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慢性腎臓病の食事は量より質の重視が大切!専門医が実証した食事療法の新常識

糖尿病・腎臓内科

葉子クリニック院長 内山 葉子

腎機能を低下させる原因は腎臓への負担・血流悪化による酸素不足・炎症の三つ

[うちやま・ようこ]——福岡県生まれ。関西医科大学卒業。医学博士。西洋医学に自然医療、漢方、健康食品などを活用し、全人的医療や補完・代替医療に取り組む。日本内科学会総合内科専門医、日本内科学会認定内科医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析学会専門医など。『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』(マキノ出版)、『腎臓をよくする食事』(三和書籍)など著書多数。

私が院長を務める葉子ようこクリニックは、福岡県北九州きたきゅうしゅう市にある医療機関です。私のクリニックでは西洋医学のみならず、東洋医学や消化力に注目した栄養学の視点を取り入れ、食事指導やサプリメントを活用した栄養療法も駆使して患者さんの治療にあたっています。

腎臓じんぞう内科専門医である私のもとには、慢性腎臓病と診断された多くの患者さんが来られます。「腎機能を維持したい」「人工透析とうせきを回避したい」という患者さんたちの願いは切実です。私は長年にわたり、患者さんの腎機能を維持するための食事療法を、最新の情報をもとに指導し、一定の成果を上げてきました。今回の記事では、腎臓病治療のスタンダードになりつつある「新しい食事療法」の考え方を解説しながら、ご高齢の方でも実践できる腎臓ケアの方法もあわせてお伝えしたいと思います。

腎機能の低下をもたらす原因は多岐にわたりますが、以下の三つが共通点といえます。

①腎臓への過度な負担
②腎臓の酸素不足
③腎臓の炎症

これらの三つの原因から考えると、腎機能を維持するには、①腎臓への過度な負担を避ける、②血流をよくして腎臓への酸素の供給を促す、③腎臓の炎症を抑えることを意識した治療とケアが必要になります。

腎機能を悪化させる三つの原因と対策について分かりやすく解説しましょう。

【①腎臓への過度な負担の対策】

服用している薬を見直す

私が慢性腎臓病の患者さんを診察する際、最初に確認するのが服用している治療薬の種類と量です。薬は症状を抑えたり防いだりするために役立つ存在ですが、体にとっては異物であり、体から排出するまでには腎臓に大きな負担がかかります。特にご高齢の方はもともと腎機能が低下していることが多く、さらに数種類の薬を服用している場合もあることから、腎臓に過度な負荷がかかっている場合が少なくありません。患者さんによっては薬の服用が習慣化し、ひざの痛みなどがすでに治まっていても服用を続けている場合が見受けられます。痛み止めは血管の拡張を抑える働きがあるため、血流量が多い臓器である腎臓への血流を低下させ、腎臓に負担をかけます。そのほか、利尿薬や高血圧の薬(ACE阻害薬)も腎臓への血流低下を引き起こします。

また、一般的な解熱鎮痛薬として知られる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDsエヌセイズ)や抗がん剤、抗菌薬、画像検査の際に使う造影剤は腎障害を招きやすいとされています。不要な薬をやめる、もしくは減らすだけで腎臓の負担が減り、体調がよくなることがあります。慢性腎臓病の患者さんは、服用している治療薬がほんとうに必要かどうか、腎臓への負担が少ない薬に変更が可能かどうかを主治医に相談してみましょう。

「量」より「質」を重視した食事をとる

腎臓内科専門医である私は、約20年前から「たんぱく質・塩分・カリウムの制限」といった、摂取量の制限を重視する従来の腎臓病の食事療法に疑問を持っていました。年齢や体質、基礎疾患が異なる患者さんたちに対し、一律の制限を設けることに違和感を覚えていたからです。

そこで私は「食事制限がつらい」「おいしく食べられない」といった不満を抱えていた慢性腎臓病の患者さんたちに、「質」を重視した食事療法を指導するようになりました。

腎臓の働きとして知られているのは、全身を巡った血液から老廃物を尿として排泄はいせつする浄血機能です。そのほかにも腎臓は、血液や骨を造ったり、水分やミネラルの調整をしたりするなど、私たちが健康を維持するうえで欠かせない働きをしています。さらに近年の研究によって、腎臓はほかの臓器と連携を取って機能する「多臓器連関」の中心臓器であることが明らかになってきました。心腎相関、肺腎相関、腸腎相関などといわれるように、腎臓はほかの臓器を適切に働かせる司令塔の役割を担っているのです。

