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新型コロナウイルスの正体に迫る!重症化のカギは肥満と慢性炎症!

呼吸器科

元北里大学教授、日本細菌学会名誉会員、順天堂大学非常勤講師 熊沢 義雄

新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発が世界中で進められています。いまだに〝正体不明〟といわれる新型コロナウイルスですが、感染後に重症化しやすいのは、ある基礎疾患を持つ人であることが明らかになってきました。感染によって起こる全身の血栓症や多臓器不全など、免疫の暴走による重症化を回避するためのキーワードを解説します。

ウイルスは細胞の中に侵入して増殖する存在で抗生物質では効果を発揮しない

[くまざわ・よしお]——医学博士(京都大学)。元北里大学教授。山梨大学大学院発酵生産学修了後、北里大学研究所、北里大学薬学部・理学部に40年間在職後、北里大学発のベンチャー企業を設立。現在、順天堂大学非常勤講師も務める。専門は生体防御学(免疫学)、生薬成分の免疫薬理学。著書に『ガン、動脈硬化、糖尿病、老化の根本原因 慢性炎症を抑えなさい』(青春出版社)など。

2019年11月に初めて中国の()(ほく)()(かん)市で発見された新型コロナウイルス(SARS‐CoV‐2。病名は新型コロナウイルス感染症。COVID-19)は、瞬く間に世界中へと(まん)(えん)しました。2020年3月にWHO(世界保健機関)がパンデミック(世界的な感染症の流行)を宣言後、欧米での感染拡大が深刻となり、多くの感染者と死亡者を出していることは皆さんもご承知のとおりです。

日本では4月に政府が緊急事態宣言を発表し、国民に不要不急な外出の自粛を呼びかけました。その後、緊急事態宣言は5月末に解除されたものの、新型コロナウイルスが社会と経済に及ぼしている影響は甚大といえます。さらに、これから第2・第3波の襲来が予想されるなど、まだまだ油断できない毎日が続いています。

私の専門は免疫学です。感染症の研究では世界的に知られる(きた)(さと)大学で教授職を務め、日本細菌学会の名誉会員でもあります。この記事では、40年の研究者人生によって得た知見と、報道されている最新の研究から、新型コロナウイルスに関する情報を分かりやすく解説したいと思います。

まずは「ウイルスとは何か?」という話から始めましょう。「ウイルスは細菌のようなもの」と思っている人は多いかもしれませんが、細菌とウイルスはまったく異なります。細菌が外部から栄養を取り込んで増殖していくのに対し、ウイルスは自分だけでは生きられない存在です。すなわち、人間を含むほかの動植物など、宿(しゅく)(しゅ)と呼ばれる細胞に侵入して初めて増殖することができます。ウイルスは細菌と違って、宿主細胞がいないと増殖できません。「そもそもウイルスは生物なのか」という議論もあるほどです。

ウイルスが侵入して増殖した細胞は、ウイルス感染細胞と呼ばれます。人や獣に共通して侵入するウイルスもありますが、人間だけ、イヌだけといったように種特異性もあります。新型コロナウイルスはペットにも感染することが分かっています。種特異性だけでなく、肝炎ウイルスのように臓器特異性もあります。ウイルスが増殖することで、臓器や器官の機能低下や免疫力の低下を引き起こし、さまざまな病気を発症させます。

感染に伴って行われる治療においても、細菌とウイルスには大きな違いがあります。抗生物質は細菌を殺す抗菌作用を発揮しますが、ウイルスに対する効果はまったくありません。そのため、ウイルスに対する対策は、感染しないように防止する、感染しても排除できるようにワクチンを接種するのが基本となります。ウイルスの増殖を抑制するために、抗ウイルス薬も使用されます。

ウイルスとしての〝正体"がいまも明らかにされていない新型コロナウイルス。第2・第3波の襲来が懸念されている

ウイルスの中には、遺伝情報の伝達に必要な「核酸」という物質が存在します。私たち人間をはじめ、大部分の生物は細胞内にDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)という2種類の核酸が存在しますが、ウイルスにはどちらか一方しかありません。新型コロナウイルスは、インフルエンザと同じように、RNA遺伝子を持つウイルスです。

新型コロナウイルスの感染を防ぐために、ワクチンの開発が望まれています。ウイルスが細胞に侵入する部位に対する免疫を誘導することで、感染を防ぐことができます。ウイルスが細胞内に侵入することを防ぐ薬(タミフル)、侵入したウイルスの増殖を抑制する薬(アビガン)、あるいは細胞内でウイルス粒子を形成するのを抑制する薬もありますが、新型コロナウイルスの侵入と増殖を抑制できる新薬の開発も期待されています。

