メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆
高齢者の約3割が予備群といわれている認知症。「物忘れが増えた」「大切なことが思い出せない」といった不安を感じたら、できるだけ早く対策を取りたいものです。認知症研究の第一人者として知られる朝田隆先生が考案したトレーニングで、脳の老化を防ぎましょう。
2つの動作を同時に行う「ながら動作」は脳の前頭葉と頭頂葉を活性化すると判明
認知機能の低下を防ぐ効果的な行動の1つに「知的刺激」が挙げられます。近年、医療機関を中心に広まっている知的刺激の方法が「デュアルタスク」です。この連載でも何度かご紹介してきました。
デュアルタスクは運動方法の1つですが、有酸素運動やストレッチなどの運動の種類を意味するものではありません。体を動かす動作と認知トレーニングとを組み合わせたもの、つまり「ながら動作」です。
80代半ばを過ぎた高齢者の方は、2つのことを同時に行うことが難しくなります。食事中に話をしたくなったら箸を置き、歩行時に話をしたくなったら立ち止まってしまうことが目立つようになります。若い頃ならできていた「音楽を聴きながら食事中に会話をする」ような行動が、とても難しくなるのです。
デュアルタスクが脳にいい影響を与えることは、脳科学の研究でも明らかになっています。多くの運動は前頭葉、特に前頭前野を活性化します。さらに、違う動作を同時に行う「ながら動作」は、方向感覚や距離感の能力をつかさどる頭頂葉の下部を活性化することも分かっています。
「ながら動作」は、軽度の認知機能障害のある人はもちろん、認知機能が健常な人にもおすすめです。認知機能のみならず、転倒予防や歩行速度の向上に有効なことも分かっています。
「四角と三角」
今回は2つの「ながら動作」をご紹介しましょう。まずご紹介するのは「四角と三角」です。図のように、左手で四角、右手で三角を同時に空中に描きましょう。簡単にできるようになったら、左手と右手を入れ替えて挑戦してみてください。コツをつかむまでにまごつく感じがあれば、脳が刺激されている証拠です。
レベル1 左手で四角、右手で三角を空中に描く
レベル2 右手と左手を入れ替える
「3の数ポン」
次は、「3の数ポン」です。1、2と声を出して数を数えていき、3の倍数のときは声を出さずに「ポン」と手を叩きます。一見簡単そうですが、やってみると意外と難しいと感じるはずです。できるようになってきたら、立った状態で掛け声に合わせて足踏みをしながらやると、ぐっと難易度が上がります。
レベル1
①1、2……と声を出して数を数えていく
②3、6、9などの3の倍数のときは声を出さずに手を叩く
レベル2
立った状態で掛け声に合わせて足踏みをしながらレベル1を行う