プレゼント

〝緑のダイヤ〟と呼ばれるぶどう山椒の塩味増強作用が高血圧を撃退すると期待大

ご当地研究最前線
和歌山大学食農総合研究所客員教授 三谷 隆彦

和歌山産の山椒が塩味を4倍も強めると実証

最高級の香辛料といわれるぶどう山椒は〝緑のダイヤ〝と呼ばれている

中高年がかかりやすい生活習慣病の一つに、高血圧があります。高血圧になると血管に常に負担がかかるため、動脈硬化(血管の老化)が進行します。高血圧の状態を放置していると全身で動脈硬化が進行し、心血管疾患や脳卒中、慢性腎臓病などを引き起こします。現在、日本では約4000万人が高血圧と推定されています。

高血圧の治療において、生活習慣の改善はとても重要です。特に、塩分(ナトリウム)の制限は必要不可欠です。1日1㌘減塩すれば血圧は約1㍉下がるといわれ、高血圧の人は塩分の摂取量を1日6㌘未満に抑えることが推奨されています。

塩分の摂取を制限する方法としては、減塩食の使用やダシ、酢、香辛料などによる味付けで食塩の使用料を減らすのが一般的です。ところが、減塩食は味気なく、メニューが固定されてしまうため、食事に不満を持つ患者さんが少なくありません。

減塩を実践するうえで効果的な香辛料として近年注目されているのが、和歌山県の特産品である「ぶどう山椒」です。山椒の一種であるぶどう山椒の名は、ブドウの房のような形でたくさん実ることに由来しています。山椒の中でも粒が大きく、ほのかに柑橘系の上品な香りがするのが特徴です。

山椒の出荷量

和歌山県の山椒収穫量は全国一を誇り、ぶどう山椒の出荷量は全国のおよそ3分の2を占めています。山地が多い和歌山県には、古くから山椒が自生していました。明治から昭和のはじめに、農作されるようになり、それ以来地域の特産品となっています。香辛料の最高級品の一つとして扱われるぶどう山椒は〝緑のダイヤ〟とも呼ばれ、200年近い歴史があります。

山椒の辛味は、サンショオールという成分によるものです。トウガラシやショウガの成分とは異なる働きがあり、神経にしびれを感じさせるという特徴があります。神経をしびれさせる働きから、かつては歯痛の緩和にも使用されていました。

近年の研究によって、山椒を口に含むと塩味が強く感じられるようになることが明らかになり、注目されるようになってきました。和歌山県の特産品である山椒の機能性について研究を進めるために、産官学合同のプロジェクトが立ち上がりました。

血圧の基準値

機能性の研究をするにあたり、和歌山県立医科大学保健看護学部教授の有田幹雄先生、和歌山大学教育学部教授の山本奈美先生、和歌山大学食農総合研究所客員教授の三谷隆彦先生などの複数の研究者が参加されました。研究を重ねた結果、山椒が持つ塩味増強効果が実証されたのです。研究内容について、三谷先生にお話を伺いました。

「山椒に塩味増強作用があると仮定して、減塩食品に山椒の有効成分を混ぜる方法と、食事をとる前に山椒をとる方法の2つが考えられました。より広範囲に活用できる方法として後者を選択した私たちは、山椒の粉末をとる前後で食塩水の塩味を強く感じるかどうかを調査することにしました」

試験に参加したのは、男性4名(平均年齢61歳)と女性7名(平均年齢59歳)の計11名です。濃度を10種類に分けた食塩水と塩分を含まない水を用意し、使い捨てのスポイドで参加者の舌に落として塩味を感じるかどうかを調べました。

その後、山椒の粉末を口に含んでまんべんなく口内に広げてもらい、5分後に再度同様の手順で食塩水の塩味を感じるかどうか調べました。その結果、11人中2人は塩味の感度が2倍に高まり、8人は4倍にまで強化されたのです。

73人に行った試験で味が濃くなると判明

ぶどう山椒は、山椒の中でも粒が大きく、ほのかに柑橘系の香りがするのが特徴

試験の結果から、研究グループは「塩味増強剤」として特許を取得。確かな手ごたえを感じたため、さらに試験を重ねることにしたそうです。

「私たちは、減塩に関する講習に参加された男女31人を対象に、山椒粉末を使った試験を行いました。試験に参加された方のうち16人は、高血圧を指摘されている方でした」

試験の参加者には、塩味を抑えた上で、減塩された4つの食品(みそ汁、梅干し、鮭フレーク、明太子)を食べてもらい、「全体的な味付け」「塩かげん」「味付けの満足度」について5段階で評価してもらいました。その後、山椒粉末1㍉㌘を口腔内で溶かし、5~10分後に同様の評価を行ってもらいました。

高血圧の患者さんを含む減塩栄養指導の受講者31人と、大学生42人を対象とした試験。山椒粉末をとると、塩味を強く感じ、特にみそ汁に対する効果が顕著に現れた

「試験の結果、参加者が高血圧の状態であるかどうかにかかわらず、山椒粉末をとった後は味を濃く感じる傾向にあることが分かりました。さらに、塩味に限定した評価でも有意に差が見られました。特に、みそ汁と梅干しにはその効果が顕著に現れたのです」

さらに、健康な大学生42名に対しても、減塩みそ汁を使って同様の試験が行われました。その結果、先の試験と同じ結果になったのです。どちらの試験でも、味の濃さという観点だけで見れば4つすべての食材で高い評価になりました。

高血圧の予防・治療に減塩は必要不可欠です。長い歴史を持つ和歌山のぶどう山椒の塩味増強作用は、高血圧の治療に役立てられると考えられます。

「山椒を活用することで、塩分に頼らずに食事の満足度を高めることが期待できます。山椒をとることで、使用する塩分量を減らせるかどうか、さらに血圧の低下につながるかどうかが今後の課題です。今後の研究が進むことで、より実践的な結果が現れるでしょう。ぶどう山椒の研究が、高血圧患者さんに対してはもちろん、和歌山の地域振興の一助になれば幸いです」