新型コロナウイルスは基礎疾患があると重症化しやすく命を脅かす危険もある

出典:『Louisiana Department of Health Updates』より作成
出典:中国CDC(防疫センター)発表の資料から作成

新型コロナウイルスの正体については、いまだに不明な点が多いものの、世界中の研究者からさまざまな報告がされています。恐怖のウイルス、未知のウイルスというイメージのある新型コロナウイルスですが、5割の人は感染しても何も起こらない不顕性感染です。また、3割の人は感染しても軽症ですむといわれています。

その一方で、感染後に重症化を招き、ときには命を奪われてしまう人もいます。日本でも認識が広まっている、ある特定の基礎疾患のある人たちです。

基礎疾患とはどのようなものでしょうか。例えば、アメリカと中国では、新型コロナウイルスの感染後に重症化しやすい疾患を調査した結果があります。アメリカのルイジアナ州が発表した調査によると、感染後に重症化しやすいのは、①糖尿病、②(まん)(せい)(じん)(ぞう)(びょう)、③肥満、④心疾患、⑤呼吸器疾患の順となっています。中国では、CDC(防疫センター)が、新型コロナウイルスに感染した4万人以上の患者のデータをもとに調査を行っています。その結果、感染後に重症化しやすい基礎疾患として、①心疾患、②糖尿病、③呼吸器疾患、④高血圧、⑤がんを挙げています。

日本では5月に、厚生労働省が『新型コロナウイルス感染症の診療の手引き』を改訂し、主な変更点を発表しました。重症化を防ぐ臨床的な判断をするために、以下のマーカーを挙げています。

Dダイマー
(けっ)(せん)を溶かす酵素。上昇するとDIC(()(しゅせい)(けっ)(かん)(ない)(ぎょう)()(しょう)(こう)(ぐん))や血栓症が疑われる

CRP
体内の炎症や細胞の損傷が起こると発生するたんぱく質

LDH
肝臓や赤血球、血小板、筋肉などに含まれる酵素。数値の上昇で細胞の()()が疑われる

フェリチン
鉄と結合するたんぱく質。数値の上昇で感染症や体内の炎症が疑われる

リンパ球
白血球の1つである免疫細胞。減少すると免疫が低下する

血清クレアチニン
腎臓によってろ過される老廃物のたんぱく質。数値の上昇によって腎機能の低下が疑われる

以上のマーカーに異常が見られると、新型コロナウイルスの感染が疑われます。そして、これらの6種類のマーカーから浮かび上がるキーワードは「炎症」と「血栓」です。

新型コロナウイルスはサイトカインストームと呼ばれる免疫の暴走が起こると重篤化する

新型コロナウイルスの感染後に起こる重症化・重篤化は、体内で増殖したウイルスが臓器や器官の細胞を破壊して起こるのではありません。ウイルスの増殖がきっかけとなって「サイトカインストーム(免疫の嵐)」と呼ばれる免疫の暴走が起こり、あちこちで血液が凝固して血栓が生じることによって臓器が機能不全に陥るためです。

私たちがケガをしたときに傷をふさいだり、ウイルスや細菌などの病原体を封じ込めたりする反応の1つに「血液の凝固」があります。私たちの体がウイルスに感染すると、細胞からほかの細胞に外敵の存在を伝え、炎症を引き起こすためにサイトカインというたんぱく質が放出されます。炎症が起こると発熱や(けん)(たい)(かん)などで全身に異常を知らせます。体の中ではウイルスを排除するために免疫細胞が動員され、感染細胞の破壊や、血液を凝固して血栓を作ることでウイルスを局所に封じ込めようとしています。

出典:厚生労働省『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き改訂版』。基準値は国立がん研究センター『臨床検査基準値一覧』などをもとに作成

これでウイルスが排除されれば問題はありませんが、ウイルス増殖と排除(防御)という一進一退の過程で慢性炎症を原因とする基礎疾患があると、防御反応が過剰に働くスイッチが入ります。すると、サイトカインが大量に放出され、炎症反応が爆発的に起こるようになります。

その結果、ウイルスを封じ込めるための血液凝固が全身で起こり、血管のいたるところに血栓が生じるようになります。肺の血流が悪くなると、肺で行われるガス交換ができなくなり、息苦しくなります。腎臓では老廃物をろ過できなくなって尿毒症を発症。心臓への血管に血栓が生じれば心筋(こう)(そく)、脳なら脳梗塞。DICが全身で起こったら、多臓器不全を起こして死に至ることもあります。

