プレゼント

「ながら動作」の訓練で転倒予防・歩行速度向上

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

高齢者の約3割が予備群といわれている認知症。「物忘れが増えた」「大切なことが思い出せない」といった不安を感じたら、できるだけ早く対策を取りたいものです。認知症研究の第一人者として知られる朝田隆先生が考案したトレーニングで、脳の老化を防ぎましょう。

2つの動作を同時に行う「ながら動作」は脳の前頭葉と頭頂葉を活性化すると判明

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

認知機能の低下を防ぐ効果的な行動の1つに「知的刺激」が挙げられます。近年、医療機関を中心に広まっている知的刺激の方法が「デュアルタスク」です。この連載でも何度かご紹介してきました。

デュアルタスクは運動方法の1つですが、有酸素運動やストレッチなどの運動の種類を意味するものではありません。体を動かす動作と認知トレーニングとを組み合わせたもの、つまり「ながら動作」です。

80代半ばを過ぎた高齢者の方は、2つのことを同時に行うことが難しくなります。食事中に話をしたくなったら箸を置き、歩行時に話をしたくなったら立ち止まってしまうことが目立つようになります。若い頃ならできていた「音楽を聴きながら食事中に会話をする」ような行動が、とても難しくなるのです。

デュアルタスクが脳にいい影響を与えることは、脳科学の研究でも明らかになっています。多くの運動は(ぜん)(とう)(よう)、特に(ぜん)(とう)(ぜん)()を活性化します。さらに、違う動作を同時に行う「ながら動作」は、方向感覚や距離感の能力をつかさどる( とう)(ちょう)(よう)の下部を活性化することも分かっています。

「ながら動作」は、軽度の認知機能障害のある人はもちろん、認知機能が健常な人にもおすすめです。認知機能のみならず、転倒予防や歩行速度の向上に有効なことも分かっています。

「四角と三角」

今回は2つの「ながら動作」をご紹介しましょう。まずご紹介するのは「四角と三角」です。図のように、左手で四角、右手で三角を同時に空中に描きましょう。簡単にできるようになったら、左手と右手を入れ替えて挑戦してみてください。コツをつかむまでにまごつく感じがあれば、脳が刺激されている証拠です。

レベル1 左手で四角、右手で三角を空中に描く

レベル2 右手と左手を入れ替える

「3の数ポン」

次は、「3の数ポン」です。1、2と声を出して数を数えていき、3の倍数のときは声を出さずに「ポン」と手を叩きます。一見簡単そうですが、やってみると意外と難しいと感じるはずです。できるようになってきたら、立った状態で掛け声に合わせて足踏みをしながらやると、ぐっと難易度が上がります。

レベル1
①1、2……と声を出して数を数えていく
②3、6、9などの3の倍数のときは声を出さずに手を叩く

レベル2
立った状態で掛け声に合わせて足踏みをしながらレベル1を行う

朝田隆先生が診療されているメモリークリニックお茶の水の連絡先は、
〒113-0034 東京都文京区湯島1-5-34 東京医科歯科大学医科同窓会 お茶の水医学会館4階 ☎03-6801-8718です。