このような腎臓にまつわる新しい研究は、腎臓病における食事療法の形を大きく変えようとしています。長年にわたって「摂取量の制限」を重視していた日本腎臓学会も、「量から質」「腎臓に優しい食事から全身に優しい食事」へと転換するべく前向きな議論が交わされています。私が長年、慢性腎臓病の患者さんに指導してきた「細かい計算や大きな制限ではなく、全身によい食事をとることが腎機能の維持につながる」という治療方針が正しかったことをあらためて感じています。

過渡期ではあるものの、従来もしくは現在の腎臓病の食事療法は「たんぱく質の制限」「塩分の制限(1日6㌘未満)」「カリウムの制限」「油でエネルギーを確保する」といった内容が主となっています。腎臓病の新しい食事療法の概念でいえば、栄養価の高い野菜をしっかりとっていれば、1日8~10㌘の塩分をとっても問題はありません。良質な野菜に含まれるカリウムや食物繊維がナトリウム(塩分)の排出を促すからです。また、天然塩を使えば、含まれているカリウムやマグネシウム、カルシウムなどのミネラルがナトリウムに対する拮抗きっこう作用を発揮するため、塩化ナトリウムだけの食塩と比べて腎臓への負担を減らすことができます。

新しい食事療法の概念では、たんぱく質の制限も緩やかになります。社会の高齢化に伴い、慢性腎臓病の患者さんも高齢化が顕著になりました。高齢の患者さんは加齢とともに食が細くなるため、肉や魚を食べる機会が少なくなります。たんぱく質の摂取量がもともと少ないうえに過剰なたんぱく制限をすると、筋肉量の減少を引き起こします。その結果、サルコペニア(筋肉量の減少に伴う筋力の低下)やフレイル(虚弱)といった深刻な体力・気力の低下を招いてしまうのです。実際に、ある研究によって体内のたんぱく質の量が多いほど死亡リスクが下がることが明らかになっています。そのため、新しい食事療法の概念では、慢性腎臓病の患者さんでも良質なたんぱく質を過不足なくとることが推奨されています。さらに、慢性腎臓病のステージが進んでもたんぱく質の制限を緩めたほうがいいという議論も始まっています。

たんぱく質は、肉や魚などの動物性よりも、大豆製品などの植物性のほうが腎臓への負担が少ないことが分かっています。特に発酵によって消化されやすくなっている納豆は、慢性腎臓病の患者さんにとって理想的なたんぱく源です。そのほか、高野こうや豆腐やアズキもおすすめできるたんぱく源といえるでしょう。

たんぱく質をとる際に注意したいのが、たんぱく質と糖が結合する糖化反応によってできる糖化物質(AGE)の存在です。毒性物質のAGEは血管に蓄積すると動脈硬化を促進し、血管の障害や血流の悪化を招きます。AGEはこんがりとキツネ色になった揚げ物に多く含まれているため、揚げたり焦げ目がついたりするほど焼いた料理には注意が必要です。私が院長を務める葉子クリニックは、福岡県北九州市にある医療機関です。私のクリニックでは西洋医学のみならず、東洋医学や消化力に注目した栄養学の視点を取り入れ、食事指導やサプリメントを活用した栄養療法も駆使して患者さんの治療にあたっています。

塩分摂取で気をつけるのは「加工塩」でハムなどの加工肉や練り物食品、レトルト食品に要注意

塩分摂取で気をつけたいのが亜硝酸ナトリウムなどの「加工塩」です。天然塩などの良質な塩と対照的に、化学的な合成によって作られる加工塩は、カリウムやカルシウムといったほかのミネラルは含まれません。そのため、加工塩をとるとほかのミネラルによる拮抗作用が働かず、血圧の上昇などナトリウムだけの作用を直接受けるようになってしまうのです。

加工塩が多く含まれるのは、ハムやウインナー、ソーセージといった加工肉や練り物食品、レトルト食品です。加工食品に含まれる加工塩は知らずにとっていることが多いので、意識して避けたいものです。

多くの加工食品には、加工塩のほかにも保存料や香料、発色剤、色素調整剤、結着剤といった添加物が含まれています。これらの添加物には腎臓に負担をかけるリン(無機リン)が多く含まれています。食品添加物として使われる無機リンは吸収率が約9割と高く、排泄されにくいやっかいな存在です。腎臓への負担を減らす食事療法の第一歩は、加工食品を避けることから始めるといいでしょう。

