかにするため、マウスを使った実験を行いました。その結果、驚くべき効果が確かめられたのです。

高脂肪食といっしょにアマミシマアザミ粉末を摂取したマウスの体内では、高脂肪食だけを摂取したマウスに比べて脂肪酸の合成を促す物質の発現が抑制されることが判明しました。つまり、アマミシマアザミをとることで、体内に脂肪がたまるのを抑えられるといえるのです。

アマミシマアザミ粉末を摂取したマウスでは、肝臓の中性脂肪やコレステロールの濃度の低下とともに、肝機能障害の指標となるAST(=GOT、基準値は30以下)、ALT(=GPT、基準値は30以下)の数値の減少が確認されています。また、血液中の遊離脂肪酸の濃度が高いと、脂肪酸が肝臓に大量に流れ込んで脂肪肝を起こす原因となりますが、アマミシマアザミをとることで血液中の遊離脂肪酸濃度が低くなり、肝臓への脂肪の流入が少なくなることが分かりました。

肝機能障害の予防・改善となる作用をもたらすのは、アマミシマアザミ特有のポリフェノールやミネラル、食物繊維などであることが確認されています。他にも肝臓や脂肪組織に作用する成分があると考えられ、さらに研究が進められているのです。

また、最近ではアマミシマアザミがアディポネクチンという善玉ホルモンの生成を促すことが分かり、注目を集めています。アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌ぶんぴつされるホルモンの一種です。血液中に多く含まれていて、内臓脂肪が増加するとアディポネクチンの分泌量が減少することが分かっています。

アディポネクチンは、全身を流れる血管の中で、損傷した部分を見つけて修復したり、狭くなった部分を拡張したりする働きがあるため、動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞しんきんこうそくの予防・改善が期待できると考えられています。また、体内で血糖の利用を促進するインスリンの分泌を高めるため、糖尿病や脂質異常症を防ぐ効果も確かめられています。さらに、アディポネクチンは「長寿ホルモン」と呼ばれ、ヒアルロン酸の分泌を促進して肌の潤いを回復させるなど、老化防止作用があるといわれています。

大阪大学医学部が行った臨床試験では、アマミシマアザミがアディポネクチンの分泌を促進することが確かめられています。試験では、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪の数値がやや高めの男女24人(20~80歳)に、アマミシマアザミの乾燥粉末1回3㌘を1日3回投与し、12週間にわたって追跡調査を行いました。その結果、アマミシマアザミの摂取前は1㍉㍑当たり12.3㍃㌘だったアディポネクチンが、4週間後には13.2㍃㌘、12週間後には13.8㍃㌘と顕著に増加したのです。

2016年から徳之島ではアマミシマアザミの栽培が始まった

このような研究結果を受けて、2016年から徳之島でアマミシマアザミの栽培が始まりました。とはいえ、生鮮食品として輸送しようとすると、時間と労力がかかるという難点があります。そこで考えたのが、乾燥粉末です。輸送のコストが減るうえ、素材まるごとの栄養をとることができるのです。アマミシマアザミの粉末は、水に溶かすと「抹茶のような風味で飲みやすい」と好評です。

アマミシマアザミの研究は、始まったばかりです。今後、さらなる発見を発表できるように、研究を進めていきます。