「免疫」が暴走する背景には、何があるのでしょうか。世界中に蔓延した新型コロナウイルスは、特に欧米で深刻化し、多くの死亡者を出しました。欧米の惨状に比べて緩やかなのが、日本をはじめとするアジアの国々です。日本政府の初動対応は決して十分なものとはいえず、同じアジアの韓国や台湾に比べて検査体制も不十分でしたが、欧米に比べて感染者や死亡者が明らかに少なくすんでいます。

このような事実から、「日本には新型コロナウイルスの感染を防ぐ特殊な理由(ファクターX)があるのではないか」という議論が上がっています。しかしながら、中国と国境を接し、SARS(重症急性呼吸器症候群)が蔓延したときに大変な思いをしたベトナムが、今回の新型コロナウイルスでは感染者が少なくすんでいます。シンガポールは感染者の数は多いものの、死亡者数は低く抑えられています。そのため、最近では欧米人とアジア人との遺伝的な違いも指摘されるようになっています。

サイトカインストームを起こす炎症体質は肥満の人が深刻で痩せ型のメタボも同様

私が新型コロナウイルスの感染後に重症化するかどうかのキーワードとして挙げたいのが「肥満」に基づく「慢性炎症」です。新型コロナウイルスの感染にかかわらず、病気を発症させる根本原因は慢性炎症にあると考えています。 

肥満によって炎症系サイトカインであるTNF-α(アルファ)が持続的に産生されると、高血圧や動脈硬化が起こりやすくなります。いい換えると、TNF‐αを作る細胞が増えて一進一退の状態になっているときに新型コロナウイルスが一気に増殖すると、免疫の暴走スイッチが入って血液凝固系が(こう)(しん)し、血栓が形成されて急速な臓器の機能不全を引き起こすと考えられます。

日本人の「ファクターX」が、TNF‐αの生産工場というべき細胞群が少ないことなのか、あるいは暴走のスイッチを押さない何かがあるのかは分かりません。いずれにしろ、新型コロナウイルス対策には「ウイルスの増殖を少なくする」「サイトカインストームを起こさない」という2つの視点が不可欠といえるでしょう。

新型コロナウイルスに感染して重症化・重篤化すると、そう簡単には治まりません。免疫の暴走が起こって血栓が全身に生じるため、無事に生還できても(かん)(しつ)(せい)(はい)(えん)など後遺症に悩まされるでしょう。

私はいまから3年前に、慢性炎症がさまざまな病気の根本原因だということを解説した本を出版しました。肥満が不健康であることは皆さんもお分かりだと思いますが、体の中で慢性炎症を引き起こす最たるものであることは、あまり理解されていないと感じます。肥満は、世の中で思われている以上に危険で怖いものなのです。

先に紹介したように、アメリカの調査では、新型コロナウイルス感染後に重症化した基礎疾患の1つに肥満が挙げられています。肥満による慢性炎症はTNF‐αの産生を爆発的に起こし、一気に血栓を作ります。

2016年にWHOが発表した世界各国の肥満率を見ると、肥満大国のアメリカは37%、ボリス・ジョンソン首相(この方も肥満です)も感染したイギリスは29%、欧州の中でも感染者が爆発的に増えたスペインは29%、イタリアは22%と、いずれも高い肥満率です。それに対して、日本の肥満率は4%、新型コロナウイルスが発見された中国は6%と低い水準といえます。肥満大国・アメリカの感染者の間で爆発的に血流不全が起こった背景には、明確な理由があったといえるでしょう。

慢性炎症は皮下脂肪のみならず、内臓脂肪の増加によっても加速します。見た目は()せているのに内臓脂肪が蓄積しているメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)など、やせメタボの人も重症化の危険度が高いことはいうまでもありません。

肥満率の低さに加えて、日本人の重症化率が低い理由として「BCG接種」の存在を挙げる人もいます。「日本人の多くは幼少時にBCG接種を受けているから感染しても発症が少ない」という理由です。BCG接種の対象となる結核菌は、細胞内寄生細菌といってマクロファージの中で増殖します。私たちは、強毒性のヒト型結核菌に感染すると、10人に1人は結核を発症します。弱毒化したウシ型結核菌であるBCG接種によって幼児の結核を予防できますが、成人の結核予防はできないといわれています。BCG接種によって免疫を強化することはできますが、いつまで持続するかは明確ではありません。