食事療法と関連して、近年の研究で注目されているのが、腎臓と腸の「腸腎相関」です。体内で作られる老廃物の尿素は腎臓で尿として排出されますが、腎機能の低下によって腎臓で処理できなくなると血液中に増えて腸に届きます。腸内に入った尿素はアンモニアになり、腸内環境をアルカリ性にして有害物質の増加を引き起こします。腎機能の低下に伴って起こる腸内環境の悪化を「ディスバイオーシス」と呼び、腎機能を悪化させる原因にもなります。

このような腸腎連関の視点から、腎臓病の新しい食事療法では腸内環境を適切に保つことも重視されています。例えば、慢性腎臓病の患者さんの中には、腎臓病用の宅配食を利用している人も多いと思います。宅配食は便利なものですが、従来の食事療法の基準に沿って作られたメニューはカリウムを減らすための処理が施されていることが多く、食物繊維が不足しやすくなります。また、低価格の宅配食は原材料の安全性や栄養価も心配です。宅配食を利用する際は、納豆やゆでた有機栽培のブロッコリー、コンブとイリコでだしを取った野菜のみそ汁など、手軽に作れる一品を添えて栄養を補給するといいでしょう。私のおすすめは、発芽野菜のアルファルファです。ビタミンCと食物繊維が豊富なアルファルファは、サラダやみそ汁のトッピングなどにも使えて便利です。

質を重視する新しい食事療法は、続けるほど腎機能の維持に効果を発揮します。私のクリニックに来られている50代の女性患者さんは、腎機能の程度を示すeGFRの数値が基準値の半分ほどまで低下していました。その後、私のもとで量より質を重視した食事療法を実践したところ、eGFRの数値が徐々に改善し、現在では基準値の6~7割まで回復しています。

慢性腎臓病の患者には運動療法も推奨され酸素不足対策には深呼吸が効果的

【②腎臓の酸素不足の対策】

酸素をしっかり取り込む簡便な方法は深呼吸。座りっぱなしの時間が長くなりがちな高齢者は、皮膚をさすったり、テレビを見ながら足をゆらすだけでも血流が改善し、酸素が全身に届きやすくなる

私たちの全身に存在する細胞が活動する際に欠かせないのが酸素です。全身の血液が流れ込む腎臓は消化器や脳に次いで多くの酸素を必要とするため、低酸素の状態に弱い臓器といえます。

慢性腎臓病の治療では、食事療法のみならず、運動療法の分野でも大きな変化が見られるようになりました。長年、運動は慢性腎臓病の患者さんにとって禁忌とされていましたが、近年の研究によって、適切な運動は腎機能の維持に役立つことが分かってきたのです。

以後、慢性腎臓病の患者さんにはウォーキングをはじめとする有酸素運動が推奨されるようになりましたが、ご高齢の方にとって運動習慣を身につけることは容易ではありません。そこで私は患者さんに、深呼吸をはじめ、その場で実践できる簡単な運動をすすめています。

ご高齢の方は自宅で過ごすことが多く、テレビを見て過ごしている時はネコ背になりがちです。座りっぱなしの姿勢で第二の心臓とされるふくらはぎの血流が悪くなると、腎臓への血流を悪化させてしまいます。深呼吸をはじめ、「背すじを伸ばす」「皮膚をさする」「足をゆらす」といった簡単な運動でも全身の血流改善に役立ちます。

【③腎臓の炎症の対策】

慢性腎臓病の悪化を防ぐには、腎臓の炎症を抑えることが欠かせません。そのため、慢性腎臓病の患者さんは、腎臓の炎症を引き起こしている根本的な原因の治療を正しく受けることが大切です。糖尿病をはじめとする生活習慣病は、腎臓の炎症を加速させます。信頼できる主治医のもとで、炎症を招いているおおもとの疾患の治療を適切に受けながら、先に挙げた食事療法や運動療法に取り組んでみましょう。

ご高齢の慢性腎臓病患者さんにとっての炎症対策として欠かせないのが口腔ケアです。具体的には歯周病の予防や治療が腎機能の維持に役立ちます。

私たちの口の中にはさまざまな菌がすみついています。善玉菌と呼ばれる菌がいる一方で、歯周病菌をはじめとする悪玉菌も存在しています。口の中で増殖した歯周病菌は、痩せた歯肉の隙間から血液中に入って全身を巡ります。腎臓にも侵入した歯周病菌は、腎臓の炎症を引き起こす原因にもなります。

過度な食事制限によってたんぱく質の摂取量を減らすと筋肉量が減っていくように、歯肉も痩せていきます。その結果、歯周病菌が歯肉の隙間から侵入しやすくなり、腎臓の炎症につながります。量より質を重視する腎臓病の新しい食事療法は、口腔環境の健康を維持するうえでも大切といえるでしょう。