新型コロナウイルスはウイルス増殖と免疫の暴走という2つの対策の視点が必要

先に解説したように、新型コロナウイルスの対策は、①ウイルスの増殖、②免疫の暴走という2つの面から考える必要があります。

ウイルスに対抗する免疫システムには、私たちの体にもともと備わっている自然免疫と、特定のウイルスや細菌に対抗する獲得免疫があります。自然免疫の力は人によって異なります。自然免疫の力が強い人に不顕性感染が多いのはこのためかもしれません。

病原性が高いウイルスは、自然免疫のバリアを容易に突破して増殖します。自然免疫を突破したウイルスは獲得免疫と(たい)()することになりますが、抗体ができていない段階では、容易に突破されてしまいます。

専門的な話になりますが、獲得免疫には(ねん)(まく)で誘導される粘膜免疫と、体内で誘導される全身免疫の2種類があります。粘膜免疫に働く抗体はIgAで、全身免疫で働く抗体はIgGです。粘膜免疫ではIgA抗体だけでなく、IgG抗体も作られます。一方、ワクチンを注射するとIgG抗体は作られるものの、IgA抗体はできません。インフルエンザワクチンの有効率が50%前後にとどまるのは、ワクチンによって作られる抗体がIgGだけのため、粘膜での防御が不十分だからでしょう。

ウイルスが私たちの体に侵入すると、補体やCRP(C反応性たんぱく質)が働いてウイルスを排除します。同時に援軍を求めるため炎症を誘導します。真っ先にその部位に到達して働くのが白血球の(こう)(ちゅう)(きゅう)です。ウイルスを食べるスペシャリストの好中球は寿命が短く、死ぬときに「NETs(ネッツ)」という物質を細胞外に放出します。歌舞伎役者が舞台で()()の糸と呼ばれる白い糸を投げるシーンがありますが、NETsもそのような形で抗ウイルス作用の成分を放出します。そのほか、同じく白血球の1つであるマクロファージがインターフェロンを放出してほかの細胞への感染を防いだり、ウイルスに対抗する抗菌ペプチドを放出したりします。

日本細菌学会名誉会員の熊沢博士は、今後も新型コロナウイルスに関する見解を発信していきたいと話す

冬にインフルエンザの感染者数が増えることから、インフルエンザには季節性があるといわれています。冬にインフルエンザに()(かん)して亡くなる人が多いのは、ビタミンDの血中濃度と関係があるという考えがあります。新型コロナウイルスもビタミンDの血中濃度と関連があると考えられます。

日本では長い間、ビタミンDは骨を強くするビタミンと考えられてきましたが、免疫系の細胞にはビタミンDの受容体があるほど、ビタミンDは免疫と密接な関わりがあります。

ビタミンDは皮膚の細胞で作られ、血液中でたんぱく質に結合し、肝臓の酵素と腎臓の酵素で最終的に活性型ビタミンDになります。活性型ビタミンDは炎症性サイトカインのTNF-αを作る遺伝子に結合し、TNF-αを作らないようにします。ビタミンDの血中濃度は30ナノ㌘/㍉㍑以上あれば十分ですが、日本人の実態は分かっていません。韓国では国民の7~8割が基準値以下で、ビタミンDの不足や欠乏が指摘されていることから、日本人も同じレベルと考えられます。

冬は紫外線が弱くなるため、ビタミンDの血中濃度が低下します。免疫力を維持するためにはビタミンDのサプリメントを利用するといいでしょう。

肥満を防ぐ運動と炎症体質を改善するファイトケミカルズとビタミンDを摂取

新型コロナウイルスに対して、私たちが取り組めることは、自然免疫を高め、体内で慢性炎症が起きないようにすることです。肥満やメタボリックシンドロームを避けることで、慢性炎症の原因となる炎症性サイトカインの増加を防ぐことができます。新型コロナウイルスの重症化は炎症性サイトカインであるTNF-αが爆発的に作られるためです。爆発的なTNF-αの生成が起きないようにするのが、植物成分であるファイトケミカルズです。

ファイトケミカルズはフラボノイドだけでも7000種類もあり、抗炎症作用はすべて同じではありません。ファイトケミカルズの中でもタマネギの皮や赤ワインに含まれるケルセチンは、TNF-αの産生を抑制する働きがあります。新型コロナウイルスによる重症化を防ぐには、毎日の食生活に気をつけることが大事です。